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改造怪物スイーパー  作者: いちご大佐
第1章 新しい居場所、新しいカラダ。
9/59

第5話 空腹怪物ハングリー

 ━AM 1:25 『地下基地』広間・キッチンスペース━


 ガサゴソガサゴソ……

 誰かが冷蔵庫を漁っている。…まあ誰かといえば俺だが。

 何故だかハラが減って仕方がないのだ。

 勝手に冷蔵庫を漁るのはよくないだろうが、そんなことがどうでもよくなるほどハラが減っていた。食わねば。俺の本能がそう呻いている。

 食料は豊富にあった。ニンジン、タマネギ、豆腐、食パン、バター、豚肉、卵、味噌……。

 まずはアブラを摂らねば。銀紙に包まれたバターを取り出し、俺はそれにかぶりついた。勝手に食ってはいけないと思いつつも、口の周りを汚しながらバターを頬張るのが止まらない。結局半分ほど残っていたバターを全部食べてしまった。

 次はパンとニクを食わねば。食パン2枚に味噌をべっとりと塗りたくり、片方に卵、もう片方に生の豚肉を乗っけてサンドする。そして卵を押し潰しつつそのまま口に押し込んだ。

 肉が生だとか、こぼれて手や床を汚してしまっているだとか、気にしてられない。ハラを満たすのが最優先事項だ。


 ひとしきり食ったらその場に座り込んで少し落ち着いた。

 ああ、結構食べてしまったな、貴重な食料だったろうに。床を拭きつつそんなことを考える。これは追い出されても仕方ないかもしれない。

 よくよく考えたらなんでそんなに腹が減ってたんだ。この体になって食べる量が増えたような気もするが、代謝操作で傷を治した反動だろうか。そういえば、あれで結構体中の栄養を持って行かれたような気がする。

 学がないのでよく分からないが、垢が出て、傷が一気に治って、爪や髪も若干伸びた、これが代謝というやつだろうか。代謝を早めた結果こうなったという感じかな。

 椅子に座り直し、目を閉じる。程よくからだが疲れている。

 腹の中に意識を集中させると、胃袋が活発に動き、食べたものが掻き混ぜられ消化されていくのが分かった。そして胃袋の中身が腸へと少しずつ押し出され、吸収されていく。栄養が体の隅々まで運ばれていく。

 不思議と自分の体の中の様子が手に取るように伝わってきた。これもサイボーグ化の影響なのかもしれない。

 何の気なしにテレビをつけるが、砂嵐しか映らない。アンテナがないから当然か。そういえばここに来てからテレビ見てないや。


 俺の意識は砂嵐にかき消されるように、そのまま薄れていった



 ━AM 2:03 A市 不良の溜まり場━



「お前、古庄だな? ダチのお礼はキッチリさせてもらうぜ……」


 お前達なんて知らん、と古庄恭弥(フルショウキョウヤ)は心の中で突っ込んだ。五人の屈強な男たちが行く手を塞いでいる。

 現れたのはいつかどこかで自分が喧嘩を売った誰か、のお友達だろうか。相手の一人が雄叫びをあげながら、その場にあった鉄パイプで殴りかかってきた。

 極めて直線的な攻撃を難なく回避し、真似をするように落ちていた鉄パイプを拾い上げる。

 血の気盛んな男が再びパイプを振り下ろし、恭弥がそれに応えるように、拾った得物で受け止める。

 金属のぶつかる音が鋭く響く。激しく叩き合うでもなく、単純な力での押し合いになった。


「お前のせいでな、アイツはまだ暫く病院から出られねぇんだよ。何が能力者だクソバケモンが!」


 パイプで押し合いながら喋りかけてきた。恭弥は溜息一つ吐き


「知るか阿呆」


 それだけ言って、能力を発動。

 触れ合っていた鉄パイプに高電圧が掛かり電流が流れる。相手の腕はバツン! と音を立て手首から先が焼けて消し飛んだ。恭弥は無傷、自分の能力で傷つくことはない。


「お前ら頭ん中青春ドラマか。何がダチのお礼だ気持ち悪い」


 その場に男達の怒号が響く。しかし怒号は直ぐに断末魔へ変わり、物の数分、声を上げる者はいなくなった。その場に残るのは五つの屍と肉の焼ける臭いのみ。

 それと、その様子を眺める二人の人間。


「流石にやりすぎじゃないの?」

「大丈夫だろ。目撃者はオレとお前だけだ」

「ハハ、それもそうだな。でも死体は適当に処理しとこうぜ?」

「チッ。めんどくせぇ」


 元々この場は不良の溜まり場として知られており、この場に近寄る者は殆ど居ない。二人は、(というより恭弥は)数十分間屍肉を電撃で焼く作業に没頭した。辺りに酷い臭いが充満するが気にしない。

 物言わぬ屍は炭塊になり、二人によって川に流され、最後には海の藻屑となった。



 焼屍臭はやがて降った雨に洗い流され、二人の外に今夜の出来事を知る者はいない。



 ━AM 4:55 『地下基地』居住区・女子部屋━


 キャルメロの朝は早い。

 メンバーの誰よりも早く起きて朝食を用意するのが彼女の日課である。他のメンバーを起こしてしまわぬよう目覚まし時計を鳴らすことはない。

 今日も朝一番に起き、同じ部屋に眠る三人の寝顔を確認。これも彼女の日課である。

 キョウコの整った寝顔とミサキの寝苦しそうな顔、そしてまだ幼いヒメの健やかな寝顔、いつも通りだ。

 いつも通りの光景に安心して、そっと部屋を出た。まだ寒いので毛布で体をくるんだままだ。

 広間にて、ふといつもと違う光景に気付く。

 つけっぱなしの電気、テレビは砂嵐を映し出しており、その前に置かれたテーブルに突っ伏し眠っている人影がある。つい最近仲間入りした新メンバーの『菅原リョウ』だ。

 一応寝顔を確認し、まだ自分の体温が残る毛布をそっとかけた。間近に見ると結構童顔だ、と思った。


 それから静かにうがい、洗顔、髪の手入れを済ませ朝食の準備を始める。

 冷蔵庫を開けると中身が減っていることに気付いた。状況からして理由は容易に想像がつく。


「あらあら、食いしんぼさんねえ」


 困ったように独り言を言い、しかし悪い気はおきない。元より彼女は世話好きな性質であった。 

 淡々と朝食を拵えるその様は、宛ら子を持つ母のようである。


 ・


 ・


 ・


━AM 11:09 電車内━


 俺たち三人は予定通り、電車でA市に向かっていた。

 ちなみに冷蔵庫の中身を食い荒らしたことに関してはノータッチだった。その場で寝てしまって、起きたら誰かが毛布をかけてくれてたし、バレてないということはないだろう。


「後どれくらいで到着しますかね?」

「30分ってところだろう」


 まだ時間がかかりそうだが景色を見るのもいい加減飽きてきたな。

 生憎ながら暇を潰せるものは持ってきてない。持ってきているのは幾つかの着替えと歯ブラシ、それとリーダーからもらったリボルバーだけである。当然ながら火薬銃なんぞ持つのは初めてで暴発が怖いので、念の為着替えで包んでいる。

 ドクターは何が入ってるのかわからない怪しいアタッシュケースを持ってきていた。中身が気になるが聞いたところで答えてはくれないだろうし、周りに人がいるので変なことは聞かないほうがいいだろう。

 リーダーは俺と変わらないくらいの小荷物だが、幾つか小説等の読み物を持ってきているらしい。今も静かに推理小説を読んでいる。俺は読み物はしない性質なので熱心に活字を追いかける人の気が知れない。

 俺は外を眺めて左から右へ、リーダーは本を眺めて上から下へ、ただ無言で視線を動かす。退屈だ。


「ひっく……」


 おや? ドクターの様子が……。


「あの…ドクター、顔真っ青ですが大丈夫ですか?」

「何だ、酔ったのか」

「うっぷ……」

「ほらエチケット袋だ、いざとなったらこれに吐け」


 用意周到、さすがリーダー。

 ドクターはすかさずエチケット袋を受け取り……


「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」

「ちょっ、せめてもうちょっと静かに! しめやかに!」


 酸っぱい臭いが充満し車内の視線がこちらへ釘付けになる。

 なんとも居た堪れない空気だ。幸いなことに、次の駅が目の前に見えている。


「仕方ない……次で降りよう」

「そうっすね」

「ぼぼぼぼぼぼぼぼ」


 痛い視線を背中に浴びながら電車を降りた。

 いっぱいになった袋を適当に処理しベンチに座って一休み。まあ座席でじっとしているのにも疲れてきたところだったし、良しとしよう。

 暫くしたら酔いは覚めたようだ。


「どうします? 乗り直しますか?」

「いや、どうせ降りる予定だった駅は二つ先だ。乗り直すのも馬鹿らしい。歩きながら安宿を探して部屋を取る。それから行動開始だ」


 そんなわけで駅から出て散策開始。とは言っても既に泊まるところの目処はたっており、無駄に歩き回るようなことはない。

 リーダーがスマートフォンでホテルを検索し、場所や値段で絞り込む。そんなこんなでひとまずの活動拠点となる安宿が決まり地図を見ながら移動。便利な時代だ。

 途中ファミレスに寄って軽食をとったり、ベンチに座って外出に慣れてないドクターを休ませたりしながら、見慣れぬ道をのろのろと歩いく。



 結局目的地に着いたのは午後2時前であった。一泊4000円の何の変哲もない普通のホテルである。安いかどうかは知らん。

 入った部屋には布団が4つまで敷ける程度のスペースと、硬貨投入口のついたテレビが有るのみ。窓からは赤い電波塔が見える。ここを三人で使うようだ。どうせ泊まるだけだし不自由はないだろう。


「それでは今日から暫くここを活動拠点とする。まずこれを見ろ」


 早速作戦会議が始まった。自販機で買ったお茶で喉を潤し気を引き締める。

 リーダーが鞄から取り出したのは一枚の似顔絵、金髪でピアスの知らない青年が描かれている。彼が今回の標的ターゲット古庄恭弥フルショウキョウヤだという。

 今から俺は見ず知らずのコイツを殺しに行くわけだ。当然彼に恨みなどない。ただ殺せば金がもらえる、殺さねば金は貰えず生活に困る、それだけのシンプルな理由である。

 勿論殺人は犯罪だとは言うまでもないな。殺す俺達は犯罪者だし殺されるコイツも同じく犯罪者だ。

 前回の依頼で俺は標的を殺しかけている。あの時は殺す必要はないとのことだったが、今回は違う。殺して初めて依頼達成だ。

 そりゃ当然迷いはあるよ。数週間前までは俺も法を守って生きる善良な市民だったからな。だがリーダーに『殺しは遊びじゃない』と言われて冷静になれた。今なら冷静に任務を遂行できる気がする。


「……というわけなんだが。リョウ、聞いてるか?」

「あ、はい。続けてください」

「うむ、ドクターはこの部屋で待機。トランシーバーを渡しておく、何かあったら指示をだすので、それに従って動けばいい。

 リョウは私と標的の追跡及び始末を行う。以上だ。行動開始」


 前回は作業着で行動したが今回はスーツに着替える。拳銃を持ち歩くので内ポケットがあったほうが便利だからだ。成る程ドラマに出てくるヤクザは常にスーツを着ている気がする。

 因みにこのスーツは孤児院から出たときに買ったものだ。自分で選んだので結構気に入っている。


 部屋から出る前にリーダーが拳銃の使い方を教えてくれた。弾薬を火に近づけるなだの、実際に撃つとき以外はトリガーに指をかけるなだの、安全な取り扱いについてだ。こういう基本的なことは大事にしていきたい。


 それが終わるとドクターを部屋に残して外に出る。リーダーが依頼主から標的についての情報と、周辺の地理について聞いており、標的キョウヤが居そうな場所を一通り見て回ることになった。

 まず最初に向かったのは標的キョウヤの住むアパートだ。ホテルから徒歩15分程の場所にある。

 5階建てのアパートで308号室に住んでいるらしい。アパートの外周を一回り歩いて様子を伺う。怪しいところは何もない。


「部屋の中はどうだ、誰かいそうか?」

「うーん、ここからじゃちょっと分からないですね」

「仕方ない、インターホンを鳴らして確かめてみよう」


 リーダーはそう言って帽子を被り、鼻に絆創膏をつけた。変装のつもりだろう。リーダー曰く、帽子と鼻絆創膏という分かりやすい特徴を作ることで、逆に顔を覚えられにくくなるらしい。

 俺はアパートの下の駐車場で待機。誰も出てこなかったらしく、程なくしてリーダーが戻ってきた。


「外出中のようだ。張り込みを続けてもいいが、初日だしとりあえず次の場所を見てみよう」


 なんだか警察にでもなったようだな。調子に乗ってしまいそうだ。

 次に向かったのは、夜になると不良がよく屯しているという場所だ。

 陸橋の下で人目に付きづらく、ここから先に行っても行き止まり。なので人が通ることは殆どないらしい。鉄パイプやら注射器という分かり易いものから、ロープやガムテープといったあまり使い道を想像したくないものが落ちている。

 この場で下衆な悪事が行われてきたと思うと途端に胸糞悪くなってきた。

 リーダーは地面を見て何か考えている。


「なんだこれは、地面になにか焦げてこびり着いてるな。人間でも焼いたのか?」

「不吉なこと言わないでくださいよ……」

「すまんすまん。軽い冗談だ」


 笑えない冗談だ。


 ともあれこの場所もだいたい見終わり、次の場所へ行こうか、と踵を返すと



「おお? 何だこんなところに居たのか」



 言ったのは俺でもリーダーでもない。

 声がしたのは後ろから。行き止まりだったはずの方向からだ。

 後ろに二人の人間が立っていた。


「お前ら、例のスイーパーとか言う奴だろ。情報屋の言ってたとおりだな」


 同じくらいの歳と思われる二人組。金髪ピアスと黒髪の知らない奴ら。

 そいつらを見てリーダーが急に殺気立った。


「古庄ッ……!」


 言われてみれば金髪の方は標的の似顔絵に似てるかもしれない。って、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないな。本来俺達が後ろを取らねばならないはずの標的、古庄恭弥フルショウキョウヤその人に、後ろを取られていた。

 リーダーが銃を抜こうとするも、瞬間「タタタンッ!」という音がして動きが止まる。何も見えなかったが、今のは電撃か。

 マズイ、何故、いつからそこに、もう一人は誰だ、そんな疑問が頭に浮かんだが


「まあ、どうでもいいか」


 注意はリーダーの方に向いている。

 俺は考えるよりも早く懐の得物を抜き、獲物に向けて火を吹いた。




※キャラデータ※

名前:キャルメロ

性別:女性

年齢:三十路

肩書:メンバーの母親的ポジション

   料理上手

能力:???

備考:金髪・小麦肌の外国人。おっとりめでちょっとショタコン。胸はそこそこ大きい。

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