第3話
新選組屯所 中庭-
中條「まさか先生が…私の相手をされるとは思っていなかったのです。だから先生に呼ばれた時…私はただ…遊ばれて終わるのだと思いました。」
総司「……」
総司は苦笑しながら、こめかみを指で掻いた。そんな風に見られていたとは思わなかった。
中條「でも…先生は私と対峙した時…とても真剣な目で私を見ていました。…そして真剣に私に竹刀を振るってくださいました。…それに驚いたんです。…子供のように打ちひしがれる私を見ても、にやりともしなかった。最後まで…真剣な表情で…」
総司は手の平で目を覆った。恥ずかしかったのである。
総司「いや…つい、私はなんでもむきになってしまうんですよ。稽古のときぐらい、弱いと思う相手には手心を加えてやれ…って近藤先生にも言われてるんですけどね。…駄目なんです。そもそも、中條君を弱い相手だとも思わなかったし…それに…」
総司は中條に優しく言った。
総司「今でも思っていますが、君の腕は悪くない。私は、ちゃんと君の腕を見抜いていたと自負しています。」
中條は驚いた表情で総司を見た。
総司「自信を持って。…何事も自信を持たなければ、せっかくの才能が台無しになってしまうものです。過剰になってもいけないけれど、なさすぎるのも、もったいない話です。」
中條は顔を赤くして、その場にひれ伏すように頭を下げた。
総司「…よしてくださいよ。…私は殿様じゃない。」
総司はそう言って笑った。
……
総司は中條に寝るようにすすめ、そのまま自分も部屋に戻り、やっと床の中に入った。
総司(皆、いろんな思いを抱いて、新選組に入ってくる…)
総司は天井を睨みながら思った。
総司(…そして、死んでいく…)
総司は体を横にした。
総司(死ぬ時は、何を思うのだろうな…。新選組に入ったことを悔やんで死ぬんだろうか…)
総司は、うとうとしはじめ、とうとう眠りに入った。
……
「先生!先生!起きてください!出動の命が下りました!」
総司はその声に飛び起きた。
総司(…やっと寝付いたところだったのに…。)
そう思いながら「わかった。」と言って、床から出た。
総司「山野君だね、入っていいよ。」
「はっ」という遠慮がちな返事がして、山野がふすまをあけて入ってきた。
総司「なんの出動ですか?」
総司は、着替えながら尋ねた。
山野「はっ…。前から監察が調べていた件で…」
総司「ああ…例の討幕集団だね。」
総司が苦笑しながら言った。このところ、討幕派と思われる一集団との小競り合いが続いていた。巡察中にもからんでくるし、どこかで騒ぎを起こして、何かと挑発する集団だった。誰かが糸を引いているのか、それとも、単なる集団遊びなのかはわからない。が、うるさくてたまらない。このことには、土方や近藤も頭を悩ましていた。
山野「はい。その集団がねぐらにしていると思われる旅籠を見つけたので、少しでも早いうちに潰した方がいいと…」
総司「それにしても、いきなりですね。今までだったら、前日にはわかっていたのになぁ。」
山野「…はぁ…」
総司「よし、準備が整ったよ。皆はもう集まっていますか?」
山野「はい!」
総司「そうだ、中條君は?」
山野は不思議そうな表情をした。
山野「?…皆と一緒に待っていますが…」
総司「…眠いだろうなぁ…」
山野「は?」
総司「いや、こっちの話だ。…さぁ、行こう。」
総司は、気合を入れるように一つ大きく息を吐いてから部屋を出た。山野が後に続いた。