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改造怪物スイーパー  作者: いちご大佐
第0章 はじまり。
2/59

プロローグ

※2016/03/03 改稿済み

 この世界には『怪物』が溢れている。

 例えば人並み外れた能力を持つ者を人は『怪物』と呼ぶ。能力に限らず、モノの考え方に異常性があったり、容姿が酷く醜かったり、そういう『人間を逸脱した者』を人間の対局にある者として、怪物と呼ぶのだ。実は言葉通りの『怪異なる物』もこの世界には存在するのだが、それは此処では置いておこう。

 怪物はいつだって人の世に紛れ込んでいる。

 親しい人、愛しい人、そんな身近な誰かが怪物かも知れない……。


 そして此処に今、とある少年が一人。

 少年といっても十九歳。就職していてもおかしくない歳だが。

 時期は二月。行くあてもなくふらふらと公園に立ち寄り、悴む手で冷たいブランコの鎖を握った。

 キィ、キィ、と虚しい音をたてながら物思いにふける。


 彼は物心ついた頃から孤児院で暮らしており、高校にはいかず、誰かに引き取られるでもなく、この年になるまで孤児院に入り浸っていた。毎日毎日することもなく、他人との関わりも薄く、ただぼーっとテレビを見て毎日を過ごしていた。そんな積極性の欠片もない彼が今、孤児院を脱走して此処に居る。

 理由は、ただの思いつき。

 出てきたのはいいが何をすればいいのか分からない。

 ひとまず自立した生活だ。仕事を探そう、と思い、まずそこで躓いた。


 そもそもどうやったら働けるんだ? 何処で働けばいいんだ?

 働く為にはまず、面接を受けなければいけないんだったっけ。とりあえずコンビニのバイトでもしてみようか。

 面接を受けるには、リクルートスーツというのが必要であるとテレビで聞いたことがある。まずそれを買うか。


 頓珍漢でズレた思考回路。


 服屋に行ってスーツを見てみたが、そもそも彼にはスーツの違いなんてわからない。リクルートスーツと普通のスーツに違いはあるのだろうか、とか。そもそも服ってこんなに高価なものだったのか、とか。迷った挙句、安売りしていたものを適当に掴んだ。店員に質問しようという発想はなかった。

 今着ているものがその時買ったそれである。もともとファッションに関して無頓着だったのでこんなものでいいかと自己解決した。

 で、適当にその辺のコンビニに行って、レジの店員に「面接を受けたいのですが」と話すと「何言ってんだコイツ?」みたいな顔をされた。なんだかよく分からないうちに一応面接を受けることになり、だがいまいち相手との会話が要領を得ずに結局追い出され今に至る。


 自分がどれだけ世間知らずだったか痛感した。仕事のほうが何とかなったとしても、住む場所がない。アパートの部屋の借り方もわからない。スーツを買って所持金も少ない。一人では電車に乗ったことも病院に行ったこともないし、孤児院の外には知り合いもいない。

 社会って意外と難しいもんだな。ブランコをこぎながらただ漠然とそう思った。

 静寂に耳をすませば消防車のサイレンが聞こえてくる。

 他人に関心のない彼にはどうでも良いことだった。


「おや?こんな時間に珍しいねぇ」


 突然誰かが話しかけてきた。気付かぬうちにすぐそばまで近づいてきたようだ。

 見ると知らないおっさんがニコニコしながら話しかけてきている。小汚い毛糸の帽子をかぶり顔にはシワが寄り、口からのぞく歯は汚れたり欠けたりして、いかにも浮浪者という感じだ。


「家出かい?」

「あ、いえ・・・」

「じゃあ、もしかしてホームレスかい?」

「ああ、うす。そんな感じっす」

「んん、そうかそうか」


 何故そんな風に聞いてくるのか怪訝に思ったが、どうやら結構時間が経っていたようだ。日はとっくに周り、公園の時計は深夜1時半をさしている。

 ホームレスといってもまだ1日目だが。


 何故かおっさんは嬉しそうな顔をしている。仲間を見つけたとでも思っているのだろうか。

 隣のブランコに座り、警戒する彼を尻目におっさんは親しげに話しかけてくる。


「若いのに大変だねぇ。実家とかはないの?」

「いえ、俺、孤児なんで」

「あ、そうなの。スーツ着てるってことは仕事してるの?」

「さっき面接で落とされたとこっす」

「ははっ、ホント大変だね」


 随分生ぬるい喋り方をするおっさんだと思った。

 それから話すことがなくなって、二人してブランコをキイキイ鳴らしていた。


 会話という会話はなく、また物思いにふけり始める。

 そもそも何故あそこを出てきたのかといえば、とあるテレビ番組がきっかけだった。『実録!ニート生活』みたいな特集をやっていた。

 最初は他人事のように見ていたのだが「あれ?ひょっとして俺ニートなんじゃね?」と思い焦りを感じ始めた。

 孤児院を飛び出すほど焦る必要もなかったはずなのだが、彼はパソコンも携帯電話も持っておらず、情報源といえばテレビだけで、テレビの情報を馬鹿正直に一々真に受けるほどの世間知らずである。

 深刻化するニート問題、いつかは尽きる親と金、そんな言葉に煽られて「これじゃいかん」と立ち上がったのだ。


 考えてみれば何も言わずに勝手に出てきてしまった。こういうのは何かしら手続きが必要だったのではないか?

 かと言って今から帰るのは格好がつかないな。

 みんなは今頃どうしているだろう。

 やっぱりいざとなったら帰ろうか。

 うん、そうしよう……。


 おっさんが俄かに立ち上がる。


「じゃあ僕、観たいアニメがあるんでそろそろ帰らなきゃ」

「え、あにめ? どこで見るんすか?」

「ははっ、僕はホームレスじゃないよぉ」

「そっすか……」


 そして何故かおっさんは、ブランコをこぐ彼の後ろに回り込み


「はいちょっとごめんね」

「!?」


 後ろから手を回し、顔面にハンカチを押し付けてきた。

 微香を放つハンカチに口と鼻を同時に塞がれる。


(おお!?なんだこれ!)


 必死に振りほどこうとするが、存外、おっさんの腕力が強かった。

 段々意識が朦朧としてくる。それでも諦めず、藻掻く。

 火事場の馬鹿力というやつか、フルパワーで全身を捻って捻って、漸く腕の中からすっぽ抜けた。


「何だお前、バーカバーカ! なんちゃってホームレス!」

「はは、若いっていいねぇ」


 悪態をつきながら全速力で逃げ出した。

 そこまで広い公園じゃない。出入り口は目の前。だが彼が自分の足でその公園を脱出することは叶わなかった。

 出入り口に立ち塞がる髪の長い、男性。漆黒のスーツに身を包み、右手には『黒光りする何か』を持っている。

 走ってくる少年に対し、長髪の男はおもむろに、すぅっ、と構え……


 カチリ……


   ビスッ!    ビスッ!


 喉元へ二回、鋭い衝撃。

 撃たれた。直感で悟る。


 頭の中が白んでいき、いよいよ立っていられなくなり、膝から崩れ落ちる。


(何で……?)


(俺、死ぬのか……)


(まあ、どうでもいいや……)


 ドサリと地面に倒れ伏した彼に長髪の男が近寄ってきた。

 何か言ってくるのを朦朧とする意識の中で聞く。


「たかが麻×で。こん×のが不×身の怪×とは到×思×××……」


 白く、白く、周囲の景色が染まっていく。

 全身が痺れてピクリとも動けなくなり、最早言葉を理解する力もなくなった。

 寒い。眠い。

 ゆっくりと、瞼を落とす。

 惰性で生きてきた彼は、感傷に浸れる走馬灯も、有難い力を授けてくれる神様の夢も、何も見ない。

 ただただ押し寄せる虚脱感の波に流されて、暗い闇に飲まれていった。


 十九歳の少年『菅原リョウ』。自称『普通の人間』。

 これが彼と『彼ら』との邂逅だ。




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