キンシン
あ~あ、よく寝た。
あれ、いつ着換えたっけ?
てか、ここどこ?
「やったー!大成功だね!」
え?何、この子?
「誰?」
「君の名前は、篠ノ芽優馬<しののめゆうま>だ!」
白衣のポケットから手を出した眼鏡の幼女が、ビシッと指差してくる。
「そんな事知ってるよ」
「あれ?記憶喪失ネタじゃないの?」
「君は誰なのか、訊いてるんだ」
「ああ、そっち。あたしは篠ノ芽舞<しののめまい>。貴方の娘よ!」
また、ビシッと指差してくる。
「へ?」
「ちょっと~。お父さんの方から振ってきたんだから、もっと大袈裟にリアクションしてよ~」
「待った待った!俺に子どもがいるわけ無いだろ。まだ、18だぞ!?」
「それは身体だけでしょ~。も~、あたしこのネタ飽きた~。早く、婚姻届出しに行こうよっ」
「誰と誰の?」
「あたしとお父さんのでしょ~」
「はあ?何、訳分かんない事言ってるんだよ」
「お父さんの方こそ、さっきから変だよ?まさか、本当に記憶喪失とか言うんじゃないでしょ~ね」
「もう何が何だか……」
「ね、ねえ?!今までの、全部冗談だよね!?ほんとに記憶まで若返ったなんて事ないよね!?あたしの事、忘れちゃったなんて事、ないよねっ!!?」
「いや、ホントに君の事もこの部屋の事も知らないし」
「そんな……、そんなぁぁぁ!わああぁぁぁぁん!!!」
こっちが泣きたい。
「じゃあ、説明するね……」
「うん」
「お父さんは、若返り薬の研究をしてたの。それがついに完成して、自分に使ったの。そしたら……」
「記憶まで、昔に戻ってしまった。と」
「そうみたい……。お父さんの記憶だと、さっきまで何してたの?」
「寝て、起きたら、こうなってた」
「そう……。動物実験じゃ、記憶なんて確かめられないよ……」
「あの、婚姻届って、どういう事?」
「薬が完成したら、結婚しようって約束してたの……」
「でも、俺達親子なんだよね?」
「そっか。18の頃じゃ、まだ知らないんだ。少子化対策の一環で、近親婚が認められる様になったの。流石に二代続けては危険だから、あたし達の子どもは近親婚出来ないけど」
「ところで、舞ちゃんはいくつ?」
「10歳だよ。でも、大丈夫。結婚の年齢制限に特例ができたの。高校卒業レベルの知能を証明出来ればOKって。あたしは、飛び級で高校卒業したから、結婚出来るの」
凄い事になってんなぁ、未来。
「記憶を戻す方法とかないの?」
「無い……よ。記憶まで若返る事態は想定してなかったし、若返ってもまた年は取ってくから元の年齢に戻す薬も考えてないし」
そうか……、どうすっかなぁ。
「ところでさ、今のお父さんから見て、あたしってどう?」
「可愛いよ」
「じゃあ、結婚してくれる?」
「うぇ!?いやあ、まだ会ったばかりだし……」
「解ってるよ。まあ、記憶の方はあたしに任せて、とりあえずこの時代に慣れ……」
「こんにちはー」
女の人が入って来た。
「あれ?舞ちゃん、この人誰?なんか見覚えがあるんだけど……」
「……お父さんだよ」
「あ~!じゃあ、若返り薬完成したんだ!」
「舞ちゃん、こちらの美人さん、誰?」
「むっ。まあ、いいか。お父さんの妹の結<ゆい>叔母ちゃんだよ。当時5歳だったから、知ってるでしょ?」
ほ~。小っちゃかった結が、こんなに大きくなったのか。背とか胸とか。
「結。いくつになったんだ?」
「何それ!?私の歳忘れたっていうの!?ハタチよ!」
俺より年上だ。
「叔母ちゃん。実は……」
「そんなぁ、お兄ちゃん……」
「ごめんな、結」
「別に謝る事じゃないけど……、お兄ちゃん、私と結婚しよ!」
「は?」
「ちょっ!!ちょっとちょっとちょっと!今更何言うのよ。叔母ちゃんは、お父さんにはっきり振られたでしょ!」
「何、その話」
「そんなのチャラよ、チャラ。記憶を失くしたんだから、また振り出しでしょ。18と20なら歳も近いし。それに舞ちゃんの事は知らなくても、私の事は覚えてるもんね~」
「覚えてるったって、5歳の頃までなんだけど……」
あの頃とは、大分違うだろ。主に大きさが。
「ふっ。覚えてるって事は、妹としか思われないって事よ。その点、あたしは娘という実感が無いから有利なのよ!」
なんで煽るの。
「お父さん!」
「お兄ちゃん!」
「「どっちと結婚するの!?」」