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第7話 魔導書三昧


 と、ノックではなくドア越しにエルの声が響く。

 俺がドアを開けると、現れたのは本の山だった。

 正確に言うと、エルが両手で本の山を抱えていた。


「だ、大丈夫なのかそれ?」

「お構いなく。よっとと、せいやーっ!」


 ドスンと魔導書の山を机の上に置くと、エルは右手の甲で額を拭った。

 立派な装丁の分厚い魔導書が一〇冊あまり。

 総ページ数はとてつもない量になるだろう。


「こんなにあるのか……」

「なにをおっしゃいますラディ様。これっぽっちのわけないじゃないですか」


 エルに手招きされて廊下を見ると、何十冊もの魔導書が台車一杯に積まれていた。


「こ、これを全部読めと……?」

「はいっ。最低限これくらいは読破しないとお話になりませんからね!」


 俺はまったくもって本好きではないのだが、四の五の言ってはいられない。

 魔導書をすべて自室に運びこみ、自らに気合を入れる。


「やるしかないな」

「わたくしは読破にひと月ほどかかりましたけど、ラディ様ならその半分でいけますよ!」


 エルは自信満々に言って退散していった。


「無茶振りするなぁ」


 俺は愚痴をこぼしてから、一人で黙々とページをめくり始めた。


(これは――思った以上に)


 すらすらと読めるし、内容も頭に入ってくる。

 魔導書はその性質上、絵や図による解説が多めで文章の密度はさほど高くない。

 そしてなにより、ラディの優れた頭脳がめざましい速読を可能にしていた。


 悔しいが、元の俺の脳髄ではこうはいかなかっただろう。

 俺はエルのメモ書きに従って「必読!」の魔導書から目を通していた。

 そこで取り上げられているのは、古今東西の歴史に名を残す「属性魔法」たちだった。


 属性魔法の概念はおおむね俺の前提知識と一致している。

 水・風・雷・土・冷気・光といった、自然現象ないしは自然そのものを扱う魔法のカテゴリーだ。


 当然そこに火だけは含まれない。

 火は単独で「呪われた魔法」にカテゴライズされていた。


 ともかく、火を除外した属性魔法は間口の広さと懐の深さを兼ね備え、古来より多くの傑出した魔導師を輩出してきた。

 実際に魔導書を読んでいると、現代日本で多くのファンタジー作品に触れた俺をも唸らせるような独創的な魔法がいくつもあった。


 読み進めているうちに思う。たしかに座学はとてつもなく重要だ。

 先人の知恵とはいわば優れた師であり、これを欠いた訓練は五里霧中もいいところ。


 たとえるなら、ライトも点けずに真っ暗な山道を車で走るようなものだった。

 事故を起こす前に気づけたのはもっけの幸い。

 しかし読めば読むほど、俺は残念でならない気持ちにさらされた。


「火の魔導書があればなぁ……」


 先人の魔法を真似るという、もっとも単純にして効果的な手法が取れないのは痛手だった。

 俺は椅子に背をもたれかけて部屋の天井を仰ぎ見る。


「ひとまずは火葬の死使徒を目標にするしかないか……?」


 明確な手本ではあるが、正直なところ気乗りしなかった。

 火葬の死使徒ラディスラフではどうあがいても不死者に勝てない。

 だからこそ俺は過去にまで来たというのに、そこを目標とするのでは本末転倒な気がした。


 世界観設定を反映してか『ダムドファントム』では不死者が修得できる火属性の魔法もない。

 かといって他に手本となるものは――


「っ!?」


 はっと気づき、俺は椅子から飛び上がった。


「馬鹿か俺は……!」


 自分の間抜けさを呪いたくなる。

 先人の知恵ならある。火の魔法のお手本はいくらでもあった。

 俺の脳内に、現代日本で触れた多くのファンタジー作品という形で。

 質といい量といい、この魔導書の山にも負けないほどの知識が集積されていた。


「そうだよ、ゲームの世界ならゲームの魔法を真似するのが一番手っ取り早いだろうがっ……!」


 なぜ真っ先に思い至らなかったのかと、逆に不思議なくらいだった。

 現代知識を活用した魔法なんて、誰もが即座に思いつきそうなアイディアなのに。


 もしかしたら、と思う。

 今の俺はラディの記憶を継承し、ラディの脳髄で思考している。

 そのせいで無意識に「この世界の常識」に縛られつつあったのかもしれない。


「さて、どこから始める?」


 考える。ゲームにしろ漫画にしろアニメにしろ、魔法が出てくる世界観で火属性が登場しない作品は皆無だ。

 目移りするほど手本は数多ある。


 とはいえ、いきなり「究極最終魔法」のような大技の再現を試みても、失敗するのはそれこそ火を見るより明らかだった。

 やはり基本から固めていくのが王道だろう。


「となると、この三つだな」


 俺は右手の指を折りながら、最初に修得をめざす魔法を脳内にリストアップした。


 火系魔法の基礎ともいえる『火球ファイアボール』。

 同じく定番といっていい『火矢ファイアアロー』。

 そしてラディスラフの得意技である『火走ファイアスターター』。


 目標は定まった。となればすぐに試したくなるのが人の性だ。

 俺は衝動を押さえきれず、魔導書を閉じて席を立った。


「エルに見つかりませんように、と」


 そっとドアを開けると、祈りながら部屋を後にした。


   ◇◇◇


 訓練場に着くと、さっそく俺は『火球ファイアボール』の練習から始めた。

 掌に生み出した火を球状にしようと試みるのだが、


「ぐっ……意外とっ……!」


 全力をそそいでも火は大きくなるばかりで上手くいかなかった。

火矢ファイアアロー』に関しても同様の結果。

 火の形状を変化させるのは想定外の難易度だった。


「どうしてだ……?」


 理由を考える。創作ではもっともポピュラーな魔法だけに、イメージの練りこみ不足という線は考えづらい。


「自然現象に反しているから、か?」


 考えてみれば、現実世界で「火の玉」というものを見たことはなかった。

 それはどちらかといえば怪奇現象や心霊現象を指す言葉だ。

 

 しかし「だからこそ」とも思う。

火球ファイアボール』を実現できれば、ミスカリア史上に例のない独創的な魔法となるはずだ。

 方向性は間違っていない。あとは手段を確立するだけだ。


「ラ・デ・ィ・さ・まぁ?」


 と、背後で響いた声に俺はびくりとして固まった。

 恐る恐る振り返ると案の定、エルが満面の笑みを浮かべて立っていた。


「や、やあエル、今日も見学に来たのか?」

「いえいえ、そんなつもりは毛頭ありませんでしたよ。だって今の時間、ラディ様はお部屋で真面目に座学に打ちこんでいるはずなんですからね」


 ずいずいと歩み寄ってプレッシャーをかけてくる。


「き、急に閃いてどうしても試したくなってさ。いやぁ、エルの言った通り座学は本当に大事だなっ!」

「では今夜、必ず補修の時間を設けてくださいね?」

「ああ、もちろんだ! 約束するっ!」


 俺はどうにかエルを納得させた。

 ほっとひと息ついて『火球ファイアボール』の練習に戻ろうとしたとき、


「よぉラディ。まさかとは思ったが、本当に無駄な努力をしてるとはな」


 またしても現れる闖入者。それも予期せぬ珍客だった。

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