幕外之話 モノログダイアリ
2016/04/27 挿入投稿しました
日記。
2月12日
「『菅原リョウ』を捕獲せよ」という依頼が入った。いつも通り某氏からの依頼、しかし始末でも無力化でもなく捕獲、某氏にしては珍しい内容だ。標的の人物像も謎。捕獲した後は好きにして良いそうだ。好きにしろと言われても困るが。一つ気がかりなのは、いや何とも信じがたい話だが、どうやら××××××××
標的が生活しているという孤児院を調べてみたが、山を削った土地に作られたらしく、出入りの度に急勾配の坂を上り下りしなければならない。これでは侵入は無理、向こうから出てくるのを待つしかない。
2月15日
昨晩、標的の捕獲に成功した。暫く泳がせて観察したが、何故かスーツを買ってコンビニを訪ね歩いていた。バイトでも探しているのか。まあそれはいい。見たところ行動が少々意味不明なこと以外は普通の少年だ。スーツでブランコに乗っていたところを、麻酔銃で難なく仕留めた。やはり某氏の言っていたことはあまりアテにならない。問題なのは捕獲した此奴をどう扱うかだが、キシダの奴が「実に興味深いサンプルだ」だの言って引き取った。人体実験に使うらしい。相変わらずアブナイ奴。正直、奴とはあまり関わりたくない。ところで人一人誘拐したら普通は大問題だが、某氏曰く、孤児院自体に少々問題があり揉み消すのは容易いという。某氏には何かと世話になっている身でアレコレ言えないが、こっちもこっちで不気味な奴だ。今更なのであまり気にしないようにしているが。
2月17日
一昨日からキシダが基地に入り浸っている。人体実験とやらで忙しいようだ。時折、手術室から生臭い臭いが漂ってくる。手術室から出てこないとは言え、いつも居ない奴が居ると何だか変な雰囲気になる。少し基地内の空気がピリピリしていて居心地が悪い。早いところ済ませてもらいたいものだ。ところでドクターですら食事時には広間に出てくるのに、キシダは出てくる気配がない。一体いつ食事をとっているのだろうか。謎だ。
2月20日
一般人からの依頼が入った。内容は「C市に観光に来たとき形見の懐中時計を紛失したので探すのを手伝ってほしい」というものだ。こういうマトモな依頼は久々な気がする。ある程度信頼関係を築けている某氏は別として、変な仕事は受けないように、一般人からの依頼は慎重に検討せねば。形見。早く見つけてやりたいものだ。今回の紛失物捜索もニトーに任せるとしよう。ハッキングとか怪しいことは控えてもらいたいが、タダ飯食らいを養う余裕はなし、こういう時こそ働かせてやらねば。
2月23日
実験に一区切りついたようで、キシダが度々広間に入ってくるようになった。終わったのならさっさと帰ってほしいが、まだ被検体の経過観察が必要らしい。人体実験だなんて言うから、てっきりもう死んでしまっているものだと思っていたが、生きていたのか。
まさか本当に××××××?
じきに目を覚ますようなので、メンバーの皆には「新しい仲間として迎え入れる」と説明しておいた。
2月24日
キョウコの顔に新しいアザが出来ていた。ここ数日目に見えて苛立っていたがやはりミサキの仕業だろう。また環境の変化について来れなくなっているようだ、仲間にするだなんて迂闊に言うべきではなかった。最近になって漸く落ち着いてきたところだったのに。お陰で更に基地の空気が悪くなってきた。リーダーとして何とかするべき、だとは思うが、何もできないのが歯がゆい。
2月25日
ミサキがヒメを叩いた。叩いたというよりは、暴れて振り回した手が当たったような形だが、幼いヒメには衝撃が強かったようだ。泣きじゃくるヒメをキャルメロが宥めた。ミサキはミサキで自責の念に駆られ感情のコントロールを失ってしまった。今も女子部屋から殴る音や唸り声が聞こえている。ミサキの為にもキョウコの為にも、こんなこと止めさせるべきだ。当然分かっている。だがお互いがそれで納得しあっている以上「止めろ」だなんて言えない。リーダーとは名ばかりに、見ているだけしか出来ない自分に腹が立つ。歯がゆい。
2月26日
ミサキが今度は包丁を持ち出した。昨晩調理場を漁っているところを、偶然目撃。包丁で何をしたかったのかは結局分からず終いだったが、未然に止められてよかった。しかし安心も束の間、ホストが倒れた。彼奴は人一倍周りの空気に敏感だ、ピリピリした雰囲気に当てられて睡眠不足だったらしい。一日だけ、静かな私の部屋と寝床を交代することにしよう。私に出来るのはこの程度だ。
2月27日
メガネと『菅原リョウ』について話し合った。今までと違い、某氏からはどんな人間かも聞いていない、何故捕獲対象となったのかもあやふやに誤魔化された。はっきり言って得体が知れない。このまま奴を仲間としていいのか。奴が来てからというもの嫌なことばかり起こる。気にしすぎか。だがメガネも余り歓迎はしていないようだ。人が一人増えればその分、飯も報酬の分け前も減る。当然だ。今の人数でも日々の生活がやっとなのだから悪戯に仲間を増やすのは控えるべきだろう。奴は貧乏神かもしれない。いっそ目を覚ます前に×してしまおうか。やるなら麻酔で眠っている今のうちだ。
2月28日
あれは何だったのか?
私は、キシダが居らずドクターが居眠りしている隙を見て、人工呼吸器を外そうとした。眠っている筈の菅原リョウの顔にそっと手を
菅原リョウが突然目を覚ました。私の手を掴んで何かを言った。
「アサイ」
確かそう聞こえた。言った後は再び眠ってしまったが。朝井?浅い?一体何だったんだ。私が浅はかだとでも言うのか。しかし、奴が目を覚ました一瞬、奴の瞳には知性の光があった。あの時、もし呼吸器を外してしまったら皆から白い目で見られたことだろう、確かに浅はかな行動だったかもしれない。
それと、今日もミサキが包丁を持ち出した。だが誰かを傷付けたのでも自傷したのでもない。ジャガイモの皮を剥こうとしていた。不器用な手つきで剥こうとして、結果自分の指を切っていたが。どうやら先日のことを『料理』という形で詫びようとしていたらしい。不器用なミサキらしい詫び方だ。晩のおかずにポテトサラダが追加された。
3月1日
今度こそ本当に、菅原リョウが目を覚ました。昨日まで人工呼吸器を付けて昏睡状態だったというのに得体のしれない回復力だ。キシダ曰く改造手術をしてサイボーグになったという。そんな大昔の特撮みたいな話、あってたまるか。当のキシダは覚醒処置をした後すぐ何処かへ行ってしまったし。まあ、奴が居る間は何かと落ち着かなかったし良しとしよう。
それにしても此奴、人の顔を見る時まるで「見ているようで見ていない」という感じだ。目を合わせてもその実感がないというか、何か変だ。しかし目を覚ましてしまった以上仕方がない、今日から新しいメンバーだ。あくまで仕方なくだ。タイミングよく某氏の依頼が来たので手伝わせて様子を見るとしよう。内容は野犬駆除及び動物使いの少年の無力化。難易度的にも手頃だろう。
3月5日
動物使いの一件が完了。菅原リョウの異常性が垣間見えた気がする。動物に対して容赦がない、それどころか少年すら平気で殺めようとした。突然非日常に巻き込まれた反動で一時的に箍が外れただけか。無くはないが、それにしたって良識というものが欠けている。まだ数日しか経っていないが、麻酔から一瞬だけ目を覚ましたあの時とは、日頃の雰囲気もまるで違う。キャルメロなどはやけに気に入ってしまっている様だが、他のメンバーとはあまり関わらせたくない。とは言え、疑うばかりでは何も進展しないから一つ与えてみた。銃だ。自分でも危険な一手だとは思うが、これで奴の中に緊張感と、責任感と、多少の帰属意識が芽生えてくれれば万々歳。
早速某氏からの依頼が来た。内容は電気操作能力を持つ標的『古庄恭弥』の始末。いきなり殺しの仕事は酷かもしれないが、後々になって精神を病まれて逃亡等されても困る。仕事には早く慣れてもらわねば。まあ、奴には無用な心配かもしれないが。
気分転換にいつもの居酒屋に行ってきた。出汁巻き卵はいつも通り美味くて、酒はいつもより苦かった。