四天王VS砂漠の魔神
砂漠の魔神と呼ばれるドラゴンは、どんなに攻撃をしようとも砂が傷口を塞ぐため、ダメージは通らない
空気中に飛散する砂塵は、ドラゴンの体にすぐに吸収される
一撃で消し飛ばすこともできるが、それでは魔王都に近づく勇者を倒す戦力が減る
だから四天王は『捕獲して従事させる』ことにした
「ネットガン、出現」
フランが紙に手を当てながら唱えると、フランの隣に巨大な箱が現れる
大きな土台の上におかれた箱は上からみると四角いマスのようなものに区切られていて、合計25の穴がある
「いつでも撃てます」
「よし、べリアル!メア!集中砲火だ!」
ハルドが叫び、指示が出される
すると、各々飛びながらドラゴンを追っていた二名が動く
べリアルはそのまま飛行を続け、メアがドラゴンの飛行先をよんで先回りする
「フラッシュ!」
メアが空中でステッキを振ると同時、眩い閃光が突き抜ける
ギシャアアアアアア!!
「おらおらおら!!」
「魔砲、放射!」
視界を奪われたドラゴンに向けて、強力な攻撃が浴びせられる
必然、ドラゴンは攻撃を避ける為に逃げる
だが、ドラゴンは自分の住処への攻撃をした連中を放っておく訳はなく、ドラゴンは攻撃へと変更する
魔王はどこかに消えていて、メアの横には巨大な兵器らしき塊がある
ともなれば狙うのはハルドだ
「来たね……」
ドラゴンはハルドに向かって飛ぶ
ザアアアアアアア!
その口を開き、砂の放射をする
サンドブラストと言う工作機械を知っているだろうか?
高速で砂を撃ち出し、物質に当てる事で削り取って行く物だ
通常、木材は愚かガラス、金属をも削り取る力だが、ハルドに効きはしない
「さて……どうなるかな……!」
ハルドは軍刀を真っすぐとドラゴンに向けて佇む
今、ハルドにサンドブラストが直撃して——
ザンッッ!!
砂の濁流がハルドを包み込んだ
だが、様子がおかしい
ドラゴンも砂の中に飛び込んだが、出て来ない
巨大な砂のドームが存在するだけだ
「今だフラン!撃て!」
「了解です」
フランが紙をなでると同時、箱の中から鈍色の筒が飛び出す
シュババババババババ
順番に放出されるそれは、人間が使う『ミサイル』を魔界に導入し、暴徒鎮圧用に中に魔法網を仕込んであるタイプの物
魔法網とは、魔法で破れにくく強化した網や、魔力で作り出した特殊な網のことだ
ミサイルの全ては砂のドーム内に飛び込み、消える
サッ
砂のドームが内側から吹き飛ばされるように崩れた
中には巨大なドラゴンが居て、ネットで絡まっている
そのドラゴンの前にハルドは立っていて、軍刀を横に切っ先を向けて持っている
「高速回転で僕を中心に竜巻を起こして砂の運動ベクトルを変えてダメージを受けないようにした」
そう言ってハルドは軍刀を鞘に納める
砂がドームになったのは内側から外に向けた風圧がかかっていたからだ
ドラゴンの体は魂に砂が引き寄せられた物で、その結合は強固で、強力な攻撃でしか壊れない
「やったようだね」
ドラゴンは、砂で体を構成しているが、ドラゴン以外の形に変形する事は不可能で、網の目をくぐり抜ける事は不可能
特別な魔法で強化されたネットはドラゴンに絡み付き、動きを完全に封じている
「よくやったな。四天王」
魔王が現れ、その両脇にべリアルとメアが降り立ち、元の姿に戻る
実は魔王は戦闘が開始されると同時に結界魔法で隠れていた
「強力な魔神だ。お前を殺す訳はない。さて、メア。コイツに魔物化をさせろ」
RPGなどで主人公の親父が魔界に遠征して、それ以来帰って来ない事がある
そして、勇者が魔界に行き、魔王を追いつめると魔王に操られて魔物と化した親父が立ちはだかるケースがある
それは所謂、『魔物化』による影響だ
勇者が魔界の文化に触れる事で魔界に永住する為に魔物になったり、勇者が致命傷を負って魔界での治療が難しい場合に使ったりする
魔物の回復力は人間を遥かに凌駕するため、勇者が望むのであれば魔物に変えるのだ
「精神を、魔物化するよ!」
メアがドラゴンに近づき、触れる
人間の心と魔物の肉体と、様々な物が腐敗し、混合し、パニックになっているのだ
意思を聞く事はできないが、魔王軍に入ってもらおう
ブンッ
ドラゴンが一瞬パープルに発光してドラゴンの抵抗が止まる
「ハルド」
「はい」
魔王に視線を向けられたハルドが鞘に納めていた軍刀を再度抜き、ドラゴンにかかっている網を斬る
「さて、魔神よ。われが誰だかわかるか?」
「魔王、か」
「きちんと言葉を話せるようになったか」
ドラゴンは大きな鎌首を揺らし頷く
「わたしはこれから、この地を守る事になるのだな?」
「察しがいいな。その通りだ。いいか?」
「あぁ、わたしはこの地から離れる事はできない。そう言う呪いがかけられている。わたしにできる事は、この地を守る事だけだ」
魔神も了承をした
こうして、魔王軍の戦力が若干上がった
「ところで、魔神。この地にある油田を掘り起こしたいのだが、協力してくれまいか?」
「この大穴に、ハルド将軍の拳銃で弾を撃ち込めば、すぐに石油は溢れ出ますよ」
「ん?僕の?」
ハルドは首を傾げて聞く
「もう十分深さはあります、かなりの圧力がかかっていて、今にも出る寸前なのですが、表面がガラス質になっているせいで、溢れなくなっています」
「ああ……なるほどな」
ガラスは周辺の砂が落ちないようにするのにもつとめていたが、その反面、石油があふれでるのを防いでいた
「よし、ハルド、撃ち抜け」
「かしこまりました」
魔王に言われたので、ハルドは帯銃してある拳銃を抜き、1000メートル下の穴の最下部を狙う
「……。」
タンッ!
破裂音と共に打ち出された光の弾は、奥底へと吸い込まれていき――
ピシィッ
「割れたみたいです」
ハルドが撃った弾丸は一番下、円錐の頂点を砕き、黒い原油が溢れだした
「やったな!」
「うまくいったね!ダウンジングマシンも当たったよ!」
「メアさんショベル一本でここまで大穴開けましたしね」
べリアル、メア、ハルドが喜びを分かち合っている
だが、その傍ら、ポケットの中で振動した遠距離小型通信機を取り出して、通話をしている影がある
フランだ
「ええ……はい。なるほど、つまり……。研究が項をなした事は素晴らしいことですが、わたしたちは無駄骨だったと……。はい、わかりました。伝えておきます」
フランは通信機の電源をきって四天王に向き直る
魔王もなにも言ってはいないが、四天王を誉めるように小さく拍手をしている
「あの、みなさんよろしいでしょうか?」
水をさすのを申し訳ないようにフランが話しかける
「たった今、魔王都大学の魔物学部から連絡が来まして……。スティールドラゴンに餌とした与える鉱石を、鉄鉱石に、ニッケルやクロムを混ぜたものにしたところ、一般的な環境でもほぼ錆びないステンレスドラゴンになった……と。また、ステンレスドラゴンは稼働部の摩擦が少なくなるように進化して、潤滑油は必要ないとのことです」
メアはあっさりと爆弾を落とした
四天王と魔王の動きも止まる
やがて
「「はああああああああああああああああああああ
ああ!?」」
絶叫する
「えーとですね、一応原油の回収のためにここに空間転送装置の設置をするのですが、技術者にまかせるため、わたしたちは帰れますよ?」
フランは大穴を見つめつつ言う
「今回掘った石油は、スティールドラゴン以外にも使い道があるでしょう」
そういって、フランは帰路につく
四天王と魔王の出張は、見事に成功し
されど、軍への大きな変化はもたらさなかった
こんにちは永久院です
さて、スティールドラゴンの為に油田採掘をするイベント終了です
この小説では短編集みたいな感じでいろんなイベントにぶつかって行きます
大まかなストーリーも無くは無いですが、日常コメディの面が大きいです