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改造怪物スイーパー  作者: いちご大佐
第1章 新しい居場所、新しいカラダ。
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第6話 拷問耐久レース

※ショッキング描写注意

 突如目の前に現れた狩るべき獲物。菅原リョウは迷うことなく銃を抜き、引き金を引いた。銃口は恭弥エモノの額を真っ直ぐ睨みつけ、そこに鉛弾が穴を穿つはずだった。


「おっとぉ危ない!」


 だが予測は外れ、弾丸は獲物の向こうのコンクリート壁に突き刺さる。

 動いたのは、彼奴の隣にいた素性の分からぬ男。引き金が引かれるよりもほんの一瞬早く、古庄恭弥を突き飛ばして弾道から逸らした。

 男は止まらずリョウの方へ突進し顔面を掴んで地面に叩きつける。脳に致命傷ギリギリの損傷を与え、尚も止まらない。駄目押しとばかりに万力のような絞首で意識を刈り取った。

 呆気にとられ動きの固まったリーダーを襲うのは、古庄恭弥の放つ電撃。

 圧倒的強者達を前に、狩る側であった筈の二人は為す術もなく蹂躙された。


「ふう、まさか拳銃こんなもの持ってるなんて予想外だったぜ。俺が助けなかったらお前死んでたよ」

「はいはいゴクローサン。あの情報屋、何時も肝心なこと教えてくれねェからな。てかコイツら殺さなくていいのか?」

「うん、折角だしちょっと拷問とかしてみたいだろ?」

「手前のキモイ趣味を押し付けんな」

「惜しいなぁ。恭弥なら男の浪曼が理解できると思ったんだけど」


 恭弥に護衛役として付き添っていた彼は、慣れた手つきで重傷者二人をロープで縛り、中身が分からぬよう袋を被せてガムテープで封をした。そして軽々と一人で二人を担ぎ上げる。

 時刻は17時を回った頃。誰にも気づかれぬよう、心置きなく拷問を行える場所へと移動するのだ。

 行き止まりであるフェンスを乗り越え、その先にある林を抜けたところにそれがある。知る人ぞ知る無法地帯、通称『廃墟の森』、林に囲まれ忘れ去られた廃墟群が建ち並ぶ広大な敷地。ある時は私刑場となり、またある時は取引場となる。社会から弾き出された浮浪者が住み着くこともしばしば。

 ビニール袋で包んだ二つの大荷物は、その廃墟ビルの一つに運び込まれた。


 ・


 ・


 ・


「ここは……オフィスか。丁度いい感じのデスクもあるし、ここでいいだろ。さぁて、どっちからやろうかなー」


 そう言って適当に片方の袋を破いた。中身は頭を血塗れにして気を失っているリョウだ。手は後ろ手に縛ったまま、ホイールのついたデスクの椅子に座らせた。


「おい、起きろよ。手加減はしといたから死んではないだろ? おーい? 恭弥、電気ショック」

「あいよォ」


 90V程の電圧の電気ショックを喰らわされ、リョウの体がガクガクと小刻みに震える。数秒間電気ショックを受けた後ゆっくりと目を覚ました。

 目を覚ますと同時に激しい頭痛に苛まれ、苦悶の表情を浮かべるが、男はお構いなしに話し始める。


「う……くぁあ……」

「起きたな。この状況が分かるか?」

「く……誰だ、お前? ここはどこ、だ」

「俺は『稲沢イナザワ ハル』。恭弥こいつの護衛として付き添っていた」


 稲沢と名乗ったこの男は、自身を『護衛』だという。リョウには何が何だか分からなかった。頭痛のする頭をフル稼働させ状況をなんとか把握する。リーダーの姿が見えないが、床に芋虫のようにガムテープで巻かれた、ビニール袋に包まれた物体が横たわっている。あれの中身がリーダーだろう、と結論を出した。


「…護衛、何で?」

「それについてはどうでもいい、聞きたいのはこっちの方だぜ。なんかあんたら、明らかにこっちの動きを読んだような行動してたじゃん? 折角あんたらが降りる予定だったはずの駅で待ち伏せしてたのに、前の駅で降りちゃってるしさ」

「それは偶然……なんというか」

「偶然?偶然どうしたって?」

「偶然は偶然だ、それよりそっちこそ何で俺らの降りる駅なんて…」


 パキリ、と小さい音が部屋に谺した。

 後ろ手に縛られているのでリョウからは見えないが、稲沢に左手の小指を捻られていた。背筋につう、と冷たい汗が伝う。


「質問に質問で返すな、学校で習わなかった?

 馬鹿でも分かるように質問してやるぜ。お前ら一体全体誰から指図を受けて俺らを殺しに来た?俺らの居場所とかもどうせそいつから聞いたんだろ」


 冷静さを失わぬよう、一言一句を頭の中で噛み砕いていく。

 言われてみれば依頼主に関しては謎が多い。人物像は全く浮かんでこないし、何の為にこんな依頼をしてくるのかも謎。リーダーならあるいは知っているかもしれないが。そもそもなんでスイーパーなんかやっているのだろう。

 考えるほどに謎が深まる。リョウは敢えて考えるのを放棄し、にやりと不敵に笑った。


「俺は最近入ったばかりの新入りでしてね、深いことは聞かされてないんです。

 それに俺はまともに学校に通ってないんですよ。すみませんね」

「……そうかい」


 別に何かを思いついたわけではなかった。ただどんな時でも大物を気取っていれば何とかなるとテレビで言っていたような気がしただけだ。


 稲沢は諦めたように呟き、手を縛っていたロープを解いた。当然解放するわけではない。リョウの右手を埃の積もったデスクに押し付け、肩から腕全体を使ってホールドする。


「恭弥は左手掴んでろ。

 まああんまり期待はしてないけど、折角だし拷問には最期まで付き合ってもらうぜ。答えをはぐらかそうとしたら指先からじわじわと痛めつける。

 問一、お前らのバックについてるのはどんなやつだ。知ってるだけでいいから答えろ」

「知らん」


 小指を二回転捻り回される。


「問二、お前らのお仲間は何人いる? 序でにどんな奴らが居るのかも答えろ」

「忘れた。どんな奴らかもまだ分からん」


 薬指と中指の第二関節から先がナイフで真っ二つにされる。デスクに積もった埃が血を吸って滲んだ。


「問3、お前らの拠点はどこだ。できるだけ詳しく言え」

「『街』、としか言いようがない。詳しいことはさっき言ってた情報屋とやらに聞けば?」

「あれ、情報屋なんてお前の前で言った覚えはないけどな?」

「記憶力悪いっすね、ハハハ」


 人差し指の爪を思い切り引っ張られ、ちぎられる。皮膚が爪と一緒に持って行かれ、抉れた肉から指先の骨が覗いていた。稲沢はそこにナイフの鋒をあてがい切り込みを入れ、バナナの皮を剥くように指の肉を引きちぎり、人差し指の骨を剥き出しにさせた。

 わざわざロープを解いたのは、本人に拷問の過程を見せることで精神的ダメージを与えるためである。サイボーグ化で痛みに耐性のできたリョウでも流石に顔が引き攣る。見れば左手を掴む恭弥も眉間に皺を寄せていた。


「うーん……拷問しといてなんだけど、ぶっちゃけお前に聞きたいことってそんなにないな。

 適当に甚振って殺しとくか。あ、何か思い出したらいつでも教えてくれていいんだぜ? そしたらすぐに楽にしてやるよ」

「そりゃどうも」


 部屋の中に腕の骨を砕く音が響く。袋を被りじっとしていたリーダーもある程度状況を把握した。実は既に目が覚めていたのだ。


(マズったな。まさか相手から奇襲をかけてくるとは思わなかった。こちらの情報はダダ漏れだったということか?

 しかもあんな奴が仲間にいるなんて聞いてないぞ。さっきの反応速度も異常だった、多分あいつも何かしらの能力者と見て間違いないだろう。

 先に拷問にかけられたのがリョウの方で良かった。リョウなら拷問で死ぬことはない・・・・・・・筈……)


 冷静に考えを纏め、打開策を考える。だが能力者二人を相手に自分が出来ることといえば、時間稼ぎが精一杯だろう。殺されるのが先延ばしになるだけでは意味がない。


(トランシーバー、は、無い。腰に付けてたはずなんだが、さっきのゴタゴタで落としてきたか、もしくは没収されたか。

 どうする……なにか助けを呼ぶ手段は……)


 ━━17:08 ホテルの一室━━


 ドクターはリーダーたちの帰りを待っていた。

 何事もなく予定を終わらせて帰ってくると信じていたが……。


『…ザザッ……』


 沈黙していたトランシーバーから僅かなノイズが。

 ドクターに緊張が走る。

 間もなく、トランシーバーの向こうから何者かが語りかけてきた。


『ザーッ……おう、オレだ。聞こえるか。突然だが緊急事態発生だ』

「はう、はふぁ」

『ああいい、分かってる。お前はただオレの指示に従ってればいい。

 簡単に言うとリーダーたちが拉致られた。場所はそっから2時の方向へ、1.5kmぐらいの場所。橋の下を通ってフェンスを越えたところに林がある。その林を抜けたところに廃墟空間があってなぁ。7階建てのビルの2階だ。

 今頃拷問が始まってる頃だと思う。急げよぉ』

「ひょ、ろ、ろうすればひいの」

『今言ったとおりだ。何か目眩まし出来るものでも持って助けに行け。どうせ閃光弾か何か持ってきてるんだろぉ?』

「うぁあ」

『リーダーたちがどうなっても良いのか? 良くないよなぁ。ホラ、さっさと行け。…ザザッ……』

「ああぁあ」


 迷ってる暇は無い。ドクターは何者かの声に背中を押され、助けに行くことを決意した。

 破裂しそうな心臓を押さえてアタッシュケースを開く。中身はドクターが開発した兵器類である。手投げの閃光弾と煙幕弾も入っている。


 ありったけをポケットに突っ込みホテルを飛び出した。



 ━━17:33 『廃墟の森』━━



(ああ、クソッ。詰か。いっそ自分だけでも逃げたほうがいいかもな。出来たら苦労はしないが……)


 現実は非情である。どれだけ考えても手足を縛られた自分に出来ることなど思い浮かばない。出来ることといえば自分の方に相手の意識が向かないように、ただ動かないように努めることだけだ。

 そうこうしている内に、執拗な拷問によって確実に衰弱していくリョウ。


「なーんか飽きてきちゃったぜ。コイツ全然痛がらないし動かないし、死んでんじゃないよな?

 てかナイフ一本で拷問ってのも面白みに欠けるし。前もって拘束具とか薬品とか用意しとけばよかったなー」


 リョウはデスクの上に全裸で仰向けに寝かされ、虚ろな目をして部屋オフィスの入り口を見つめていた。といっても左目は既に抉られて無くなっているのだが。

 他にも背骨は圧し折られ半身不随になっており、右手も左手も無事な指は一本もない。左腕に至っては骨を粉々に砕かれ襤褸雑巾のように捻じり絞られていた。


「コイツには痛みを与えるよりも、監禁してトイレに行かせないとか3日に一回しか餌を与えないとか、そういう精神的なやつが効くんじゃねェの?」

「おお、一理あるぜ。じゃあ殺すのは後回しかな」

(!? マ、マズイ……この流れだと次は私の番か。拷問されても何も言う気はないが、こんなところで死ぬわけには……)



 リョウは依然として虚ろな目を入口の方へ向けている。其処にあるのはリーダーの入っている黒いビニール袋と、一つの人影・・・・・。拷問者達は入口に背を向けており気付いていない。

 手に手榴弾めいた物を握ったその人影を確認すると、其奴とアイコンタクトで無言の会話を交わし、またにやりと口を歪めた。

 そして……


「ううわあああああああああああああああああああ!ああああ!!!あああああああああああああああ!!

 ぎゃあああああああああ!!!」

「なんだァ!? 遂に気が狂ったか!」

「こら、ジタバタするなッ…!」


 突如奇声を上げ暴れだしたリョウを、二人がかりで押さえようとする。動かなくなったはずの足が動いているが、そんなことに気付く余裕もなかった。ボロボロになった手を掴み、左右の掌を重ねて、ナイフを思いっきり突き刺しデスクに固定した。

 更に力尽くで押さえつけ、顎を殴って砕き黙らせる。

 やっと黙った、と安堵した稲沢の踵に何かがコツンとぶつかった。


「ん? 何……」


 いつの間にか床に爆弾めいたものが散らばっていた。ダイナマイトの様なものから手榴弾のようなものまで。

 踵にぶつかったそれが、ボッと低い音を立てて破裂し、辺りに閃光を撒き散らす。それを皮切りにいくつもの破裂音。部屋は煙幕と閃光に埋め尽くされた。

 強烈な光を目に受けて拷問者達は一時的に盲目状態に陥る。デスクに寝ていたリョウは光を直視せずに済んだ。


 煙幕と盲目が収まった頃には、デスクに縫い付けられた腕のみが残っていた。爆破によるダメージは皆無であるものの、拷問者達はまんまと出し抜かれたのである。


「オイオイ逃げられてんじゃねェか、マヌケが。さっさと追うぞ」

「もういいや。なんか面倒くさい。多分もう俺等には手出しして来ないだろうし、大丈夫だと思うぜ」

「チッ。だからさッさと殺しときゃあ良かったんだ」



 ***



 危なかった……背骨を折られたときは流石にどうなるかと思ったぞ。目を抉られたのも結構効いた。今でも左目を失明する感覚が頭を離れない。

 だがおかげで、この体の扱い方がマスターできたといっても過言ではない。

 折られた背骨は応急処置程度ではあるが繋げることができた。磔にされた腕は、蜥蜴が尻尾を切り離すごとく切り離して置いてきた。なので今は両手とも肘先がないが、止血だってこのとおり。窮地に立たされた途端色々覚醒したっぽい。

 抉られた目も、切り離した腕も、多分暫くすれば元通りになるだろう。便利な体である。

 まあ、あそこでドクターが来てくれなかったら俺もリーダーも無事ではなかったろう。ドクターに感謝だ。


 リーダーはきちんと回収してドクターと一緒に担いで逃げた。だがあまり重いものを持つとまた背骨が折れそうだったので途中で開放した。

 因みに脱がされたスーツもしっかり回収済みである。さすがに道中全裸で歩くわけにもいかんし、何より愛着があるからな。

 そんなこんなで、何とかホテルまで戻ってきたわけである。

 顎は何とか上手く整えたが、顔面ボロボロ血塗れで眼球抉られている等、とてもじゃないが人には見せられないので、三人・・の陰に隠れながら部屋まで戻った。


「で……貴方一体どちら様で?」

「オレか?」

「貴方以外にいないでしょ」

「オレはキシダという者だ。よろしくなぁ」

「はあ」


 いや誰だよ。見たところリーダーと同い年ぐらいの若造のニーチャンって感じだが。

 リーダーが補足説明してきた。


「コイツも一応メンバーの一員だ。予め呼んでおいたんだが、コイツは基本別行動で任せていてな」

「そうだったんですか。新入りの菅原リョウと申します。どうもよろしくです」

「おうよ。そんなことよりお前、血ぃ拭け。それと眼帯買って来といた、ほら使え」

「あ、どうもです」


 結構面倒見のいい人だな。見た目に対して喋り方がおっさん臭いが。おっさんよりおっさん臭い。

 失くなった目の上をガーゼで覆い医療用の眼帯をかける。両手がないのでドクターに手伝ってもらった。付け心地はあまり良くないがその内慣れるだろう。

 ある程度落ち着いたところでリーダーが話し始める。


「うむ、今回の件で色々と気になることが浮上してきた。此方が動いていたことは初めから相手方に伝わっていたようだ。

 この場を突き止められるのも時間の問題かも知れない。

 ひとまず基地へ帰ろう」


 今日来たばかりだと言うのに、本当に疲れる一日だ。

 だが、消耗した俺を嘲笑うように、裏で事が大きく動いているようだった。


※キャラデータ※

名前:トランシーバーくん

性別:機械

肩書:便利な通信機

能力:通信(半径5km)

備考:二つで一セットの高性能トランシーバー。恭弥の電撃を受けても無事である程頑丈である。

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