魔王軍 軍備費予算案
「なぁ、ハルド」
「なんでしょう?魔王様」
ここは魔界、魔王国、魔王都地区、魔王城の最上階
魔王室
「これ、ここの軍備費……どうなってるんだ?」
「はいはい。どれでしょうか?」
魔王が近くにいた優男——ハルバード——に声をかけて、ハルバードが確認する
現在、通常業務で、魔王室にて四天王が各種書類に目を通して、端末で資料と比べて監査した後、魔王にまわった書類に、魔王が印鑑を押している
だが、そこで事件が起きた
「これ……軍備費予算案だよな?」
「そのようですが?」
魔王は書類を見ながらハルドに疑問をぶつける
「この……第15連隊の……『潤滑油』って何に使ってるんだ?」
「あぁ、そうですね、なんでしょう。気付きませんでした」
一応、防衛、戦術系の卒業であるハルドが書類を確認したのだが、その辺適当に見ていたので気付いていなかった
「お前適当だな……!」
「むしろ魔王様よく気付きましたね。そんな細かいところ」
「一応これでも魔王だからな」
何はともあれ、第15連隊の潤滑油は確かに疑問だ
第15連隊はその名の通り、魔王軍のドラゴン、その総合を指す言葉だ
機械魔族でもないドラゴンに潤滑油は要らないはず……
「ちょっとフランさん!」
「はい、なんです?ハルド」
ハルドがスーツ姿の女性に声をかけた
彼女もまた四天王の一人、フランベルジェだ
「魔王軍経理課に電話いれてほしいんだけど」
「あ、はい。用件はなんです?」
「えーと、軍備費予算案の第15連隊の潤滑油は何に使うのか聞きたいんだけど」
「わかりましたー」
この魔王室は魔王の玉座の左右に、壁に向かった事務机が二つずつ並んでいて、それぞれ四天王が座って仕事をしている
ハルドは入り口から見て左手前
ハルドの奥にはフランの机がある
反対側の手前にはメアの机があり
その奥はべリアルの机だ
「――もしもし、こちら魔王軍四天王、経理係のフランベルジェです。はい。どうも。お世話になっております。今回の用件はですね、魔王軍軍備費予算案の件なのですが、第15連隊の予算に書いてある、潤滑油と言うものが気になりまして。はい。そちらが、どう利用されるのかを説明していただきたいのですが、あ、ファックスおくってもらえます?どうもありがとうございます。それでは、失礼いたします」
プツッ
さすが元OLである
極めて礼儀正しく、なおかつスピーディーに話をつけたらしい
「ファックスを受信しますね」
フランが事務机の隣に置いてあるコピー機のスイッチを押して、少し待つ
ビーン
ジッジッジッジッジッ
ジュ、ビーン
「はい、プリントしました」
フランがプリントされた用紙をもって魔王とハルドに見せる
「あぁ、そう言うことか」
「なるほどな……」
ハルドと魔王は納得の声をあげる
「「スティールドラゴンか」」
この名は聞いたことのある人も多いだろう
スティールドラゴンとは、ドラゴン族の一種でドラゴンの魂が機械魔族の亡骸と結合し、生まれた珍しい種族だ
確かに、特定条件下での飼育は、すでに死んでいる上に本体が機械であるため長生きするのだが
元々個体数が少ない上に、繁殖する確率も僅かで、絶滅危惧種魔族に指定されているのだ
しかも、特定条件下での飼育は長生きするが、それ以外の条件だと極端に早死にしてしまう
人間たちは信じないかもしれないが、スティールドラゴンは錆びるのだ
「スティールドラゴンは錆びずに生きるのに成体だと一日100リットルの潤滑油を必要とするからな……」
「すごい額になりますよね……魔王様」
魔王とフランが頷きあう
「……竜族多いし、スティールドラゴンの維持費は減らしてもいいんじゃないか?」
ふと、魔王が潤滑油の代金に目を向けると、すさまじい代金になっていた
魔王軍への負担が大きすぎる
「ですが、魔王様」
そこでハルドが話し出す
彼の目には様々な思惑があった
「スティールドラゴンはランクで言うと中ボス級の戦闘力を持っています。鋼の肌に竜の力で防御力や物理攻撃力は魔界の中でも上位。そのうえ、絶滅危惧種魔族ですよ。保護した方がいいじゃないですか」
スティールドラゴンは自然界で生き延びるのはとても難しい
鉱山等に住み、錆びた表面の鉄を落としつつ新しい鉄をとって生きているスティールドラゴンもいるが、最近はその個体数も減ってきている
そして、スティールドラゴンは魔王軍にとってかなりの戦力になる
「べリアルのように戦車持ってる敵に攻め込まれたら普通の魔族はいざ知らず、ドラゴン族でも先制攻撃されたら致命傷なんですよ?」
「俺を呼んだか?」
机の上で彫刻刀で木彫りのワイバーンを掘っていたべリアルが声をあげる
「いや、呼んだわけではない」
実際のところ、戦車でもべリアルの戦車だったらスティールドラゴンなど一瞬で倒せるのだが
べリアルほどの戦車を持っているやからなどそういない
「……ハルド。お前は、スティールドラゴンを守りたいんだな?」
「コストパフォーマンスは微妙ですが、もしもこれからの魔界の安全を望むなら、スティールドラゴンは飼育を続けるべきです」
「……でも、他のドラゴンのエサ代よりも10倍近くかかりそうだぞ?」
「今年の予算はもう厳しいですよね……」
最近は不景気で魔王軍の予算も減ってきている
はっきりいって、財政難だ
ここに書いてある潤滑油を買う方向で進めるとしても、買ったら赤字になるかもしれない
どうしたものか……
魔王が悩んでいると、作業中の女が立ち上がり、声をあげた
「魔王様!お金がなければ潤滑油を買わなければ良いんですよ!」
ナイトメアは提案する
「だが、メア。潤滑油を買わないと魔王軍の戦力が下がるぞ?」
「だから、潤滑油を買わずに調達するんですよ!」
この、完全に少女しか見えない女、案外無茶を言う
「盗むのか……?」
「いや、違いますけど?」
「じゃあ、作るのか……?」
「まぁ、そうですね!」
メアは言う
「潤滑油を、作っちゃえば良いんです!」
「……どうやるんだ?」
「確か、原油を何回か蒸留すればできますよ!」
原油
地下深くに埋まっているアレだ
「……魔法とかで作り出すのかと」
「無から有を作る事はできませんし、合成でも潤滑油を作るのは難しいので。普通に作りましょう」
だが、まだ問題はある
「原油って、潤滑油より高くね?」
「蒸留も含めると、まぁ、高いですね」
本末転倒。完全に赤字へ推進である
「駄目じゃんかよ!」
「いえ!まだ手はあります!」
そしてメアは度肝を抜かせる提案を繰り出す
「油田を掘り出せば良いんですよ!」
こんにちは永久院悠軌です
早くも二話投稿です
魔王軍に起こる一つの事件
解決するのは、魔王と四天王