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改造怪物スイーパー  作者: いちご大佐
第2章 放火魔と怪物少女達、深まってゆく謎。
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第13話 継接改造でチューンアップ

「あのー……ドクター?」

「ぶびっ!?」


 いや、声かけただけでそんなに驚くなよ。


 今俺は、ドクターの部屋(手術室)でドクターと二人きり。とても気まずい。

 何故こんな状況になったかといえば、昼寝しようと男子部屋に行ったら部屋にホストさんがいて「ドクターガナンカ呼ンデルヨ!」と言われ、呼び出しに応じた次第だ。案の定というか、なぜ呼び出されたのか分からないまま数分が経過し今に至る。

 埒が明かないな。何とかコミュニケーションをはかれないものか。


「あの、俺に何か用があるんですよね?」

「ふひっふ」

「もしかして何か待ってるんですか?」

「ふひっ!ふひっ!」


 肯定。全く動き出す気配がなかったから多分そうだろうと思ったが、どうやら何かを待っているようだ。

 ドクターには申し訳ないがこれ以上のコミュニケーションは望めなさそうだし、相手にするのも面倒なので、俺も適当に寛ぐ。

 部屋の中は相変わらず物々しい。心電図でも映しそうなモニターやら、メスやハサミなんかの手術道具の類やら、まさに手術室という感じ。アニメで出てきそうな、人が入るぐらいの円筒型謎装置なんてのもある。ひょっとすると俺もアレに入っていたのかもしれない。SFチックだ。こういうものに心が躍るのは男のサガだ。

 中央には当然のように手術台がある。俺がここで目を覚ました時に寝かされていたやつだ。血の染みが目立つな、スプラッタ系が苦手な人はこれだけで十分鳥肌モノだろう。

 因みに部屋の明かりは手術台に付いてるあのデカいライト、ということはなく普通に電灯がついている。


 室内観察にも飽きてぼーっとしていると、不意にガチャリと重い音がして、部屋の扉が開けられた。

 現れたのはリーダー・ホストさん・メガネさん、ではなく彼ら三人と大体同じ年齢と思しき男。リーダーほどではないが長めのボサボサ髪で、胡乱な目つき、白衣という胡散臭い格好だ。


「おーっす、元気してたかぁ?」

「あ、貴方は……えっと」

「おいおいリョウ、そんな『誰だっけ?』って顔すんなよ。キシダだ。A市で助けてやったの覚えてねぇのかぁ?」


 ああ、キシダさんか。

 古庄の件で返り討ちにあったとき、眼帯とか買ってきてくれた人だ。


「すいません、人の顔を覚えるのはどうも苦手で。リーダーくらい分かりやすい特徴があれば覚えやすいんすけどね」

「なぁに、気にするこたねぇよ。昔の知り合いにも似たような奴が居てな。アイツとお前だったら、似た者同士馬が合いそうだ」

「へぇ、是非とも会ってみたいですね」

「そいつぁ無理だ。アイツはもう死んだ」


 あー……こりゃ地雷踏んだか?

 でも自分から話しだしたことだし、重い話の割に随分サラっと言った。そんなに思い入れは無いのかもしれない。


「とまあ、それはさておき。

 今からお前さんの身体のケアと経過観察、それとチューンアップを行う」

「はあ、チューンアップですか。と言うかなぜキシダさんが?」

「お前、コイツ一人で出来ると思うか」

「ふしゅっ」

「成る程」


 質問の答えにはなっていないんだが。まあ其の辺はどうでもいいか、興味無いし。確かにドクター一人に自分の身体を任せたくはない。

 そんなことよりチューンアップとはまた、心躍るワードが出てきた。正直サイボーグになったって実感がないんだよなぁ。筋力アップの他には歳を取らなくなったり、痛覚遮断したり、腕を切り離したり。凄いといえば凄いのだが使いどころがそんなにない。まあ、仮にサイボーグらしくビームを放てたとしても使い道はないのだろうが。

 チューンアップは気になるが、どうやら先に経過観察とやらをするらしい、ドクターはキシダさんにカルテの様なものを渡し、部屋の隅で何かの薬品を調合し始めた。


「これに従って記録をつけていけばいいんだな」

「ふひっ」

「じゃあ、寒いだろうが上を全部脱げ。包帯と眼帯もな」

「ういっす」


 脱衣は一人でも割と簡単に出来る。

 スーツなんかは流石に無理だが今着ているのは生地の柔らかい部屋着のパーカーだ。スーツは林檎ちゃんの件でボロボロになったのでキャルメロさんに頼んで仕立て直しに持って行ってもらった。あれだけボロボロになってしまったら新しいのを買うのが手っ取り早いかもしれないが、それは言わないお約束だ。

 キシダさんが台車に乗せた検査器具一式を持ってきた。金属製のアイス棒等の病院でよく見るアレだ。


「はい、口あけて」

「アーン」

「……喉は正常っと、虫歯も……一本もねぇな。歯磨きはちゃんと出来てるみてぇだな、誰かにやってもらってんのか?」

「はいまあ、キャルメロさんに」

「ケッ、いい趣味してやがる」


 それは一体どちらに向けて言っているんだ。年増好きだと思われたなら心外なんだが。

 あの人はまだ十分若いと思うけどさ。


「はい次、耳」

「うぃ」

「ふむ、耳垢はウェット……と。ちょっと皮膚切り取るから、チクッとするが我慢しろよ」

「いてっ! もっと早く言ってくださいよ」

「スマンスマン。体細胞サンプル回収完了っと」


 どうやら耳の裏のからサンプルとして表皮を剥ぎ取ったようだ。俺なら数秒程度で治せる傷だが完全に不意打ちだった。

 その後も特に異常はなく検査が進む。鼻の中を見られたり聴診器を当てられたり、大方風邪の検査と変わらない。一つ一つ検査結果をカルテに書き込んでいっているようだ。

 あと、腕先の再生具合も調べられた。まだほんの数センチ程度だが、順調に再生は進んでいるようだ。自分でも勘付いていたが、肉の治りに比べると、骨の方は再生にかかる時間がより長いらしい。


「経過観察は完了、特に異常は無いようだ。ドクターの方も準備が出来たみてぇだな」

「いよいよ『チューンアップ』ですか」

「気持ちは分かるがそう焦んなって。怪我のケアがまだだろ。

 んでドクター、どれがどの薬品だ」

「ごにょごにょごにょ」

「ふむふむ、成る程……じゃあまずは眼の方だな。手術台に寝ろ」

「ふひっ」

「いや、そうじゃない。ドクターが寝てどうする」


 気を取り直して、手術台に仰向けになった。背中がひんやりとして悪くない寝心地だ。

 このまま眠ってしまうのも悪くないが、空洞になった左目の目蓋をなにかの器具でぐいっとこじ開けられた。続けて眼窩の中を、薬品をつけた脱脂綿で軽く拭かれる。何とも言えない気分。


「炎症は無し、欠損部の再生も進んでるな。……ドクター、ちゃんとやれるか?」

「ふ、ふへぁっ」

「手ぇ、震えてんぞ」


 何をされるのかと横目で見れば、ドクターが注射器を握っていた。小刻みに震える注射針が左眼窩へ迫る。

 その震える手で目蓋に注射でもするのかと思ったが違うらしい。生ぬるい液体が眼窩の中に流し込まれただけだった。刺すわけじゃないと知って安心したが、手が尋常じゃなく震えている。間違えても注射器を眼窩の中に落とすなよ、絶対落とすなよ?

 じきに、空洞が液体で満たされた感覚があった。気が気でなかったが無事に終わったようで、目蓋を固定していた器具が取り外され、接着剤らしきもので中の液体が漏れぬよう目蓋を接着された。


「これは?」

「義眼の代わりだ。注入した時点では粘性の高い液体だが、数十分もすればブヨブヨした一固まりの固体になる。流石に詰め物も無しじゃ、中が乾燥して衛生的によろしくない」


 成る程。完治するまでの間も安全に過ごせるわけだ。風呂にも入れるな。実は三日前から銭湯に行けてなくて、頗る不快だったのだ。

 腕の方のケアは、塗り薬を塗って新しい包帯を巻くだけで終わった。


「さぁて、いよいよお待ちかねの『チューンアップ』をするわけだが」

「おおっ」

「お前さんが期待してるほど大手術にはならねぇぞ。ちょっと脊髄注射うつだけだ。あ、当然オレがうつから安心しろ。今更だが医学の心得はバッチリだ」

「おー……まあ楽なのに越したことはないっすよ。で、それをすることによって如何なる効果が?」

「簡単に説明しよう」


「お前さんの体は今の時点でもある程度変幻自在でな、その気に成れば腕の本数を増やすくらいなら自力でできる」

「ふむふむ」

「だが複雑な構造は無理だ。鳥の羽とか蛇の毒腺なんかの『他の種固有の器官』は作り出せないし、異性の生殖器も駄目だ。説明書もなしにプラモを組み立てる様なもんだな」

「ほうほう」

「そこで、その『説明書』を用意してしまおう、というわけだ。生き物の体において『遺伝子』というのは体を作るための『説明書』或いは『プログラム』と言える。

 普通生き物に他固体の遺伝子を取り込んだところで、どうにもならないし、強いて言えば拒絶反応が起こるな。だが生体サイボーグならば、外から取り込んだ遺伝子を読み取り、複写し、流用することができる。つまりはキメラになれる。今から行うのはまさにその『遺伝子を取り込む』という工程だ」

「ほー。分かったような分からんような」

「まあ細かい理屈なんざどうでもいい。うつ伏せになりな」


 つまり、脊髄に他の生き物の遺伝子を打ち込む、ということか。

 浅学ながら遺伝子の話はテレビでよく聞いたので、割と理解できた、つもり。


「因みに具体的には何の遺伝子を?」

「そうだな……現時点でざっと7種類ほど培養が完了してるんだが、今の健康状態なら同時に3種はいけそうだな。実験的かつ実用的な優先順で、ヒト・タコ・ネコでいくか。いいだろ? ドクター」

「ふっす」

「早速打ち込むぞ。結構痛いから心の準備をしとけ」

「オーケーっす」


 ガタンという音がして手術台のベッドが僅かに山型になった。うつ伏せの身体が猫背に折られ、自分では見えないが背筋の隙間から背骨が浮き出る。キシダさんの体温の感じられない掌が俺の背中をマッサージするようにグイグイ擦る。やがて首の付け根から下一尺辺りで手が止まり、そこにアルコールで拭かれる時のすうっとする感覚を感じた。


「先ず一本目、ヒト(雌)の遺伝子。キャルメロに提供してもらったものを培養した。髪や瞳の色の変化が気になるところだ」

「えっ、ちょ」


 ブスリ


 痛い。それはもうすごい痛い。大人でも飛び上がる痛みだ。

 そんなこと言ったら数日前の拷問云々の話を持ち出されるかもしれないが、痛みなんて過ぎてしまえば忘れてしまうもんだ。日常的に拷問を受けてでもいなければ痛みに慣れることなんてないだろう。俺には痛覚遮断があるから、心の準備さえ出来ていれば耐えられないこともないけどさ。

 と、まあそんなことはどうでもいい。遺伝子の提供元が意外すぎるんだが。


「あのー……」

「次はタコだな。触手を生やせるようになれば腕の再生まで不便なく過ごせるだろう。これは寿司屋の知り合いから買い取った活きの良いタコの細胞を使った。提供元のタコはもう用済みなんで、後日たこ焼きパーティーでもして皆に振舞う予定だ」

「えー……」


 ブスリ


 やっぱ痛い。

 なんだか俺の身体が完全におもちゃにされてる気分。嗚呼タコよ、汝に幸あれ……。


「ラストはネコだな。街で見つけた黒猫から採取した。特に実用性はねぇがモフモフになれるかもな」

「それってエニグ……」


 ブスリ


「……よし、完了だ。遺伝子が馴染む・・・までは一晩くらいかかる。熱とか吐き気が出るだろうから、念のため明後日まで安静にしとけよ」

「……うっす」

「怪我が完治するまで三日に一回は経過観察が必要だ、また三日後にここに来い。目の詰め物も取り替えなくちゃいかんからなぁ。あと、これは人体に優しい接着剤だ。風呂の後なんかに目蓋に塗り直すといい」

「分かりました。有難うございます、じゃあ三日後にまた」


 服を着て、一礼をして手術室を出た。

 通路を歩きながら軽く体を動かす。これといって変化はない。一寸注射跡が引き攣ったので、背中の皮膚の代謝を操作し跡を塞いだ。まだ局所的な操作は上手くいかないので背中全体が痒みを帯びる。垢が出るだろうから、少し寝て晩飯を食べたら銭湯に行くか。


 男子部屋に入るが誰もいない。

 自分のベッドによじ登り潜り込むと、自然と意識が微睡みに堕ちていった。



 ━━━━



 青白く濁った灰の中に身体が半分埋まっている。

 息を吹けば舞い上がるような灰に手足の自由を奪われ、尚も下へ下へと沈む感覚がある。

 空は灰色で、日の位置も分からない。

 顔まで埋まってしまいそうになった時、雨が降り出した。春に降る霧のような雨だ。

 灰はいよいよ粘りを増して、最早指一本動かせない。

 顔まで飲まれ息もできなくなった。

 苦しい。なんだこれは。


 いよいよ心臓まで止まろうかという極限状態に来て


 セカイが、ブレた。



 ――やあ、君。ご機嫌は如何かな?



 脳に声が響いた。

 何時ぞやの動物使いに対峙した時に似ている。

 だがあの時とは違って、耳元で囁く様な優しい声だ。

 しかし声の主の姿は見えない。


 なんだお前は。


 俺は正体の分からぬ其奴と会話を試みた。



 ――誰かって? 誰だっていいさ、どうでもいいことだ。



 ――問題はね、『君』が『何者か』だ。



 俺が何者か?

 そんなに気になるなら教えてやる。

 俺の名は菅原リョウ。何処にでもいる普通の人間だ。

 今はサイボーグなんかになったがな。



 ――『普通の人間』ねぇ……はん、面白い冗句ジョークだ。



 いけ好かない奴だな。

 俺が人間じゃなかったら何だと言うんだ?

 さあ、今度はお前が冗句を垂れる番だぞ。



 ――今はまだ手出しはしないつもりだけどね、あんまり調子に乗られたら困るなぁ。



 ――何を考えてるのか知らないけど、どんなに足掻いても、君は人間にはなれないよ。



 ――今日はそれだけ言いに来た。機会があったらまた来るよ。じゃ。



 姿は見えないが声の主が去っていくのを感じた。

 やがて其奴の気配は完全に消え去った。

 最後に一つ、小さく言い残して。




 ――何が『普通の人間』だ。人間ニンゲンの皮を着た怪物カイブツめ。




 ━━━━




 身体がビクンと跳ね、目が覚めた。

 頭の奥にしびれを感じつつも徐々に意識が覚醒していき、状況を把握する。そうだ、さっきチューンアップを済ませて、そのあと直ぐ寝たんだったな。今のは夢か。

 ……ひどく不快だ。全身が熱を帯び発汗が止まらない。頭痛と、吐き気も。


 尻の下になにか硬いものがある。財布か。

 俺はその財布を乱暴にズボンのポケットに突っ込み、鉛の様に重い身体を引きずって部屋の外に出た。

 外に出ようと思ったら、途中、広間にいたメンバーに心配とも驚愕ともつかぬ視線を向けられた。


「ちょっ、リョウくん? どうしたの!?」

「エ、マジ、ダイジョウブナノ? ソレ」

「リョウおにいちゃん顔色わるいよ」

「あー……ご心配どうも。一寸体が熱いので、外に出て冷やしてきます。晩飯には戻ります」


 皆が引き止めてくるが、最早何を言っているのか分からないくらいに意識が朦朧としていた。悪いな、心配かけて。どうせ一晩もすれば収まるはずだから。

 一先ず銭湯まで歩こうか、漠然とそう決定し、扉に腕を掛ける。

 ふと、さっきの夢が頭を過った。


 俺が人間じゃないだと?

 面白くない冗句だ。


 基地の扉を開けると、空には星が瞬いていた。


※キャラデータ※

名前:ニトー

性別:男

年齢:20代前半

肩書:ただのニート

   情報通

能力:???

備考:ただのニート。アニメ・ゲーム好きでオッサンとは気が合う。

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