表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/100

第6話

牢-


総司は牢番から神崎のいるところを教えてもらうと、そのまま入っていった。

奉行所に神崎との面会を頼んだのであった。せめて処刑される前に、もう一度会いたいと思ったのである。

神崎は、あらわれた総司を見て驚いていた。

二人は格子を挟んで、しばらくお互い見つめ合っていた。


神崎「…よお…」


神崎が目を見開いたまま、そう言った。

総司は少し微笑んで「どうも」と答えた。


神崎「沖田総司が面会に来てくれるとはな。」

総司「…私が、死神に見えるでしょう。」


神崎は乾いた声で笑った。


神崎「死神にしちゃ、人がよすぎるな。」

総司「ふふふ」


総司はそう笑って、格子の前であぐらをかいて座った。


総司「…なんとか助けたいと思いましたが…やはり私の様な者ではどうにもなりませんでした。申し訳ない。」

神崎「わざわざ謝りに来てくれたのかい。…そりゃ、こちらが申し訳ないな。」


神崎は、ぼさぼさの頭を掻きながら言った。


総司「処刑されるのをわかっていても、相変わらずなんですね。」

神崎「あんたに会った時から覚悟はできていたさ。…でも、まさかあの「沖田総司」が来るとは思っていなかったんだ。俺らのような雑魚ざこのためによ…。」

総司「雑魚の割には、手を焼きました。」


総司がそう言って笑うと、神崎も笑った。


神崎「…あんたには感服したよ。」

総司「?」

神崎「部下をあんな風に自慢する人間は初めてだった…。「自分の部下に正面からかかって助かる人はいない。」なんてな…。普通、言えないぜ。その言葉で、どうあがいたって勝てないと思ったんだ。」

総司「それだけのことで…?」

神崎「そうだ。…あんたのような男になら斬られても後悔はないかな…って思った。」

総司「…それは言いすぎだ。」


神崎は笑った。


神崎「わかったか。…実はそこまで考えていなかった。…でも、あんたを斬ることはできないとは思ったよ。そして…あんたに会えてよかったと思った。…これは本当だ。」

総司「…私もです。…何か、昔の友人に久しぶりに会えたような気持ちがします。」

神崎「沖田総司の友人かぁ。いいかもなぁ。」


そう言って笑う神崎に、総司は真面目な顔で言った。


総司「その言葉に甘えて言います。今からでも間に合うかも知れません。…新選組に来ませんか?あなたの統率力ならば、きっといい地位にもつけます。…どうせ死ぬ気なら同じでしょう?」

神崎「!!」


神埼はしばらく目を見開いていたが、やがて下を向いて「ふふっ」と笑った。


神崎「勘弁してくれ。幕府の犬になるなんて…死んだ方がましよ。」


総司はため息をついた。


総司「…そう言うと思いました。」

神崎「…ありがとう。…気持ちは本当に嬉しいよ。」


神崎は今まで見せたことのない笑顔を見せた。

総司は驚いたが、やがて笑顔を返した。


…2日後、神崎は処刑された。

風が強い日だった。


……


総司は、文机にひじをついて外を見ていた。処刑された神崎のことを思い出している。


総司「…死んで欲しくなかったなぁ…。」


処刑後、神崎の首は三条河原にさらされた。

総司はその首を見に行ったのだった。苦しんだ様子はない。覚悟を決めて死んだいさぎよささえ感じた。


総司「…どうしてだろう…。話した時間は少ないのに、今でも忘れられないな…。」


そう呟いて、仰向けになって寝転んだ。


『勘弁してくれ。幕府の犬になるなんて…死んだ方がましよ。』


総司(あの、こだわりはなんだろう。…どうしてそこまで思想を貫こうとするんだろう。)


総司自身は、近藤や土方の行くところならどこへでもついていきたい…とは思っているが、幕府のために…という気持ちはあまりない。

だから、近藤が幕府を裏切る時は自分も従うだろう。…そんなことはないとは思うが。


総司(土方さんはもしかすると違うかな。)


土方は確固たる思想を持っているように見える。それが総司には恐ろしかった。


総司(近藤さんと土方さんが離れてしまったら…私は…?)


総司は起き上がった。そして再び空を見上げた。


『でも、まさかあの「沖田総司」が来るとは思っていなかったんだ。俺らのような雑魚のためによ…。』


ふと空を横切る鳥を目で追いながら、その言葉を思い出した。


総司(中條君も…)


『…「沖田総司」だからです。…遊ばれて終わるのだと思っていました。』


総司(名前が一人歩きしてしまっている。…それもたくさん尾ひれをつけて…)


総司はそう思って苦笑した。その時、また鳥が空を横切った。


総司(鳥はいいなぁ…。名前もないし、自由だし…。)


「沖田総司」の名を棄てて、どこかへ行きたい…。一瞬そんな思いがよぎった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ