第一話
もし魔法が使えたら。そんな想像をする人は少なくないのではないでしょうか。もしかしたら、誰もがしたことのある想像かもしれません。しかし、魔法が使える世界では制御を忘れた人々が暴走し、人の命さえも簡単に左右できてしまうでしょう。でも、これからおはなしする世界では、魔法は使えてもそんな世界ではありません。その世界には神様がいて、人々の魔法を良いことにしか使えないようにしています。そして、悪さをしたら良い人に魔法でやっつけられてしまうかもしれませんから、悪い人がとても少ないのです。これからおはなしするのは、そんな世界の、のどかな町に住む子どもたちのおはなしです……。
ここはモンストという静かな町。家が十軒ほどしかない、小さな町です。地面は平らで、どこに立っても町のすべてが見渡すことができます。土の匂いが香り、ところどころに生えた草花が歌っています。町のまんなかには、まるでシンボルのように木が一本生えています。それほど大きくはないのですが、それもまたモンストらしいということで町の人々には愛されている木です。木の下では一人の男の子と一人の女の子が遊んでいて、周りにいる二人のおばさんがそれを見ながら話をしています。その様子を少し覗いてみましょう。
「ゆうたくんとまりちゃんはいつも元気ねえ」
「本当にねえ。あたしたちとは大違いだよ」
「あっはっは!やっぱり森さんも体を動かしたくないのね」
「あっはっは!あらやだ、そういえばお昼ご飯の材料のことを忘れてたわ。上村さん、お願いできる?」
「はいはい、まかせてね」
どうやら、この二人は森さんと上村さんという名前のようです。森さんがメモ帳を取り出して、お昼ご飯の材料を書いています。書き終わると、そのメモを上村さんに渡して「よろしくね」と笑いました。すると上村さんはパッと姿を消しました。
森さんも「さてと」といって、動き始めます。モンストの数少ない家の前には物干し竿とカゴがあって、物干し竿には無造作に洗濯物がかけられています。森さんは一軒一軒回って、その洗濯物に魔法をかけます。魔法をかけられた洗濯物はすぐに乾いて、きれいに折りたたまれてカゴの中に入るのでした。
森さんが「ふぅ」と一息をつく頃に、上村さんがまたパッと現れて、手に持った買い物袋を森さんに渡しました。上村さんは買い物に行っていたようです。
「ありがとね」と森さんはいって、お金を上村さんに渡しました。
「あらあら、洗濯物をやっておいてくれたのね。ありがとね」
森さんは、洗濯物を乾かしてたたむ魔法が使えるので、この町の洗濯物は森さんがいつもこうして片付けています。雨が降っている日でも、森さんにかかればすぐに洗濯物が乾くのです。
上村さんは、ワープすることができるので、隣町のスーパーで買い物をすることができます。モンストには店がないので、町の人の買い物は上村さんが任されています。
この町の人々は、こうやって自分のできることを町の人々のために使いあっています。モンストは何かをするのに便利な町ではないのですが、人々にとってはあまり気にすることでもないのです。
「ゆうたくん、まりちゃん。そろそろお昼ご飯じゃないの?お母さんがきっと待ってるよ」
森さんが木の下の子どもたちに声をかけました。二人は「はーい」と返事をして、それぞれ家に帰って行きました。森さんと上村さんも、お昼ご飯の準備をするために、家に帰って行きました。
さて、ここからはゆうたくんの様子を覗いてみましょう。ゆうたくんは家に帰って、お母さんとお昼ご飯を食べています。
「お母さん、今日も森さんと上村さんが魔法を使ってたよ」
「あら。森さんにはあとでお礼をいわなきゃね」
「ぼくも魔法使ってみたいよー」
「18歳になるまで、我慢ね。それまでに自分のしたいことを考えておくのよ」
「がまんー」
この世界では、18歳になるのと同時に魔法が使えるようになります。自分の一番したいことがひとつ、魔法になるのです。ゆうたくんは、それを待ちきれないようです。
でも、ゆうたくんにはしたいことがありませんでした。ですから、お母さんに「考えておくのよ」といわれても何も思い浮かびません。ゆうたくんは、なんだかモヤモヤするのでした。お昼ご飯を食べ終わると、ゆうたくんは外に出て木の下に行きました。まりちゃんもお昼ご飯を食べ終わったら木の下に来るのですが、まりちゃんはまだいませんでした。
近くに上村さんがいました。ゆうたくんは、上村さんに魔法のことを聞いてみることにしました。
「上村さんはワープがしたかったの?」
「そうねえ。おばさんは昔から面倒臭がりでね。お昼ご飯も作るのが面倒だったから、カップラーメンにしちゃったわよ。でもやっぱり、どこかに行くっていうのが面倒くさくてね、こんなときにワープできたらなあ、って思うことが多かったんだよ」
「ふーん」
「ゆうたくんは動くのが面倒くさかったりしないの?」
「うん。遊ぶの好き」
「あっはっは!そうね、おばさんとは違うわよね。何かしたいこととかはないの?」
「うーん。わかんない」
「ゆうたくんにはまだ早いかもねえ。でも、色々なところへ行ったり、色々なものを見たりすると、わかるかもしれないね」
ゆうたくんは目を輝かせました。色々なところへ行ったり、色々なものを見たりしようと決めたのでした。
「ありがとうございました」
ゆうたくんが大きい声でゆっくりというと、上村さんは「いい子ねえ」といってゆうたくんの頭を撫でました。
ゆうたくんは上村さんと別れると、まりちゃんと家の前まで行きました。丁度その時、まりちゃんが家から出てきて、目の前にいるゆうたくんに驚きました。
「どうしたの?」とまりちゃんが尋ねます。
「色々なところへ行ったり、色々なものを見たりすると、したいことがわかるんだって!魔法がわかるんだって!行こうよ!」
大喜びするゆうたくんをみて、まりちゃんも楽しい気分になってきました。そして、まりちゃんもまた魔法に興味があったので「うん!」と元気よく答えました。まりちゃんはハッとして「準備しなきゃ」といって家に戻って、少しするとまた戻ってきました。
「行ってきまーす!」
まりちゃんの大きな声と共に、ゆうたくんとまりちゃんの冒険は始まるのでした。




