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改造怪物スイーパー  作者: いちご大佐
第2章 放火魔と怪物少女達、深まってゆく謎。
31/59

第23話 独占主義のクオリアⅡ

※本日2回目の更新であります。

 ━━14:12 D市『火山資料館』━━



 また車で移動して観光施設『火山資料館』に到着。

 資料館と言うと何だか地味だが、映像や実演や模型等で火山活動について体感できる観光客向けの施設である。売店では珍しい石やら化石やらも売っていて地学マニア向けな側面もあるようだ。中々シブい場所だがここに来たのは林檎ちゃんの提案だ。受付を済ませるなり何かの石の標本の前に走って行き、食い入るように眺め始めた。本当にこういうのが好きなようだ。いまいち林檎ちゃんの趣味がよく分からん。

 黒縁さん、もとい黒縁眼鏡の『探偵さん』と、林檎ちゃんの傍へ行く。どうやら見ているのは『花崗岩』の標本だ。音声ガイドのボタンがあったので横から手を伸ばして押してみると、3Dホログラムによる解説映像と音声が流れ始めた。


『花崗岩:火成岩の一種。主に石英・カリ長石・雲母等を含んでいるため白色に近いものが多いが、カリ長石が変化して桃色を呈するものも―――

 御影石とも呼ばれ、緻密で硬く、古くから石材として鳥居や石垣―――

 また花崗岩から成る栄養の少ない土地に生えた杉の木は、成長が遅い分木目が緻密で―――』


「へぇー」

「勉強になりますねぇ」

「はーっ、こん機械たいぎゃハイテクばい。たまがったー」


 探偵さんは解説よりもホログラムの映像の方に興味を持っているようだ。確かに無駄にハイテク。マグマの映像なんか触ったら火傷するんじゃないかと思うくらいリアルだ。これは少し面白い。

 三人で回りつつ色んな解説ボタンを押しまくる。プレートテクトニクスが云々~、海底火山が噴火すると周囲の海水が~、スーパーボルケーノがなんたらかんたら~、直下型地震、火砕流、津波、地磁気、地震雲…………。思いのほか楽しくなってきた。


「お、なんだこれ」


 『火山の雑学』の関連項目で『鬼襲来事件』という謎の項目を発見した。面白そうだったので当然解説ボタンをポチッ。


『鬼襲来事件:今から十年ほど前D市で実際に起こった事件。ある深夜、南の海に巨大な「鬼」が現れた、という旨の通報が現地の住人から殺到。すぐに警察が駆けつけたが何も発見されなかった為、始めはただの悪戯であると思われた。しかし目撃情報は多数あり、実際の様子も動画投稿サイト等に複数投稿されている。「海底火山の噴火による影響で蜃気楼に似た現象が起こった」という説や「火山灰の舞う空気中に投影された立体映像だ」等の火山関係の説が有力だが、一部で「偶発的に発生した巨大な『害獣』ではないか」という説も実しやかに語られている。しかし真相は未だ謎のままである』


 なんだこりゃ、こんな事件初めて聞いた。都市伝説の類じゃないのか?

 困惑しながらモニターに映し出された文章を見返す。たった今読み上げられた解説文章、その一部分に目をひかれた。


「この態とらしく括弧付けしてある『害獣』ってのは何なんだ?」

「ご存知無いのですかぁ、菅原さん?」

「教えてください林檎先生」


 俺たちより大人の探偵さんの方が詳しいかもしれないが、敢えて林檎ちゃんに解説を求めた。

 いいでしょう、と得意げに胸を張って説明し始める。


「害獣っていうのはですねぇ、こう、正体不明の生き物のことなんですよ。姿や大きさも千差万別、無から生まれて、死ぬと黒い瘴気になって無に返るとか。ワタシは見たことありませんが、偶にニュースでやってますよ」

「何かファンタジーだな」

「ホントなんですよぉ。過去に『大規模害獣災害』っていうのが起こってますし……でもその頃に比べると、圧倒的に発生頻度が少なくなってるみたいですねぇ」


 ん、害獣災害っていうのは何か聞いたことがあるな、というか歴史の授業で習った気がする。確か五十年くらい前の事件だったか。何のことか意味不明だったから適当に聞き流してたが、一部の地域で戦争並に犠牲者が出たとか。謎だな。


「私は見たことあるばい」

「おおっ、どんなのでした?」

「亀の甲羅を背負った兎みたいなんが道路ば歩きよってね、何かなー思うて眺めよったら、車にめーふて轢かれて、煙になって消えた」

「へぇ……」


 探偵さんの話は聞かなかったことにしよう。

 それにしても俄には信じがたい話だ。無から発生する異形の生き物……そんなのが実在するなら大体の都市伝説は「正体は害獣」で説明が付いてしまいそうだ。人面犬とか、口裂け女とか。死ぬと黒い瘴気になって消える、ってところも何か引っかかる。……まあ、『能力者』も少し前まではオカルトだと思ってたし、案外ひょいっと出くわしたりするかもな。


 気分を切り替えて、再び資料館内を見て回る。

 花崗岩で創った龍の彫刻なんてのも置いてあった。一体何をどうすれば、石がこんな滑らかで生命感溢れる龍になるのか。不思議だ。どうやら銅像公園の作品と同じ作者らしい。この人の作品をもっと見てみたい。

 実演コーナーで「ペレーの涙」なるものを作ったりもした。溶岩が冷えて出来た物体である。綺麗にできたのでお土産として持って帰ることにした。


 とまあそんな感じで、三時間ほどかけて『火山資料館』を隅から隅まで楽しんだ。林檎ちゃんもご満悦である。


「いやぁ楽しかったですねぇ~!」

「たいぎゃタメになったばい」

「お土産も出来たし。そろそろ行こうか」


 じゃあ、最終目的地へ。

 探偵さんに予定通り「寄りたいところがある」と言うと、すんなりと了承してくれた。



 ━━17:44 D市『田中氏の自宅前』━━



 車は少し遠いところに停めてもらい、林檎ちゃんと二人で田中家に到着。


「ここ、ですよねぇ」

「みたいだな」


 表札にもしっかり『田中』の文字が刻印されている。端末で場所を確認したし間違いないだろう。

 まず周囲の状況と家の外観をよく観察。ごく普通の住宅街で、ごく普通の一軒家、どうやら二階建て。ガレージはあるが車は置いてない。やはり居ないか? 取り敢えずインターホンを鳴らしてみようか。っとその前に……。リュックからあるものを取り出す。


「何ですかぁ、その帽子?」

「変装。万が一に備えてね。絆創膏も付けて、っと。こうやって敢えて『分かりやすい特徴』を作ることで、顔を覚えられにくくなるんだってさ」


 確かそんな感じのことをリーダーが言ってた。


「おお~、本格的! ワタシも……」


 二人、変装完了。俺はキャップに鼻絆創膏、それといつも通りの医療用眼帯。林檎ちゃんはバンダナに武将っぽい眼帯、まるでコスプレ。まあ変装としては十分だろう。門を開けて、田中家の敷地に足を踏み入れた。最近は門の外にインターホンが付いている家が多いが、この家は玄関扉の横に付いているタイプみたいだ。一旦深呼吸して気分を落ち着け……ぽちっ、ピンポーン。

 ……出ない。もう一回。ピンポーン。

 念の為もう一回押して見たがやはり誰も出ない。


「……出ませんねぇ」

「仕方ない。もう一度何もないか見て回ってから帰るか」


 あからさまに落ち込んだ様子だ。まあ、田中氏が居ない以上有力な情報は得られないだろうしな。

 しかし、何か腑に落ちない感じがある。帰る前に、もう一度状況をよく観察だ。

 玄関扉は最近よくある電子鍵タイプだ。何となくドアレバーを指の背でなぞる。ほんの少し埃が付着している程度。玄関周りには特に何も置いていない。庭はあるが家庭菜園や鉢植えの類は無い。郵便受けをちょっと失礼して、と……ここ3日ほどの郵便物が入ってる。だが新聞の類は取っていないようだ。確かC市の孤児院に泊まり込みで働いていたということだから、取ってたら逆におかしいか。ベランダは……よく見えないが、特に何も無さそうだ。他にも色々見回すが、特に不審なものは無い。


「ホント何もない家だな」

「そうですね……」


 何故だか、林檎ちゃんは少し思案顔だ。


「でも、そこが逆に引っかかりませんか? 上手く言えませんが、何か変な感じです」

「……C市に帰る前に、明日もう一回来てみようか」

「そうしましょう」


 言わんとするところは俺も分かる。不審ではないが不自然……何処がとは言い難いが。


 今日は戻って、また明日。

 明日もう一度来たら、何か変わっている気がする。


 目立った収穫は特にないまま探偵さんの車に乗り込んだ。街までの帰り道三十分弱、会話らしい会話は交わされない。険悪という感じではなく、それぞれ別々の考え事をしているのか、お互いのことに無関心になっていた。……探偵さんはただ今日の余韻に浸っているだけみたいだが。

 それにしても、この腑に落ちない感じは何なのか。田中氏は家に居なかった、家には何もなかった、強いて言えば三日分ほどの郵便物があったが。何故誰も居ないのか? 本当に誰も居なかったのか? 居留守の可能性は? 田中氏は今どうなっている? 田中氏は、孤児院に泊まり込みで働いていた人物だ。施設焼失の後、彼のものと思われる財布を発見した。公表では当放火事件で生存者は見つかっていないことになっている。となると考えられる可能性は、彼は放火に巻き込まれ死亡したか、ワケアリで俺達のように表社会から隠れているか。ん? インターホンは確かに「鳴った」よな。郵便物も「三日分だけ」入ってた。……成る程、これは不自然だ。ホテルに戻ったら少し話し合おうか。



 ━━18:38 D市中央街━━



 街まで戻ってきた。ホテルまで送ってもらうのも良かったが、少し買い物がしたかったのだ。買うものは決まっている。ウィンドウショッピングした時とは違って買い物はすぐ終了した。

 二人でデパートに寄って買ったのは、大事なことをメモするための『メモ帳』と……


「あのぉ……ホントに良かったんですかぁ、このカッコイイ『サングラス』」

「ああ、あの時壊しちゃったからな」


 あの時、というのは林檎ちゃんに最初に会ったあの時のことだ。

 いきなり殺されかけて焦ったとはいえ、壊してしまったのは申し訳ない。


「うぐっ、あれはワタシが勝手に暴走しただけというか……ああ黒歴史ぃ……」


 なんだかんだ言って早速掛けている。もう日も暮れているので必要ないだろうが、嬉しげだ。少し安いやつとはいえ、店員さんがセレクトしてくれた、林檎ちゃんの顔に合った一品である。スクエアタイプで角のあるフレーム。掛けると顔の印象が引き締まるという。俺が言うのも変だけど結構似合ってる気がする。

 似合ってるぞ、と言うと顔を赤くして照れた様子だ。面白い。


 まだホテルに戻るのも早い気がして街をぶらぶらしていると、謎の紫テントが置いてあった。

 『占いの館』と書いてある。


 よし、入ってみよう。


「え、ちょっ、入るんですかぁ!?」

「面白そうじゃん」


 まあこんな堂々とテントを出しているんだ。怪しい店じゃないだろう、多分。

 中はランプの薄明かりに照らされ、何かの受付みたいに椅子と横長机が置いてある。ただし机の向こう側はカーテンに仕切られてお互いの顔は見れない。変な雰囲気だ。一先ず椅子に腰掛け、どうすればいいのか分からず戸惑っていると、カーテンの向こうから声が届いた。


『ようこそ我が館"monopolistモノポリスト"へ』


 機械で合成したような年も性別も伺えない音声だ。

 カーテンの奥の占い師は続ける。


『貴方の行先、占います。貴方の旅する暗夜行路に不知火の導きを与えます』


『但し占いは旅路の選択肢を狭めます』


『貴方は無限の選択肢を持っています。私の占いでその選択肢をほんの少しだけ狭めます』


『それでもよければ占います』


『よろしいですか?』


 一体何が「よろしいですか」なのか。

 抽象的すぎて何を言っているのかさっぱりだ。


「おお、なんかかっこいいですねぇ……!」

「林檎ちゃん今の話分かったの?」

「全然。でもほら、そこに『初回無料』って書いてありますし、取り敢えず占ってもらいましょうよ!」


 何故かさっきまで警戒していた林檎ちゃんが乗り気になっていた。まあ、初回無料なら……。


『では占いましょう。丁度、書くものをお持ちですね』


 なぜ分かった。やっぱ不気味だな。しかし迷っていても仕方ないので、さっき買ったばかりのメモ帳を差し出した。カーテンの奥からするりと白く細い手が伸びて、それを受け取る。占い師は『では少々お待ちください』と言い、サラサラと何かを書く音がカーテンの奥から聞こえてきた。今占っているのだろうか。顔も手相も見せていないが。暫くして、再び白い腕がカーテンから現れた。その手に持っているメモ帳を受け取る。


『占いは以上です』

「えっ、もう終わりか」

『はい。近く貴方の身に起こる出来事を、星の暗示とともに書き連ねました。後ほどごゆっくりお読みください』


 何か拍子抜けだ。もっと、カードをぱらぱらーとか、割り箸をバリーンとか、そういうのを予想したんだが。テントをでながらメモ帳を捲ってみると、ぱっと見、抽象的で意味不明な文章が連ねてあるだけだった。まあ無料だったし別にいいか。

 それから夕食用の弁当を買った後、することもなくなってホテルまで歩いて戻った。



 ━━━━



 漸く部屋に帰り着いて一息。

 占いを二人で読んでみたがやはり意味のわからないことばかり書いてあった。基地に帰ってからキャルメロさんにでも見てもらおう。読解を諦めて、ベッドに寝転がる。


「あ、そうだ林檎ちゃん。ちょっと此方向いてくれ」

「ん、なんですかぁ?」


 林檎ちゃんに向かい合い、メモ帳の新しいページを開いた。


「一寸似顔絵の練習でもしてみようと思ってね」

「唐突ですねぇ」

「そうでもないさ」


 未だに不自由な指を細い触手で補強し、鉛筆を握った。そして向かい合った『顔』をよく観察しながら紙の上に見た通り描いていく。……思った以上に難しいな。顔のパーツ一つ一つ、細部までよく見ながら描いていくのだが、どれだけ注意深く観察しても頭の中でぐちゃぐちゃになっていく。描いても描いても、やはり何処か変だ。それでもなんとか、十分ほどで完成した。


「うーん……どうだ、似てるか?」


 完成した似顔絵を本人に見せる。林檎ちゃんは少し眉を潜めたあと、何か可笑しかったのか、ぷっと吹き出した。


「ふふっ、これ……まるで人の顔になってないじゃないですかぁ。パーツの位置バラバラですし……えぇ、これワタシですかぁ?」

「そんなに下手か?」

「あっ、笑ってごめんなさい……でもこの唇とかは、凄く質感があってリアルですねぇ。練習すればかなり上手くなると思いますよぉ」


 んん、何が変なんだろう。人の顔になってない、か。まあ初めてでそんな上手く描けるわけないよな。練習して練習して、上手くなったら、人の顔もすんなり見分けられるようになるんじゃないかと、少し期待したわけだが。と、今度は林檎ちゃんが俺の顔を描いている。五分くらいじっとしていると、すぐに描きあげたようだ。


「どうですかぁ」

「おお……上手いな、多分」

「多分ってなんですかぁ~」


 それは似顔絵と言うより、女子がノートの端に書いてそうな可愛らしい『イラスト』って感じだった。でも下手ではない。そういや林檎ちゃんは人の顔を見分けるのが得意だと前に言っていたな。言わば、これが『特徴をよく捉えた絵』なのだろう。


「いや、なんか感動したよ」


 林檎ちゃんには俺の顔がこんな風に見えているんだ。視点が違えば見える世界も違うんだな。俺の見る世界と、林檎ちゃんの見る世界は、同じであって全くの別物。その埋められない差が面白くもあり、どうしようもなく悔しくも感じられた。


※キャラデータ※

名前:携帯端末ケータイ

容量:64TB~

肩書:『多機能端末』

能力:『拡張機能(アプリケーション)

備考:この世界の人々に使われている端末。形状は様々だが、現代のスマホを薄くしたようなものが基本形である。アプリを追加することで多種多様な機能が追加できる。また、衛星を利用した特殊なネットワークに接続することで、外部に情報を保存でき、容量は実質ほぼ無制限となる。

林檎ちゃんは赤、探偵さんはピンクの端末を所持。


なお、この世界の技術レベルは「約五十年後の日本」を仮定している。

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