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改造怪物スイーパー  作者: いちご大佐
第2章 放火魔と怪物少女達、深まってゆく謎。
33/59

第25話 下水探索アドベンチャー

※本日二回目の更新


菅原リョウの健康状態:

両手欠損後ほぼ完治

左目欠損、約93%修復完了

チューンアップを受けネコ・ヒト(女性)の遺伝子を取込み中

タコの遺伝子を取り込み完了

 エニグマが先頭を悠々と歩き、俺がライトを持ってその後ろを歩き、林檎ちゃんがそれに続いて縦並びに歩いて行った。たまに分かれ道があるが、汚水の川を飛び越える勇気はないので壁伝いに進んでいく。そういや前にテレビで見たが、迷路の解き方で『右手法』というのがある。ループ地点でもない限り壁は一繋がりなので、壁に手をついて進めばいつかはゴールに行き着く、という簡単な理屈だ。下水道にループ地点なんてないはずなので、このまま壁伝いに進んでいくとどこかに行き着くわけだが……。

 先頭のエニグマがぴたりと止まった。どうやら何かを感じ取ったらしい。


「一寸ストップ」

「どうしましたぁ?」


 俺も足を止め、ライトを消す。聴覚に神経を集中させると僅かに人間の息遣い(・・・・・・)が聞き取れた。そこの曲がり角の先だ、上手く気配を消しているが、確かに誰か居る。察するに、どうやら相手も此方に気付いているらしい。


「……誰か居る。一旦下がるか」

「ここはアサシンであるワタシの出番ですねぇ!」

「あ、ちょまっ」


 林檎ちゃんが強引に俺を押しのけ、意気揚々と飛び出していく。待て待て、絶対危ない。いくらアサシンとはいえ得体の知れない相手に突撃していくなんて……。


「いやアサシンって何だよ……」


 勇猛果敢に曲がり角のむこうへ突っ込む林檎ちゃんアサシン。危ない、戻ってこい、と何度か警告するも止まらない。不味い、テンションが上がって俺の声も聞こえていないんだ。あーどうしようどうしよう。


 ……うーん、何だかなぁ。


 ……どうでもいいや。


 急に興が醒めて投げやりな自分に気がついた。内心面倒くさくなって「これでいい」と思ってる。危ない橋は『他の誰か』に渡らせればいい、と。本当はただ冒険を楽しみたかっただけだし。

 ああ、やっぱり俺はこういう奴なのか。自覚する程嫌になる。


 林檎ちゃんはそのまま角の向こうへ消え……

 刹那、暗闇に激しい閃光が走った。


『あああぁ目がああああああああぁぁぁ!!!』

『動くな』

『ぐぎゃっ!?』


 何が起こった!?

 悲鳴はすぐに途絶えた。一瞬聞こえたのは男の声、悲鳴を上げたのは林檎ちゃんの方だ。気が進まなかったが流石に放ってもおけないし、エニグマを拾い上げて角の先へ飛び出した。

 その暗闇の中で見た光景に体が硬直し、思わず下水へ転げ落ちそうになる。


 帽子を被り水色の作業服を着た男が、林檎ちゃんの腕を背中側に捩じり上げ、何か銀色に光るものを首筋に突き付けていた。

 こういうとき、普通(・・)どうする?

 そう、こういうときは怒りを露にして、声を上げながら敵に掴みかかるものだと思う。

 そんな感じのを前にドラマで見た。


 だから俺もそうしよう。


「うおおおお!」

「むっ!?」


 ガッ!

 二人を引き離そうと突進したものの、林檎ちゃんを盾に取られたまま何もできず、蹴りで突き放される。男は素早く人盾を後ろに投げ捨て、倒れた俺に向け銀色の得物を振りかぶり……。

 俺の顔を見て動きを止めた。


「……何だまたお前か」

「ん、誰だ?」

「私だ」


 男が帽子を取る。帽子の中には背中の半ばまで届くロン毛が収納されていた。

 ロン毛を見れば一目瞭然。謎の男の正体はリーダーだった。


「リーダー。何でですか色々と」

「それはこっちの台詞だ。何故こんな危険な所にお前らがいる」

「かくかくしかじかで……」


 事件を調べるためにここまで来たこと、空き巣したけど収穫ゼロだったこと、エニグマの導きで下水道に入ったこと。掻い摘んで簡単に話す。段々リーダーの眉間に皺が寄ってあからさまに不機嫌な顔になっていった。


「まるで訳が分からん、お前は頭がイカレているのか。

 あまり調子に乗るなと注意しただろう。仕事の邪魔だ。第一、下水道の中がどれだけ危険な場所なのかも知らないのか?一般人まで巻き込んで」

「すんません」

「分かったらその娘と外に……」


 張り倒されたままの林檎ちゃんにライトを向けて、ハッとした。


「うえぇ……怖かったぁ。もう嫌ぁ……」


 泣いてる。特に怪我はしていないが、何時にも増してぐしゃぐしゃの顔。それ以外にも何か変だと思ったら、ズボンにシミが広がって地面には水たまりが出来ている。リーダーが慌てて駆け寄り起こしてやった。背中を擦り慰めてやっている。


「乱暴して済まなかった。泣かないでくれ、後で新しい服を用意してやるから」

「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」

「君が謝ることはない。全面的に私のほうが悪かったのだ」


 重ね重ね謝罪の言葉を述べているが、効果なし。流石のリーダーも泣いている女の子を慰めるのは苦手らしい。ただその様子を傍観していると、蚊帳の外にいたエニグマが足元にすり寄ってきた。何か言いたげに俺を見上げる。俺にどうしろと?

 俺はちゃんと「無理してついてこなくていい」と言った。

 俺は何も悪くない。

 俺は何も悪くない。


 ……いや原因を作ったのは俺だ。何もしないのはおかしい。

 また俺が女の子を泣かせてしまったのだ。早く慰めてやらないと。


 でも慰めるにしても、どうすればいい?

 謝っても慰めにはならなそうだ。前みたいに、気障に頭でも撫でてやるか。いや、リーダーが背中を擦ってやっているし俺が介入する余地は無い。取りあえず気の利いたことでも言わないと。

 何か場の雰囲気を軽くする台詞……。


「ははっ、林檎ちゃんおもらししちゃったのか? 情けないな~!」


 ……。


 …………。


 ……何も反応がない。もしかしてスベッた?


 徐にリーダーが此方を振り向いた。


「お前、いくらなんでもデリカシー無さすぎるだろうが……」


 その言葉がゆっくり頭の中で反芻され、現状が把握できてくる。そして徐々に背中の肌が粟立つ感覚。ああこれは、久々に、こっ酷くやってしまった……。


 暫くして林檎ちゃんは泣き止んだが、俺が喋りかけても何一つ返事をしなくなった。

 「来ないでください」と言って角の向こうに姿を隠した林檎ちゃん。たまたま自販機で買った水がリュックに入っていて、今はそれでズボンとパンツを洗っているところらしい。暗闇から音だけ聞こえてくる。俺とリーダーの男二人は当たり障りのない話をしながらそれが終わるのを待っていた。さっさと外に出るべきなのだが、林檎ちゃんがこの有様な上、マンホールを開ければ直ぐ街中なので迂闊に外に出られないのだ。ズボンを乾かしがてら丁度いい場所を探して外に出るしかない。


 話によればリーダーは、仕事(一般人の手前それとなくぼかされたが、恐らく悪質能力者の『処分』)で此処に来たらしい。なんでも標的(ターゲット)を探していたとき、其奴が怪しい集団に担がれてここに入るのを偶然目撃し、即席で装備を揃えて調べに来たとのこと。

 偶然か……。リーダーの装備を見ると、とても間に合わせのものには見えない。丈夫な作業着に、腰に巻いたベルトには工具やら謎のスプレーやらが取り付けてある。そして手には銀色に光る得物、もとい全長40cmはある金属製の懐中電灯。さっきの閃光も多分これだ。持たせてもらったが、予想以上に重い。


「これはキシダの特製品だ。強烈な光で目眩ませにもなるし、丈夫で接近戦では鈍器にもなる」

「へぇ、キシダさんが」

「闇医者なんてやってるが奴の専門は化学と工学だ。……まあ、作るものはどれもイマイチ使い所のないものばかりなのが玉に瑕だな。折角作ったのなら、こういうところで積極的に役立てないともったいない」


 実に興味深い。そういやこの『生体サイボーグの肉体』もキシダさんとドクターの合作か。

 今度キシダさんに頼んで色々見せてもらおう。

 ふと話が途切れて静かになる。頭上で車が行きかう音が絶えず聞こえているので、言うほど静かじゃないが。そろそろ洗い終わるころか、と思って林檎ちゃんの方に耳を澄ますと、なにかチョロチョロと水音が聞こえてきた。

 うん? これは洗う音でも絞る音でもない……。


「まだ残ってた(・・・・)のか?」


 ガスッ!!

 顔面を何かが打ち抜いた。不意の衝撃に視界がくらくら明滅する。漫画なら頭上に星が回ってる感じだ。痛みが引いて、漸くリーダーに裏拳で殴られたことを理解した。


「痛い……何ですかいきなり」

「分からんか。お前はそういうところが玉に瑕だ」


 ああ、今の発言もアウトだったのか。最近は調子よく色んな人と会話してきたが、少し喋りすぎるとこれだ。人付き合いは難しいな。


 と、漸く林檎ちゃんが戻って来た。顔を伏せて目を合わそうとしない。


「あの、終わりました……スミマセン取り乱してしまってぇ」


 ズボンがびしょ濡れだが、おもらしのことをイジるのは地雷らしいので、もうその話題は出さないでおこう。


「いいって」

「そうだ。気にするなと言っているだろう。

 それより、一般人がいつまでもここに居るのは危険だ。早いところ脱出を」

「待ってください」

「……なんだ」


 林檎ちゃんがリーダーの言葉を遮り意見する。語気が鋭い。これは真面目な話をするときの喋り方だ。

 リーダーは林檎ちゃんの目を見たまま表情を変えない。


「お仕事、手伝います。手伝わせてください」

「林檎ちゃんそれは……」

「貴方は黙ってて!」

「はい、すんません」


 ちょっと怖い。喜怒哀楽激しいなこの子。


「一応聞こう。何故だ」

「お仕事の邪魔をして、申し訳ないので」

「君がそこまでする必要はない。抑もそれは本心か?」

「……ッ、ズボンがまだ濡れてて、乾くまで何かして時間を潰したいので」

「時間潰しでやれるような軽い仕事ではない」

「あ、あ、猫、さっきの猫ちゃんがいつの間にかいなくなってます。探さなきゃ」

「そうか。では仕事の邪魔にならないように探してくれ」

「あぅ……」


 何だこの話の流れは。何故林檎ちゃんはこんなに苦い表情で理由を並べている? そんなにリーダーを手伝いたいのか。何故リーダーははっきりと「駄目だ」と言わない? 理由次第では手伝わせようと思っているのか。あと、エニグマは本当に何処へ行ったのか。

 リーダーが前のめりになり林檎ちゃんの顔にずい(・・)と顔を寄せた。紅い眼が狼狽える。


「既に察しが付いているだろうが我々は表社会の人間ではない。これからやる仕事も、決して表の人間が関わってはいけないものだ。君にとっても危険だし、私にとっても手伝いなぞ、ほぼリスクしかない。

 抑も事件について調べているといったが、そんなのは警察にやらせることだし、犯人を憎んでいるというのならそれこそ我々の様な裏の人間にでも任せればいいことだ。君が下水道にまで潜る必要性は全くない。

 それを踏まえたうえでもう一度聞こう。

 何故、手伝いたいのだ」

「それは……」


 ん、改めて問うたということは、今までのは本当の理由ではなかったのか?

 ギリギリという音が聞こえてくる。何かと思えば、林檎ちゃんが自分の唇を噛み切らんばかりに噛み締めている音だ。何か言い出しそうで、中々言葉は出てこない。遂に一筋、唇の裂け目から赤い雫が滴る。そこで漸く口唇が緩み、言葉が堰を切ったように溢れ出た。


「憧れてたからです。

 危険なことがしたいです。

 死ぬような経験が何度もしたいです……!

 さっきみたいに! 無様に! 地面に這いつくばっておしっこ漏らして醜態晒して! 死ぬか生きるかの瀬戸際で、生きていけないように生きていたい!! 生きる理由が欲しい!! 死なないために生きていたい!!!

 誰かを憎んで生きていたい! 誰かに憎まれながら死にたい!

 何時も、何時も、何時も、何時も、『裏の世界』とかいうのに憧れてた! カッコイイと思ったからです! ゴミみたいに生きて、ゴミみたいに死んで、生きたまま切り刻まれるみたいに苦しんで、そういうのがカッコイイと思ったんですッ!!

 この世界はツマラナイ……

 クソみたいにツマラナイこの世界を裏ッ側からブッ殺したいからですッッッ!!!!」


 ……支離滅裂だ。しかし、それでいてシンプルだ。これが林檎ちゃんの飾らない本心か。美しくない。とても汚い。だけどそういうのが一番分かりやすくて俺は好きだ。マトモな人間同士の、嘘と建前で塗り固めた会話よりよっぽど分かりやすい。

 吐き出すだけ吐き出して息の上がった林檎ちゃんの背中を、リーダーが再び摩ってやる。


「よく言えた」

「はい」

「しかし危険な仕事だ。死んでも責任は取れん」

「……はい」

「お前が死んだら遺灰も残らんように処理するぞ」

「……!」

「猫探しがてら、直接仕事に関わるのは今回だけだ。それでもいいか」

「はい!」

「良し」


 話がついたようだ。今回だけ林檎ちゃんが依頼を手伝う、ってことでいいのかな? 流石に正式にメンバーになったわけではないだろう。

 話が終わってリーダーが俺の方に来た。林檎ちゃんに背を向け、何かそっと差し出してきた。


「これはお前が持っていろ。さっき張り倒した時に落としたんだ」

「あっ、サングラス……」

「シーッ、少しは空気を読め」

「え、あ、はい?」

「物分りの悪いお前にも分かるように言ってやる。

 頃合を見計らって、これを渡してさっさと仲直りしろ」

「渡せば仲直りできるんですか?」

「……それはお前次第だ」


 バン、と背中を叩かれた。痛い。

 頃合とか言ったからただ渡せばいいってもんじゃないんだろう。難しいな、他人の機嫌をとったりとか、そういうのは苦手なんだ。どうしても仲直りしなくちゃいけないだろうか。正直面倒くさい。……ああ、駄目だ駄目だ。人との関わりはもっと大事にしなきゃな。


 と、リーダーが俄かに「さて」と言って、懐から携帯端末を取り出し、何処かに電話をかけ始める。


―――トゥルルルル、トゥル…ビッ


「私だ」

『あいよ。要件は?』


 音漏れで相手の声が聞き取れる。この声はキシダさんだな。


「基地の無線機(トランシーバー)へ変換と中継を頼む」

『オーケイ。……それじゃあ変換中継三秒前、二、一……ザザッ』

「通信、通信、誰か居るか」

『ザザッ……ハイハイ何ですかリーダー』


 ん、ノイズが入ったと思ったらメガネさんの声になった。

 話の流れからして基地の無線機と通信しているのだろう。


「『タロット』を使いたい。ヒメは居るか」

『丁度ショッピングから帰ってきたところです。条件はどうします?』

「『爆破』『窒息』『毒』『死』『スカ』の五枚で七回だ。一度切るので、結果が出たらキシダにメールで送らせてくれ。頼んだぞ」

『はーい、分かりました……ザッ』


 切れた。

 何の話をしていたのか聞いてみたが「前準備だ」と適当な返事ではぐらかされた。タロットって確かカード使う占いだよな。でも今話に出てきたヒメちゃんは『ハズレを引き続ける運命』という変な能力を持ってる……あっ、つまり『絶対ハズレる占い』ということか。ある意味、何処ぞの胡散臭い占い師よりよっぽど凄いじゃないか。


「よし、準備は完了した。では『依頼』の内容を簡単に説明する」


 依頼内容及び進捗状況はこうだ。

 今回の依頼も、悪質能力者の『更正』もしくは『処分』。其奴は『幻覚を見せる能力』を使い、人をプラットホームに突き落として殺めたため、今回の標的となった。標的が謎の集団に担がれて下水道に入っていくのを目撃したため、今此処を捜索しているところである。

 エニグマと田中氏の搜索はついでとして行う。


「一先ず下流へ向けて歩く。奴らが何者か分からない以上、凡ゆる場面を想定して警戒を行う。私が前方、リョウが後方、リンゴは頭上や物音を常に警戒、警戒中は私から2m以上離れるな」

「はい!」

「ラジャー」


 さて、本来の目的がついでになってしまったが、これはこれで面白くなってきた。



キャラ紹介は省略。

改稿時に書き足すかも。

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