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14-B

 突如侵入してきた男たちに対し、どうするべきかと動けずにいた私とは違い、イルマは取るべき行動を判断し、即実行に移していた。


「なっ……?」

 だけどそれは、私では絶対に即断できないものだった。


 イルマの手から放たれたナイフが、男の腹に突き立つ。


「がっ……!」

 よろめく男に対し、イルマはさらにナイフを投擲。


「ぐあっ!」

 それは、男の左腿に深々と突き刺さった。苦鳴を上げつつ、その場に膝をつく男。


 見れば、イルマはまだ数本のナイフが残るベルトを手に、冷たい笑みを浮かべている。

 そんな物をベッドのどこに置いていたのかという疑問よりも、彼女が男をどうするつもりなのかという疑問の方が大きい。

 いや、そんなのひと目でわかる。


 この子、殺すつもりだ……!


 わずかの躊躇も無く、次のナイフを抜き放つイルマに、私は慌てて声をかけようとする。


「待ちなさい、イルマ」

 が、それよりも先に、ハイディマリーがイルマを制止した。


「殺しては駄目よ」

 その声は、突然こんな状況に置かれたのにもかかわらず、異常なほどに冷静だった。


「殺さなきゃ、何してもいいの?」

 イルマも冷静のように見えるけど、その顔にある冷笑は、溢れ出る衝動を隠しきれてない。


 まるで、獲物を前に舌舐めずりをしている、猛獣のようだ。


「ええ、それならいいわ。ただし、やりすぎては駄目よ? あくまで、正当防衛の結果、返り討ちにしたという感じで勝ちなさい」


 ハイディマリーの言葉に、私は驚愕した。

 な、何を言ってるんだ、この人。


「おっけ~」

 ベッドの上から飛び降りると同時に、ナイフが刺さって呻いていた男の顔面に蹴りを食らわせ、壁に激突させる。


 直後、寝室の外、リビングにいたほかの男たちが突入してきた。

 数は2人。


 壁に後頭部を強打して動かなくなった男から剣を奪ったイルマは、突入してきた男たちへ肉薄。


「死ねぇ!」

 男の袈裟懸けの一閃を軽やかなステップで回避したイルマは、瞬時に男の懐へ突撃。体当たりを食らわせる。


 それにより男は後方へ吹き飛び、後ろにいた男も巻き込んで寝室の外へ転がっていった。


「ティナ!」

「!」

 イルマの声に、ハッとする。


「何ぼーっとしてんだ! あんたはボスを守れ!」

 そう言い終わるや、イルマは寝室を飛び出していった。すぐに、戦いの音が上がる。


 ……守るったって、どうすればいいんだよ。

 逃げるにしても、出口へ向かうにはリビングを通るしかない。


 後ろを振り返り、ハイディマリーと顔を見合わせる。

 そこには、穏やかな笑みがあった。


「私はあなたを信じているわ、ティナ」

 その言葉に、わずかに不安が薄れる。


 ベッドを下りて靴を履き、壁に立てかけておいた剣を持って、抜き放つ。



 ……敵と言っても、相手はファミリアじゃない。人間だ。

 下手に斬れば、殺してしまうことになる。


 彼らは敵だけど、斬って殺せば殺人だ。私は、犯罪者にはなりたくない。


 でも、そんな覚悟で、ハイディマリーを守ることができるのか?

 悩んでる暇は、無い!



 まだベッドに座ったままのハイディマリーへ、左手を差し出す。


「行きましょう。私が、あなたを守ります」

 ハイディマリーは、ニコッと笑って私の手を握る。


 ベッドを下りた彼女と共に、リビングへ。




 暗闇の中、外から射し込むわずかな光に浮かび上がる、複数の人間の姿。


 一体、敵は何人いるんだ?

 ……2、3、……そんなに多くはないな。


「おい! ハイディマリーが逃げるぞ!」

「!」

 だけど、私たちが寝室から出たことはすぐにバレた。


「ティナ!」

 イルマの声だ。私は頷き、ハイディマリーの手を引っ張って駆け出す。


「おおっと! 行かせねぇぞぉ!」

 男の声と足音。次いで、銀光が煌めく。


「くっ」

 瞬時にハイディマリーを後ろへ下がらせ、剣を振る。激しい金属音に、重たい衝撃。


 ……力じゃ敵わない!


「このまま、2人共叩き斬ってやるよっ!」

 男はさらに力を込める。じょじょに刃が近付いてくる。


「!」

 こんな時に、ハイディマリーが肩をぽんぽんと叩いてきた。


 そっちに意識を傾けたら、一気に攻め込まれてしまいそうな状況の中、ハイディマリーの手を握っている左手に、固い物が触れた。


 ……何だ?


「使って」

 ハイディマリーは私の手を剥がすと同時に、何かを握らせた。これは、……まさか!


 確認してる余裕は無い。

 握らされたそれを、眼前の男に向かって投げる。


「うぐっ」

 男の力が抜ける。その機を逃さず、両手で剣を握って一気に押し返し、思いっきり弾き飛ばす。


 さらに、その場で身体を回転させて回し蹴り。

 つま先は、男の頭部のどこかに直撃した。


 男が倒れたのを確認し、ハイディマリーの手を再び握って、ドアへ向かう。

 そして、ドア近くにある電灯のスイッチを入れる。


 パッと部屋が明るくなり、その場の状況が視界に飛び込んできた。


 リビングの真ん中辺りに、2人の男とイルマ。

 そして、私のすぐそばに倒れている男の左横腹には、ナイフが突き立っていた。


 やっぱり、ハイディマリーが握らせたのはこれだったのか。


「ティナ! 早くサイラスたちのところに行って!」

 自分が倒した男に意識を奪われていた私は、その声に我に返る。


「でもっ、イルマさんは?」

「いいから、さっさと行けっ!」

 そう言い放ち、敵へ向かっていくイルマ。


 私はわずかに躊躇した後、ハイディマリーの手を引いてドアを開け、廊下へ。




 階段を駆け下り、サイラスの部屋のドアを叩く。


「サイラスさん! 開けてっ!」

 何度もドアを叩いていると、ドアが半分ほど開き、寝起きの不機嫌そうなサイラスが顔を覗かせた。


「うるさいぞ。何だ」

「うるさいぞって……」

 ここには、奴らの仲間が来てないのか?


「ボス! どうされたのですか?」

 私の後ろにいるハイディマリーの姿を見て、サイラスはドアを開けつつ私を押し退けて飛び出してきた。


 その勢いに目を丸くしたハイディマリーは、上を指差す。

 つられて廊下の天井を見上げたサイラスに、彼女は「襲われちゃった」と明るく微笑んだ。


 何、その軽い感じ。命を狙われたっていうのに。

 当然、サイラスは「えええっ?」と驚愕。


 私たちの騒ぎを聞きつけてか、隣の部屋のドアが開き、ロナルドが顔を見せた。

 もちろん、そのすぐ後にロナルドも驚くことになる。




 ロナルドと、サイラスが起こしてきたヴェルノにハイディマリーを任せ、私とサイラスは3階へ戻った。


 部屋に入ると、すでに戦いは終わった後だった。


「あ、サイラス。遅かったね」

 リビングの中央辺りに立っているイルマは、見たところ無傷のようだ。


「敵は」

「とっくに倒したよ。ボスに殺すなって言われたから、とどめは刺してない。たぶん、全員生きてると思う」

 床に倒れている男たちは、私が倒した奴も含め、全員ぐったりしている。


「……よし。とりあえず縛り上げておくか。一箇所に集めろ」


 サイラスの指示で、私とイルマは、気絶した4人の男たちをリビングの中央に集め、サイラスが持ってきたロープで両手両足を拘束。


 男たちの腹などに刺さっているナイフは、出血を抑えるために刺さったまま放置。

 剣による傷は、出血が多い物だけ応急処置を施しておいた。




 その後、警察に連絡しようとしたところで、1階のエントランス付近に倒れている宿の従業員3人を発見。警官が来た後に病院に搬送された。

 全員、気絶させられていただけで外傷も無く、大事には至らなかったようだ。


 私たちの部屋に侵入してきた男4人は、警察病院へ運ばれた。こちらも、全員助かったらしい。

 回復し次第、全員から事情を聞くとのこと。


 彼らが従業員らを殴り倒し、部屋の合い鍵を盗んで侵入したのだろうというのが、警察の見解だ。

 私たちも、特に異論は無かった。




 簡単な聴取が終わり、今私たちは、2階の廊下に集まっている。


 そして、彼らが何者なのかという話になったわけだけど、それにはすでに、サイラスが答えを出していた。


「奴らは、間違いなくパトリック隊の隊員だ。顔を見たことがある」

 パトリック……。私をナイフで脅してきたあいつか。


「あいつの部下には、傭兵経験者はいなかったはず。イルマ1人でも簡単に制圧できたのは、そのためだ」

 でも、力は強かった。ハイディマリーがナイフを渡してくれなかったら、どうなってたことか……。


「パトリックの奴は、なんで急にここを襲わせたんだろな」

 ヴェルノの問いに答えるのは、ハイディマリーだ。


「彼らの狙いは、間違いなく私だった。ヘルミーネさんが行方をくらませてすぐにこんな行動に出たということは、あの人の指示の可能性が高いわね。報復のつもりだったんでしょう。あわよくば、私を殺せたらいいなって感じだったんじゃない?」


「ほかに、狙いは無いと?」

 あまり納得していない様子のサイラスに、ハイディマリーは「私はそう思うけど」と返す。私も、同じ考えだ。


「ま、やるならもっと早くにやるべきだったわね。すでにあの人たちは追われる身なのだから、今更私を殺したって、表舞台には戻れない。ますます罪が重くなるだけよ」


「なるほど。やはり拠点を潰されたことや、警察を差し向けたことに対する報復と考えていいみたいですね」

 ロナルドは納得した様子だ。


 ヴェルノとイルマは「ふむふむ」と頷き、サイラスも、それ以上意見をすることは無かった。


「わっ」

 突然、ハイディマリーが私の左腕を抱き締めた。イルマが、「あー!」と声を上げる。


 わけがわからず困惑する私に、ハイディマリーは「うふふ」と微笑む。


「ティナが敵の侵入に気付いてなかったら、私たちは無事では済まなかったと思うの。よく気付いてくれたわね、ありがと」

「あ、えっと、はい……」


 照れる私に、ヴェルノは「やるじゃん」、サイラスとロナルドは頷き、イルマはムスッとしながらも、文句は言わなかった。


「でも、その後活躍したのはイルマさんです。私は、1人相手にするのがやっとで」

 それを聞いて笑みを深めたハイディマリーは、イルマを手招きし、その右腕を抱き寄せた。


「イルマも、ありがとね」

 そう言われたイルマは、「えへへ」と嬉しそうに微笑んだ。




 その夜は、警官が宿の内外を警備・巡回する中、2階で過ごすことに。

 ヴェルノの部屋に移ったサイラスの部屋を使わせてもらったんだけど、なかなか寝付けなかった。


 ハイディマリーとイルマの2人は、あんなことがあったのにもかかわらず、すぐに寝ちゃってたけど。




 翌日の昼頃、宿に一通の電報が届けられた。


 それは、北部からハイディマリーに宛てられており、その内容は、ハイディマリーだけじゃなく、私たち全員を驚かせるものだった。

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