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第四話

 イベルトでは、木々が街を彩るように植えられていて、たくさんの家もまた街を彩るように建てられているのでした。元々明るい色合いを持つ街は夕焼けを受け入れて、美しい表情を見せています。そんな中で、一際大きな建物があります。街の他の場所と比べると賑やかなのは、ここは教会で、人々が集まっているからです。そんなことは知ったことかと教会の影で寝ている人もいて、実に様々な人がいます。ですが人々は一様に、神様との交流を求めてここまで足を運ぶのでした。

 教会の中には夕陽が射し、人々を照らしていました。整った顔立ちをした18歳ほどの青年が、人々の間を歩き、一人一人の人と会話をしています。この青年こそが、神様です。神様は真っ白な衣装で体を包んでいます。その純粋さを感じさせる姿もまた、人々の心を揺さぶるのでした。

「この間会社に解雇されてしまって、自信をなくしてしまいました……。わたしはどうしたらいいのでしょう」

「自信をなくすことなんてありません。大丈夫です、あなたが使える魔法はあなたがしたいことなのでしょう?それもまたひとつの道しるべであり、あなたのできることなのです」

「ああ、ありがとうございます」

 一人の30歳くらいの男が、神様の言葉に頭を深く下げます。他の人も、相談をしたり、自分の住む町のことを話したり、悪人の話をしたりします。神様はそれらに答え、人々を満足させるのでした。

 教会に男の子と女の子が入ってきました。男の子は袋を持っていて、少し重そうにしています。神様はそれに気づき、二人のもとへ近づいて行きました。

「その袋はどうしたの?重そうだね」

「神様に渡すんだよー」

「ぼくが神様だよ。わざわざ持ってきてくれたんだね、ありがとう」

 そういうと、男の子は喜んで袋を渡しました。女の子も男の子を顔を合わせて笑いました。

「きみたちは初めて見るね、お名前は?」

「ゆうたです!」

「まりです!」

「そうか、ありがとう。モンストの斉藤さんのものだね。ここまで来るなんて疲れただろう?休んでいくといいよ」

 神様は二人を教会の小部屋まで案内しました。二人ははしゃいでいましたが、ベッドに飛び込んでゴロゴロと転がったあと、疲れたのか眠ってしまいました。神様はそれを見て微笑んでから、人々のもとへ戻りました。


 ゆうたくんが目を覚ますと、窓の外はもう真っ暗でした。ざわざわしていた教会も、しんと静まり返っています。ゆうたくんはベッドから抜け出して、何か面白いものないかな、と小部屋の中をあさり始めました。ガサガサという音に、まりちゃんも目を覚ましました。まりちゃんは、そんなゆうたくんをベッドに座って眺めていました。

 小部屋の扉が開きました。神様が様子を見に来たのです。二人と散らかった部屋を見て、神様は微笑みました。

「退屈だったんだね、ごめんね。あ、ものはそのままでいいよ」

 散らかったものを片付けようとしたゆうたくんをとめて、神様はベッドの前にイスを置いて座りました。ゆうたくんもそれを見て、ベッドに座りました。

「そうだね、それじゃあ何か話をしようか」

「魔法のおはなしがいい」とゆうたくん。

「魔法か。ゆうたくんはどんな魔法が使いたいの?」

「わかんない」

「まりちゃんは?」

「うーん、あたしもわかんない」

「ふふ、確かにまだ早いのかもしれないね」

「神様は何か魔法使えるの?」とゆうたくんは目を輝かせます。

 神様は一瞬息を呑んだあと、うーん、と悩んだ顔をして「使えるよ」と答えました。

「どんな魔法?」とまりちゃんも目を輝かせます。

「それじゃあ、ぼくの魔法の話をしよう。ちょっと長くなるけどね」

 そして、神様は語り始めました。

 まずは、どこから話そうかな。じゃあ、ぼくがどんな魔法を使えるか、というところから話そうか。ぼくの魔法は、簡単にいうと神様になるという魔法だよ。そう、ぼくは元々普通の人だったんだ。ぼくは15歳くらいの頃から、人々を救いたい、と思っていたんだ。くだらない理由で人殺しが起きたり、殺すまではしなくても人を悲しませたり、貶めたりするという光景を何度も見てきた。罰はあったけど、当時は魔法がなかったから、悪人もいっぱいいたんだよ。当然、幸せもあったけど、それ以上に不幸が目立って見えた。なぜなのか、ぼくは考えた。そして、ひとつの結論に至った。すべては人々の"欲"のせいだ。くだらない優越感や、自己顕示欲、衝動的欲求によって、多くの人々が苦しめられている。ならば、それを制御できれば不幸は減るんじゃないか。そう思って、ぼくはどうすれば合理的に"欲"を制御できるか考えた。だが、どう考えたって人々の"欲"を制御できるわけがなかった。どんな罰を用意しようと、制御するシステムが人間の外側にある限り、人間の行動のほうが先になり悪事は発生してしまう。その反面、仮に人間の内側に制御するシステムがあったとして、人間の"欲"の良し悪しをどう判断するのか。あるいは、それは人々の個性をなくしてしまう恐れがあった。だから、どうしたって人間の外側にシステムがある状態で、行動を制御しなければいけなかった。人間の判断から、行動までの間に制御がかからなければいけなかった。現実的に不可能だった。魔法があればと思った。神を恨んだ。どうして現実はこんなにも穴だらけなんだと思った。それなら、ぼくが神になって新しい現実を作ってやる。そして、18歳になったとき、ぼくの理想の世界は現実に現れた。その時は本当に驚いたけれど、何が起こったのかは理解できた。ぼくは世界中の人々の"欲"を認識できるようになっていた。その情報の認識も制御できたし、情報量に耐えられるほどの頭にもなっていた。何よりも、人々が自らの欲を反映させた魔法を使える世界になっていることを感じた。そして、人が魔法を使えるようになるには、ぼくの許可が必要だった。まるで、ぼくの意思が世界中の大気に溶け込んだような感覚だった。ぼくは神になったんだ、と理解した。それを象徴するかのように、ぼくはその日から歳をとらなくなった。そしてそれから数百年間。他人の幸せを邪魔しない限り、"欲"を満たすのは悪いことじゃない。でも、幸せも"欲"も人によって違う。だから、ある程度の指針としてぼくがいて、また、魔法の制御をしている。そんな世界が続いてきたんだよ。

 あと実は、本当にしたいことは別にあったんだよ。それは、許すこと。昔から、自分のしていることは正しいのか、自分のするべきことは何か、と考える人がいる。自分の行動を鑑みて判断をする、紛れもなく良い人だよ。でも時に彼らの思考は、悪い方向へと進むことがある。自らの理想や感性と、自らのしていることの不一致を感じて、自傷や自殺をする人だ。ぼくの父親もそうだった。そして、母親も後を追った……。そう、最近でも持田健治という良き青年が命を絶った。彼は、自分の欲は他の命を冒涜しているのではないか、自分はひどく愚かな人間なのではないか、と自責して死んだ。彼の魔法は肉を生み出せた。それは、新に犠牲になる動物をなくすことができる、素晴らしいものだった。だが、彼の理想や感性には反していたんだ。ぼくはそのような人を、魔法を使えるよう許可することで、許したかったんだ。だが、現実に彼は死んでしまったし、自殺者はあとを絶たない。自殺は"悪いこと"ではない。でも、するべきじゃないんだ。彼らは許されるべきなんだ……。

 ぼくは魔法を使ってこの世界を変えてきた。でもね、ぼくは自分の価値観をある種暴力的に振りかざしているだけなんじゃないか。そうとも思えるんだ。魔法は確かに人々を救っている。でも、ぼくが本当に救いたかった人は、救えてないじゃないか……。本当は"欲"と……。ん、眠いかい? そうか、もうこんな時間か。ごめんね、変な話をしちゃって。明日はモンストまで帰られるよう、人を手配するよ。うん、また明日ね。おやすみなさい。

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