第41話 観測不能のイフⅢ・前編
「ミケ」
『何でしょう』
「俺はあと何回繰り返せばいい」
『分かりません』
「何故繰り返させる」
『知りません』
「お前がやらせているのではないか」
『違います』
「ならこの空間は何だ」
『ここは記憶をアーカイヴするだけの空間です』
「つまり俺が繰り返すのをお前が観測して記録しているのか」
『はい』
「理解した」
同じ会話を何度行っただろう。
この問答には意味がない。お互いがその会話の内容を既に知っている。だが、全く同じ会話を、ただの偶然で何度もやってしまうくらいには、永い時間を彼女と共に過ごしているのだ。
ーーーーー
「う……」
じわじわと意識が覚醒していく。
どうやら深く眠っていたらしい。
「目が覚めた? ここが何処か……分かるわけないわよね」
寝起きで視界がぼやける中、誰かが顔を覗き込もうとしているのが見えた。小麦色の肌に、色の薄い金髪、顔面に複雑な模様が描かれていて、眼球が真っ黒く……『何だこの生き物は!』。
驚き飛び起きる。寝起きなので実際にはとても緩慢な動きだったろうが。とにかく、目の前に謎の生命体が居たのだ。
「ひっ……」
「あらごめんなさい。驚かせちゃったかしら」
徐々に視界がクリアになる。謎の生命体をよくよく見ると、やはり人間だった。ただ、全身をタトゥーやピアスで飾っておりもはや原形が分からないレベルになっている。
そして漸く状況を把握するに、どうやら病院らしい。起きたら清潔なベッドの上。腕には点滴。彼女(人外的な容姿だが女性であることは分かった)の後ろには、医者と思しき二人の男が何かの作業をしている。
彼女はずいと顔を近づけてにっこりと笑う。
「あなた歳は幾つ?」
「じゅ、十五です」
「ふぅん……ちょうど食べ頃ね」
「ひぇ」
「うふふ、冗談よ。ホントに食べられちゃうと思ったの?」
思わせ振りに舌なめずりをする彼女の舌は、蛇の舌のように、二又に割れていた。その舌先が交互にぴろぴろ動く様をわざとらしく見せつけてくる。器用だ。
……などと感心している場合ではなかった。
「あの、貴女は誰で、あと、俺は何でこんなところに?」
「ここは病院。そっちにいる白衣の二人がお医者さんで、あなたと私は患者。私の名前は『キャラメリゼ・メロディ』。オーケー?」
「きゃらめりぜ……って芸名か何かですか?」
「それよく訊かれるけど本名なのよねこれが」
「あっ。失礼しました」
「気にしないで。因みに普段は『キャル』とか『キャルメロ』とかの愛称で呼ばれているわ。あなたも好きに呼んでね」
『キャルメロ』はどう見ても外国人だがとても流暢に喋る。
「ていうか何で俺入院してるんですか」
「あら……やっぱり記憶が飛んでるのね」
「……もしかして」
やはりここに運ばれる直前の記憶がないが、何となく嫌な予感がして、服の上から自分の腹をさすった。やけにスカスカする。麻酔が効いているらしい。
俺は、恐る恐る、服を捲り上げる。
首から下の六割ほどが血の滲んだ包帯やガーゼで覆われ、その周囲の肌はどす黒く変色していた。それに所々異物感がある。どうやら身体の中に、ボルトのような固定具が幾つも埋まっているらしい。ソレを見て漸く俺は『痛み』に気づいた。ジワジワ到来する激痛に絶叫。脊椎を雷にでも貫かれたような錯覚がして身体が勝手に暴れてしまう。
脳内を掻き回す痛みの嵐。痛覚以外のあらゆる感覚が妨害される。……しかしその中で、微かに温かいものを感じた。誰かが手を握っている。嵐の中で遭難しないよう誰かが呼びかけてくる。キャルメロだ。俺は、歯を食いしばり、顔面を汗と涙と鼻水で汚しながら、何とか耐えて呼吸を整えた。
一瞬正気に戻った隙を見て、医者が俺の腕を掴み注射を打った。痛みが少しだけマシになる。
「モルヒネを打った。話くらいはできそうか」
「ふぅっ……ふぅっ……は、はい、何とか……」
「じゃあ手っ取り早く説明するぞ。まずオレは医者の『キシダ』だ。宜しく」
「よろしく、お願いします」
「うむ。それでお前の身に起こったことだが。簡単に言や、交通事故だ。トラックに轢かれてグチャグチャになって死にかけたところ、救急車に運ばれて一命を取り留めたんだが……一つ確認して良いか」
「?」
「お前、『無戸籍』だな?」
「ノー……パン?」
「ノー番。無戸籍。要するに、捨て子か何かだろお前」
「ああ、はい。孤児院で暮らしてます」
「孤児院? ふむ、孤児院に入ってて無戸籍なんてことは無いはずだが……。まあいい。とにかく身元不明のお前を引き取る奴が居なかったもんで、ウチで引き取って医療費諸々を立て替えておいたぞ」
「……待ってください。ここは病院じゃないんですか?」
「ここは研究所兼『闇』病院。オレは医者は医者でも無免許の『闇医者』だ。普通の病院に行けないワケアリ連中を看る傍ら、病院たらい回しにされて行き場のないお前みたいな患者を引き取ったりもしてる。慈善事業みたいなものと思ってくれ」
「慈善事業ですか。……あの、医療費建て替えたってのは。俺、多分保険に入ってないからハンパない額になったはずですが」
「だろうな。ま、孤児院とやらに請求させてもらうとするさ」
「請求するんですか!?」
「当たり前だろ……」
ある程度の事情は理解した。どうやら俺は、社会的には存在しない人間らしい。闇医者とやらを信用すべきか分からないものの、とりあえず死ななかったことを前向きに捉えることにした。
それから数週間、絶対安静の入院生活。
ベッドで寝る以外にすることがない。そもそも立てない。娯楽が欲しい。しかしテレビはない。本はあったが読む気が湧かない。栄養補給は点滴から。消化器系が物理的にズタズタなので食事もとれない。あまりじっとしていると血栓とやらができるらしいので、キャルメロに介助してもらい、二時間置きに身体の向きを変える。
キャルメロと言えば、彼女と雑談する時間が唯一の娯楽か。
彼女はとてもお喋りで色々な話を聞ける。
「キャルメロさんは……」
「愛称にさん付けって変な感じね。呼び捨てで良いわよ」
「あ、はい。キャルメロは、その、なんでここに?」
「見て分からないかしら」
「タトゥーを入れにきたとか?」
「逆ね。消しに来たの。ほらこの辺とか、痕が残ってるでしょう。タトゥーを剥いで新しい皮膚を移植したのよ」
「成る程……もしかして全身消すつもりなんですか」
「そうね。ピアスやタトゥーだけじゃなくて、剥ぎ取り、埋め込み、人体吊り下げ、大体の人体改造はやってきたし、それを全部なかったことにするつもりなの」
「何でそんなことを」
「何でって……ま、若気の至りってやつよ。それで急に正気になって辞めたくなったの、こういうの。馬鹿みたいな話よね」
「ふぅん。そもそも何でタトゥーとか人体改造? みたいなことやるんですか? 正直怖いというか、そのレベルになるとファッションとか言えるようなものには見えないんですけど」
「随分率直に言うのね。そういうの好きよ。うふふ」
「ごめんなさい」
「いいの。当然の疑問だわ。確かに、最初はファッションのつもりでやるのだけど、そのうち人体改造そのものが楽しくなってくるのよね」
「楽しくなるんですか。痛そうにしか思えないんですが」
「痛いのが良いのよ。痛みってね、慣れると段々気持ち良くなってくるの。でも慣れるともっと激しいのが欲しくなっちゃうからエスカレートしていっちゃうのよね。痛みに耐えて、気持ち良くなって、その痕が身体に刻み込まれるのに達成感なんて感じちゃったりして、次が欲しくなる。そうして人体改造に依存していくの」
「想像もつかない話だなぁ……」
「分からなくていいわこんなの」
この人体改造の話は特に興味深いものだった。
自分の知らない世界の話を聞くのは、楽しい、と思う。特に「他の人間がどういうことを楽しく感じるのか」という話題には深く聞き入ってしまう。他人の楽しみを想像したり真似したりしている間はマトモな人間で居られる気がするのだ。何せ俺自身は、空っぽでつまらない人間だから。
闇病院に入院してから大体1ヶ月。
流動食を食べられるようになった頃合いに、医者のキシダが問診に来た。
「身体の調子はどうだ」
「強いて言えば流動食が不味いです」
「そうかい。この分だと拒絶反応の心配はなさそうだな」
「拒絶反応とは?」
「ん、言ってなかったか。というかキャルメロから聞いてないのか?」
「いや何のことか分からないのですが」
「悪い悪い。実はな、お前の内臓、ここに運ばれた時点で大部分が駄目になってたんだわ。正規の病院でできたのは応急処置までで、無戸籍のお前に移植できる臓器はすぐには用意出来なかったらしい」
「移植……」
「そうだ。奇跡的に即死は免れたが、腸の九割が吹き飛び、胃・片肺・肝臓・腎臓が破裂して使い物にならなくなってた。それをウチで移植したんだよ」
「いや移植できる臓器が無かったんじゃないですか」
「正規の病院ではな。オレは闇医者だぞ?」
「!」
「まず肺はウチで開発した人工肺を取り付けた」
「!?」
「それから胃・腸・肝臓の一部と腎臓一個を生きた人間から拝借した」
「!?!?」
「元通りとはいかないが、最低限人間らしい生活には戻れるだろう。キャルメロに礼を言うこったな」
「!!!!!!!!!!!!」
俺は歩行器を掴んで病室を飛び出した。
ここに来て初めて病室の外を見たが、普通の民家のような作りになっていた。どうやら民家の一室を改造して病室にしていたらしい。手近なドアを片っ端から開けていくと、もう一室病室を発見。キャルメロはそこで寛いでいた。
「キャルメロさん!」
「さんは要らないわよ」
「キャルメロ、お腹を、お腹を見せて」
「なぁにいきなり。お腹好きなの?」
「ちが……」
「冗談。お医者さんから聞いたのでしょう」
「やっぱり本当に」
「本当よ。ほら」
キャルメロがシャツの裾をたくし上げる。
露わになるタトゥーにまみれた褐色の肌。その腹部に、大きな手術痕があった。
何か言おうとしたが言葉は出ない。
「スタイルには自信があるけどそんなに見られると照れるわね」
「その、大丈夫なんですか。内臓を取ったって」
「死んじゃう程は取ってないわ」
「それでも……よく分からないけど全く無事なわけではないでしょう?」
「良いの別に。これが最後の人体改造よ、好きにさせて」
「……ごめんなさい」
それ以上は何も言えなかった。
俯いて突っ立っていると、キャルメロが微笑みながら手招きをしてきた。何のつもりか知らないが、たくし上げたついでに何故かシャツを脱いだらしく目のやり場に困る。俺は目線を、腹部の傷跡から、タトゥー、黒いレースの下着、またタトゥー……と泳がしながら、彼女のそばに寄る。歩行器での移動が焦れったい。
何の用か聞こうとした瞬間、強く腕を引かれた。
そしてベッドに押し倒される。
彼女が俺の腰の上に跨がった。
彼女は、俺に覆い被さるような形で密着して、耳元で囁いた。
「私、妊娠できない身体なの。だからね……
……中で出して?」
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漸く息が整ってきた。
キャルメロは赤子でも抱くように俺を懐へ抱き寄せて、優しく頭を撫で続ける。彼女の胸は温かく、柔らかく、優しい心音が伝わってくる。濡れるような体温と花々しいシャンプーの香りに包まれて思考力が働かない。
「私あなたみたいな子が好きよ」
「ごめんなさい」
「可愛らしくて幼さもあって、どことなく必死な感じ。守ってあげたくなっちゃう」
「ごめんなさい」
「……もしね。あなたが申し訳なく思っているのなら、お願いを聞いてもらってもいいかしら。あなたとね、時々はお友達みたいに遊んだり、時々は家族みたいに団欒したり、そんな風に仲良くしたいの。それだけでいいの。いいかしら」
「…………はい」
「約束ね。小指を出して」
白い小指と小麦色の細長い小指が絡み合う。
「ゆーびきーりげーんまん」
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闇病院に入院して三ヶ月。歩行器無しで歩き回れるまでに回復した。いよいよ退院である。
ひとまずは孤児院に帰らねばならないが、その前に、キャルメロと一緒に街をぶらつくことにした。デート……ということになるのだろうか? 仲良くすると約束はしたものの、孤児院に戻った後もその関係を続けられるとは限らない。なので、退院祝いがてらデート(仮)をしておくことになったのだ。
ゲームセンターで遊び、カラオケで歌い、軽くショッピングをした後、ちょっとお洒落なカフェでアフタヌーンティーを嗜む。年は十歳以上も離れているらしいが、まるで恋人にでもなったみたいだ。
「楽しい?」
「はい」
「うふふ、良かったわ」
彼女はこの日のために、首から上のピアスをすべて外し、顔面のタトゥーを優先的に取り除いていた。衆目を集めないよう配慮したらしい。おかげでぱっと見その辺に居そうなごく普通の外国人だ。まあ、服の下は相変わらずゴテゴテだが。
しかし改めて彼女の素顔を観察すると、こう、目鼻立ちがすっとした外人顔で、それでいて輪郭が柔らかくて、「整っている」という感じだ。口元にある黒子が妙に艶っぽい。俺は人の顔を見分けるのが苦手だが、それでも多分これが美人というやつなんだろうな、ということは分かった。
静かにティーカップを傾けるキャルメロ。ふと目が合う。
「ふふ、私の顔に何か付いてる?」
何だか気まずくて目を逸らす。
それもそれで不自然だろうかと思い、改めて目線をやると、また目が合う。彼女は悪戯っぽく微笑みながら舌をちろちろさせた。蛇舌は相変わらずのようだ。何かいけないモノを見せつけられたような錯覚がして、他の誰にも見られてやしないか、思わず周りを確認してしまった。そうして目線を戻すとまた目が合って、可笑しくなって笑い合う。
とても充実した時間だった。
特に好きでもない珈琲を、店を出るまでに三杯も飲んだ。
腹ごなしがてら街から少し遠いところまで散歩した。他愛もない会話をしながら歩いていたが、ふとした拍子にお互い無言になる。そこでキャルメロが、徐に擦り寄ってきて、俺の手を握った。
「あ」
「いいでしょ?」
「誰かに見られたら……いや、見られて困る人はいないか」
「うふふ」
彼女の手はしっとりとして温かかった。
身長は十センチちょっとだけ俺が高い。ブロンドの髪から、花の匂いがふわりと香る。その香気が鼻腔を擽って頭の奥の方がチリチリと痺れた。ベッドに引きずり込まれたときと同じだ。何と言うことはないシャンプーの香りなのに、それが彼女の体温と合わさると、思考力を刈り取る魔性の瘴気になる。
不意に、下腹部が熱くなるのを感じて足が止まってしまう。
「うっ……ごめんなさい」
「じゃあそこの公園で少し休みましょうか」
手を引かれて公園のブランコへ誘導された。
自販機で買ってきた水を渡され、それを飲んで一息つくと、冷静さが戻ってくる。ぼーっと頭を働かせていると、次第にある考えが頭に浮かんだ。
キャルメロは楽しいのだろうか?
俺と一緒に遊んで、歌って、買い物して、珈琲を飲んで……色々やったが、特段俺が何かをしたわけではない。こんなので彼女を楽しませられたのか。『約束』を果たせているのか。自信がない。
「あの……!」
立ち上がって彼女の方を向く。
……視界の端に怪しい男が立っていた。
「全く、いい加減にしたまえよチミ!」
男は突然怒鳴る。
白髪混じりの髪に、鼻の横にデカいイボ。
どう考えても知らない不審者だ。
「勝手に出て行くのは良いものの、入院なんぞして、その上馬鹿みたいな額の請求書まで持ち込んで来るとは!」
「……は?」
「オマケに何だねその水商売みたいな女は! あまり一般人と関わられると揉み消すのが面倒なのだよ!」
「いやいやいや、何を……もしかして施設の職員ですか?」
「如何にも!」
「ああ、医療費のことはスミマセン。でも事故じゃ仕方ないし、無戸籍だとかで色々ややこしくて……」
「聞いとらん! チミは施設で大人しくしておきたまえ!」
職員の男は聞く耳を持たないらしい。
確かに、そもそも俺が大人しくしていれば事故なんかに遭わなかったし、施設に迷惑もかけることはなかっただろう。しかしそれにしても釈然としない。この男は少し危ない雰囲気だ。
「待ちなさいよ。色々聞き捨てならないわね」
黙って様子を窺っていたキャルメロが立ち上がった。
「私のことはまあ良いとして、あなた本当に孤児院の職員? 揉み消すって何のことよ?」
「あーやっぱりこうなるのだね。実に面倒だね!」
「はぐらかさないで頂戴」
「とりあえずチミは死にたまえ」
「はい?」
男がキャルメロに対し掌を翳す。何をしているのか分からず場の空気が「???」で埋まる。
「何を……」
ボゴォン!
キャルメロの身体から爆風と共に激しい炎が吹き出した。突然のことで思考が追いつかない。キャルメロはほんの二三秒だけ暴れてから瞬く間に炭になっていき、発火から二十秒ほどで完全に燃え尽きてしまった。
「超、能力……?」
「うーん面倒だ。ついでにチミも死にたまえ」
「!!」
ボッ───────
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――――――――――GAME OVER—―――――――――
ーーーーー
「……死んだのか」
『はい。苦痛を感じる暇もなく絶命したようです』
「教えてくれ、ミケ」
『何でしょう』
「彼女は、キャルメロは、俺と一緒に居て楽しかったのだろうか。俺は彼女との約束を果たせたか」
『分かりません』
「私見でいいから教えてくれ」
『人の気持ちなど判断できません』
「そうか。……なあ、お願いがあるんだが」
『何でしょう』
「次から『外』に出るとき、キャルメロに関する記憶を持って出たい。可能か」
『何故です』
「彼女との『約束』はそもそも、恩を返すためのものだ。だが受けた恩を覚えていなければその恩を返すことはできない。断片的にでもいいんだ。受けた恩の記憶を持って行きたい」
『……驚きました』
「何か驚くことがあったか。こっちとしては、お前が驚きという感情を持っているということが驚きなんだが」
『貴方はそもそも、単なる記憶の集合体。人格らしきものは擬似的に再現しただけに過ぎません。それがこのように自己主張してくるとは。驚きです』
「そうか。まあそれはいいから、記憶を持って出ることは可能なのか教えてくれ」
『可能です』
「それはよかった」
『しかしお勧めはできません。それは貴方が考えているより遥かに辛いことです。きっと、そう何度も耐えられません』
「いい。約束を果たすためだ。やってくれ」
『……承知しました。許可します』
「有り難う」
『それでは』
「ああ、行ってくる」
『………………………………。
……………男の子というのはどうしてこう……』
───黒い靄に覆われたミケの顔が、少しだけ悲しそうに歪んだような気がした。
-----continue?
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