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改造怪物スイーパー  作者: いちご大佐
第2章 放火魔と怪物少女達、深まってゆく謎。
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第18話 強者勝抜のヤンキーバトルⅠ

菅原リョウの健康状態:

両手欠損、指の付け根あたりまで修復完了

左目欠損、約80%修復完了

チューンアップを受けネコ・ヒト(女性)の遺伝子を取込み中

タコの遺伝子を取り込み完了

 ━━3.18 18:33 『地下基地』━━



 リーダーが帰ってきた。

 今まで何処で何をしていたのかは言わない。ただ酷く疲れているようで、顔色悪く、気のせいかご自慢のロン毛にも艶がない。丁度キシダさん以外の主要なメンバーが基地内にいたので、広間に召集をかけた。


「私用から只今帰った。遅くなってすまないが今から野犬駆使の件の報酬を分配する」


 待ってました、報酬。

 リーダーがスーツの懐から茶封筒を取り出し、中から二十枚程の紙幣の束が出てくる。少し危険な仕事の甲斐あって結構多い、と少し期待したが、メンバーは全員で十二人。分配すると一人分は極僅かだ。能力者の少年を確保した俺で紙幣三枚。他の人は俺より少ない。まあそれでも、訪問を予定しているD市への交通費と、三日分くらいの宿泊費、軽い買い物代を想定しても多分お釣りが出る額だ。皆これで暮らしているのだから、俺も文句は言うまい。

 分配を終えたリーダーが皆に報告をする。


「それと、次の依頼が入った。今回は一般人からの依頼だ」


 メンバーに緊張が走る。スイーパーの仕事は常に危険と隣り合わせなのだ。

 ところで今回は、ってことは前回までの依頼主は一般人ではなかったのか。まあそんなことはどうでもいい。最初の仕事で一寸失敗したから、今回は聞き逃しがないように注意。


「依頼の内容は『深夜に騒ぐ暴走族を何とかして欲しい』というものだ。

 どうやらここ最近、東区の辺りで暴走族が活発化しているらしい。毎晩バイクを吹かして丘の上の高台に集まっては、夜明けまで騒いでゴミを散らしている。周辺住民や高台に星を見に来る人達が大変迷惑しており、警察にも相談したが中々動いてくれない。報酬は払うので代わりに何とかして欲しい、とのこと。

 恐らく数日掛りで行うことになりそうだが、進んでやりたい者がいたら申し出てくれ」


 暴走族か……テレビでしか見たことないが、今回も少し危険そうだな。変な輩には関わらないほうがいいってよく言うし。って、俺たちが一番変な輩か。

 女性陣は当然パス、ホストさんは体が弱いので睡眠時間を削れない、リーダーはやつれてるし、おっさんは見たいアニメがあるらしいし、ドクターやニトーさんは使えない。俺も早くD市に行かねばなるまいし……そう思って残ったメガネさんの方に視線を送った。が、なにか考え事をしているようで、メガネさんはそれに気付かない。真剣な顔をして、一体何を考えているのか、俯いた眼鏡の奥の表情は伺い知れない。誰も手を上げないので、諦めて「仕方ない……」とリーダーが言い出そうとしたとき、それを遮るようにメガネさんが動いた。


「俺やります。一人でいいので、やらせてください」


 何か思う所があるらしく、真剣な表情だ。

 ううむ、何考えてるのか。気になる……。

 一度気になり始めたら仕方がない。


「あっ、じゃあ俺も行きます」


 我慢できずに手を挙げてしまった。

 何やら一人で行く勢いだったので、空気が読めてなかったかもしれないが、まあ一人より二人が安全だ。

 他には誰も立候補しない。

 そんな感じで、今回の以来実行組は俺とメガネさんの二人に決まった。



 ━━3.19 0:58 東区『丘の上の高台』━━



 日付を跨いで深夜、電車を使い二人で高台まで来た。話に聞いていた通り、辺にはコンビニ袋やら弁当殻やらが散乱して酷い有様だ。これから依頼完了まで毎晩ここに来て、ここを夜明けまで見張らなければならない。

 毎朝武術稽古終わりに「もう少し待ってくれ」と林檎ちゃんに頼むのが心苦しい。一刻も早く放火事件の真実を知りたいようで、少し苛立っているのが目に見える。本当に申し訳ない。

 ……一旦気持ちを切り替えよう。もう少しで件の連中がやってくるはずだ。

 ここは、星見客がやってくる場所だけあって星がよく見える。ずっと見ていると地と空が反転する錯覚に襲われる。

 メガネさんはベンチに腰掛け、ただじいっとして空を見上げていた。星が好きなのだろうか。

 高台の端の柵に手を掛けて地上を見下ろした。

 星が霞んで見えるくらいに、明るい光の点が行ったり来たり、忙しない。これもこれでいい眺めだ。

 と、何やら騒がしいエンジン音が、坂の下から上がってきているのに気がついた。しかも数が多い。遅れてメガネさんも気づいたようでベンチから立ち上がった。緊張して待ち構える。だんだん音が大きくなって、ライトの光が見え始め、遂にバイクの一団が現れた。ピアスやら、奇抜な髪型や髪色やら、ゴテゴテしていて如何にもガラの悪そうな連中だ。しかしよく見ると全員俺と同じくらいの年で、大人の集団ではないらしい。男女混合、総勢で十五名。広場にバイクを止めて、下から上に突き上げるような感じで睨んでくる。「メンドクセー」とか「空気読んでどっか行けよパンピ」とか言っているのが聞こえてきた。この人たちをどうにかしなければいけないのか……嫌だな。渋々前に出て一言言おうとすると、メガネさんが手で制して代わりに言った。


「君たち、実は近隣住民から苦情が来ててね。バイクの音……」

「あ゛あ゛ーん!? なんだこの眼鏡。何か文句でもあるんでぃえすかぁー???」

「だからバイクの」

「お゛っお゛ーん!? 声が小さくてよく聞こえねーーーなぁぁ……もう一回言えるかなぁ???」

「バイク」

「ぱどぅぅーーーん!???」


 ああ、ダメだこの人たち。会話が通じないタイプの人達だ。

 仕方ない、俺がやるか。

 すううぅーっ……。


「ヴァイクの音がうるせェっつってんだゴルルルァ!!!」

「うおっ声デケッ……」


 ヤンキー達が静まり返る。

 どうだ俺のサイボーグボイス。自分の鼓膜が破けそうになるくらいの大声だ。

 だが効果は一時的なもの。数秒もしたら、ヤンキー側から笑い声や罵声が飛んでき始めた。そりゃ当然か、こんなんで大人しく帰ってくれるんなら誰も苦労しないよな。メガネさんも呆れた表情をしている。なんか申し訳ない。

 俺達が何も出来ずにいると、段々罵声が多くなっていき、終いには『帰れコール』が始まった。


「かーえーれ、かーえーれ」

「かーえーれ、かーえーれ、かーえーれ」

「帰れー、帰れー」

「か・え・れ!か・え・れ!」


 どんどん大きくなっていくヤンキー共の輪唱。

 俺達二人はただ立ち竦む。

 無力な俺達を嘲笑うように、空き缶が飛んできてメガネさんの頭にコツンと当たった。

 帰れコールと、ゴミ投擲攻撃のコンボ。これを打破する手は皆無。

 ああ、そういえばこういう状況、中学の時も見たな。見た目も性格も冴えない苛められっ子。それを皆してイジるクラスメイト達。苛められっ子は大抵、その場で泣き出し逃げ出すか、何やら大声で屁理屈めいたことを言い出し余計に笑い者にされるか。そのどちらの行為をとったとしても相手の思うツボ。同じ集団の中の異質な存在を吊るし上げ、掌の上に乗せて其奴が踊り狂う様を見る、その為に一致団結する。俺はただ外野から眺めていただけだったが、苛めというのは実に上手く出来たシステムだ。俺は今まさに、このヤンキー達の掌の上なんだな。ここが苛めの現場だとするなら俺は、潔くプライドを捨てて『出来るだけ自分が傷つかない行動』を選択するべきところ。


「ああ、めんどくせぇなぁ……」


 まあ俺は、社会から弾き出された存在だ。言わば野生動物と同じ。野生動物は常に本能に従って生きているし、ときに人間を襲うこともある。だから結論『俺が人間を襲っても問題ない』。

 俺は面倒なことが嫌いなのだ。

 正直言って、何一つ共感できない人間社会のルールもモラルも、面倒臭くて大嫌いだ。


「めんどくせぇからお前達かかってこい。俺に勝てたら今回は諦めてやる」

「ちょっ……新入り君それはマズイって!」

「メガネさんは下がってて。俺が全員相手してやる」


 今更止められてももう遅い。ヤンキー共の中で一際血の気盛んそうな男が前に出てきた。俺の方が背が低く、見下ろされる構図になる。ヤンキーのくせに一対一でやる気のようだ。

 暫く見合った後、俺から挑発する。


「ほら、来いよ」

「オラァ!」


 男の拳が振り下ろされ、俺の顔面正中を打ち抜く。予想したより重い殴打、よろけて二、三歩後ろに下がる。だが当たるより一瞬早く掌で顔をカバーしていたので、ダメージは殆ど無い。その初撃が勝負開始の合図。相手は仕留めきれなかったと気付いて追撃を仕掛けてくる。

 そうだ、力での解決。これが一番シンプルで分かりやすい。

 俺は追撃を避け、いなし、バランスを崩したところで急所に打撃を与える。自分でも驚く程体が滑らかに動く。一撃目は敢えて受けたが相手は所詮素人、予備動作に無駄が多いし動きにキレがない。一方俺はサイボーグ、更に毎朝厳しい武術稽古をこなしている。稽古ではやられっぱなしだったから気付かなかったが、俺の徒手技術は結構高くなっていたらしい。素人喧嘩を制するのは容易いのだ。

 鳩尾に掌底、悶絶し動きが止まったところで膝を蹴り抜くと相手は倒れて動けなくなった。

 男が地面に倒れたまま仲間に助けを求めている。


「アッ、ウ、痛ィ……お前ら助けッ」

「調子に乗りやがって、リンチだリンチ!!」


 残りの十数名が一斉にかかってきた。いくら各下でもこの数はキツいか……?

 いや、これは自分のレベルを計るのに丁度いい機会だ。この身体なら負けても死にやしないだろうし。

 最初に飛びかかってきた相手を避けて、背中側に回り、背骨の上に肘を落とす。これだけの人数が入り乱れると、一度倒れると踏み台になってしまい二度と起き上がれない。一人沈没。その後も、脚、膝、肘、掌、裏拳、額、使える限り全身をフル活用して一人ずつ沈めていく。七人ほど沈めたところでまだ動ける数人に絡みつかれ、伸し掛られた。お、重い……サイボーグパワー全開だ!


「ぬおおああああ!」


 全身を思い切り捻り振りほどく。

 重りが外れた勢いで両腕を振り回し、残った奴らも一人ずつ殴り倒していった。

 少し冷や冷やしたが漸く最後の一人。気弱そうな顔で突っ立っている獲物を睨んだ。


「ひ、す、スミマセンした! ゴメンナサイ! もう帰ります!」


 ……呆気ない。

 つい後先考えずに行動してしまったが、まさかこの人数に勝てるとは。

 俺の怪我は擦り傷や切り傷程度。ヤンキー達はそれぞれ自力で起き上がり、ふらふらしながらバイクに跨って峠を降りていった。歯や骨が折れてヒイヒイ泣いている者も何人か居たが、運良く命に別状のない怪我ばかりで良かった。調子に乗ってうっかり殺してしまったらどうなっていたことか。メガネさんも呆れた様子、今後は自重しなければ。

 何はともあれ無事に役目を終えたので、その場で仮眠をとってから始発電車の時刻を待ち、基地に帰った。



 ━━6:02 『地下基地』━━



 働いたあとの朝飯は美味い。

 相変わらず指が使えないのでキャルメロさんに食べさせてもらっているが。この人は自分の食事もそこそこに、嫌な顔一つせず俺にご飯を食べさせてくれる。味噌汁が熱い時はちゃんとふーふーして飲ませてくれる。何でこんな俺の為に、献身的に尽くしてくれるのだろうか。ある意味少し不気味だ。まあ、折角だし甘えさせてもらっているのだが。


「それでですよ、新入り君にヤンキー達がワーッて飛びかかっていったわけですよ。それを何のこともなく千切っては投げ、千切っては投げ。サイボーグってすごいッスね」

「それは分かったが、あんまり出過ぎたことをするなよ。我々全員の生活がかかっているんだ」

「はい、すみません」


 メガネさんがリーダーに事の顛末を報告している。自分のことながら、客観的に聞いていると中々に現実離れした内容だ。

 もう今回の仕事が終わったような気分だが、まだ依頼は完了ではない。奴らがまた現れるかも知れないので数日間高台に通って見張らなければならない。散乱しているゴミの処理も仕事だ。俺もリーダーに話さなければいけないことがあった気がするが、まあまだいいか。今日もこれから道場に行って、帰ったら昼食を頂いて寝溜めして、夜に備えねばならない。内心ワクワクしている自分が居る。知らなかった、俺って結構喧嘩好きなんだな。



 ━━3.20 0:52 『高台へ向かう峠道』━━



 依頼二日目。

 待ちに待った夜だ。今日も二人で高台へ向かって坂道を歩いている。会話はなく、やっぱりメガネさんは少し神妙な面持ちだ。

 ……道脇の茂みがガサリと動いた。

 足を止めて警戒する。


 ……。


 何も来ない。ただの鳥か何かか。

 再び高台を目指し歩き始める。 


「死ねぇぇぇ!」

「シュッ!」


 茂みから飛び出してきた敵に、手刀の連撃で急所突きを喰らわせる。


「う、ぐうう……」


 難なく悶絶させ、ヤンキーの手から鉄パイプが落ちた。

 俺たちよりも先に来て待ち伏せしていたのか。とすると、恐らくこの先でも何箇所かで待ち伏せされているんだろうな。

 それにしても鉄パイプでゲリラ攻撃とは、本気で殺すつもりか。いや、この手の輩は後先考えずに行動するからな、単純に馬鹿なんだろう。そういう意味では怖い連中だ。それと、俺はこうはならないように気を付けよう。予想通り、その後も高台への道中幾度もゲリラ攻撃に遭った。所詮ただのヤンキーだから危なげなく回避して返り討ちだが、頂上に到着するまで結構時間がかかるな。

 そんなこんなで高台に到着。残りのヤンキー達を追い払ってから辺りに散乱しているゴミをかき集めて、持ってきたゴミ袋に入れ、邪魔にならない場所に置いておく。流石にゴミ袋を抱えて電車に乗るわけにはいかないので、これは後で依頼主が持って行ってくれるらしい。そして仮眠をとりつつ早朝の始発電車を待ち、二日目も終了だ。


 それから三日目、四日目、五日目と、同じように待ち伏せ攻撃が続いた。ときには全員で茂みから飛び出したり、ときにはメガネさんを人質にとったり、またときには坂の上から一斉に投石してきたり、手を替え品を替え。その度に冷や冷やさせられつつ、障害を蹴散らして高台までたどり着いた。登るたびに新しいゴミが散らばっている、本当にマナーの悪い奴らだ。

 しかし何でこいつらは、こんなに必死に妨害してくるんだ?

 まあ、楽しいからいいや。



 ━━3.24 1:01 『丘の上の高台』━━



 依頼六日目。

 今日は頂上まで待ち伏せはなかった。代わりに、高台に着くとボロボロのヤンキー達が勢揃いし仁王立ちで待っていた。

 一際偉そうな奴が前に進み出て、言う。


「オレ達じゃ勝てないから、今日は助っ人を呼んできたのだ!」

「勝てないって認めちゃうんだな」

「うっせー!

 聞いて驚け、スペシャル助っ人、外国人プロボクサーのマシューさんだ!」


 プロボクサーだと?

 そんなのどうやって連れてきたんだか。





長くなったので分割更新っす。

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