表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/28

第28話 過ちは正さなくてはならない

(な、なんとかなった……) 


 火の魔法剣の反動は凄まじく、俺はその場に膝をついた。

 まさに今あるすべてを出し切った渾身の一太刀だった。

 そうでなくとも不死者から負ったダメージは大きく、肉体も精神も満身創痍だったが――


「天敵を退けるとは、お見事でございます」


 元凶である魔女はいまだに健在。

 幻像の不死者を倒したところで、本体である魔女には微々たる痛手も与えられていなかった。


「では、次は三体同時にお相手いただくとしましょう」


 涼しい顔で絶望的なことを口にする。


「――『鬼胎の幻像を映し給え』」

「――『此方と彼方を翻し給え』」


 同じ呪文が唱えられ、俺にとっての絶望が召喚された。


(だから、召喚したほうを倒すのが鉄則なんだよな……!)


 死神ビルドの不死者の幻像が、三体。

 こんなもの、笑うしかなかった。

 一体だけでも辛勝だったというのに、満身創痍の状態で三体と同時に戦って勝てるわけがない。


「……潮時だな」


 俺は天を仰いで短いため息を吐き出した。

 三体の不死者が動き出し、慎重に俺との距離を詰めてくる。


(こうなったらもう「切り札」を使うしかない、か……)


 俺一人の力ではどうにもならない。

 だから、俺の生命と運命をゆだねるしかない。

 彼女がその気になりさえすれば、こんな状況くらいどうとでもなるはずなのだから。


 その結果、どのみち俺は死ぬことになるかもしれないが――それならそれで仕方ない。

 不死者の幻像なんぞに殺されるよりはだいぶマシな死に方だろう。


「――キアラっ、聞いてくれ」


 決死の覚悟で俺は呼びかけた。

 キアラは依然として電磁障球の中で本を読んでおり、俺の危機にも無関心を貫いている。

 俺は委細構わず、決定的なひと言を口にした。


「『過ちは正さなくてはならない』――俺もそう思うよ」

「――!」


 効果は覿面。キアラは本のページをめくる指を止め、出会って初めて俺の顔を直視して目を合わせた。


「あなたっ、どうしてそれを――?」


 そのうえ、常に無表情だった美貌に明白な驚きの色が現れていた。


「知ってるのかって? そりゃあ、君から直接聞いたからだよ」


 もちろんこの世界ではなく『ダムドファントム』のゲーム内でだが。

 にやりと笑って俺は言った。


「だから、まったく同感だ。君の兄さんじゃなくて、君こそが新たな竜王になるべきだった」

「ッッッ――!?」


 キアラの反応は劇的だった。

 ゾゾゾゥンッ! 今まさに俺に斬りかからんとしていた三体の不死者が、それぞれ重力球に呑みこまれてことごとく消滅した。


「な、なんとッ……!? その魔法はまさか重力――」


 つづけて歓喜の声を上げた魔女もまた、三体とも重力球に呑まれて消え失せた。

 キアラの重力魔法は霊体すらも圧し潰し、引き千切り、完全なる死をもたらす。

 理の外にある絶対的な力は「竜の器」であればこそ。

 そもそも重力魔法とは本来、竜王のみが振るえる「神の御業」にほかならなかった。


「さすがだな」


 キアラの正体を知っている俺としては、この程度は驚くに値しなかった。

 命脈の巫女キアラ。『ダムドファントム』のメインヒロインであり、拠点にて不死者のレベルアップを担う最重要キャラ。


 それと同時に、彼女は恐ろしく戦闘能力の高い最強の協力NPCでもあった。

 条件を満たすとラスボス戦でのみ共闘が可能で、鬼神のごとき活躍を見せてくれる。


 ズゥンッ……! そんなキアラの重力は俺にも牙を剥いた。


「がッ……!」


 なす術なくうつ伏せの体勢で地面に押しつけられる。

 おそらく重力は通常の一〇倍以上。魔力が枯渇した今の俺では身動き一つできなかった。


 こうなると予測できたからこそ、俺はキアラに対する切り札を安易に使わなかった。

 彼女に興味を抱かせることはできるが、見ての通り諸刃の剣の最たるものだ。

 不死者の幻影や魔女のように問答無用で圧死させられてはいないが、いつまで持つかはわからない。


「ありえないわ。魔女ですら私が『竜の器』だと知らないのに――」


 キアラはふわりと俺の近くに降下する。

 視界の上端に、重力制御で浮遊する彼女の爪先が垣間見えた。


「答えなさい。あなたはなぜ、知るはずのないことを知っているの?」

 

 重力が多少やわらぎ、口を動かせるようになる。


「さ、さっき言っただろ。俺は君から直接聞いたんだ、キアラ――ぐぁぅッ!」


 懲罰のごとく重力が強化され、俺の体は一段と圧迫された。


「ふざけないで。あなたとは入学以前に会ったこともないし、話したこともない。次もまた真面目に答えなかったら、全身の骨を砕いて殺すわよ」


 危機的な状況であるにもかかわらず、俺はほのかな懐かしさとうれしさを覚えた。

 可憐な見た目に反した苛烈極まりない性格こそが、俺のよく知る「命脈の巫女キアラ」の特筆すべき個性だったからだ。


「ふざけてなんかいないし、俺は最初から大真面目だ――がァゥぁッ!?」


 キアラはさっそく有言実行し、俺の両足首から下の骨を粉砕した。

 なけなしの魔力を総動員して痛覚を遮断し、どうにか意識を保つ。

 両足はさぞ酷い有り様だろうが、体勢の関係で目視はできない。

 むしろ幸いだった。


「次は両手を潰すわ」


 どこまでも冷酷にキアラは言うが、


「ぐっ……ぅうッ……! い、いいかっ、論理的に考えてみろよっ! 君から直接聞く以外に知る方法があるかっ! ないよなっ! だから――」


 バギボギッ……! キアラは宣告通り俺の両手を粉砕した。


「がァァっぅうッ……! キ、キアラだって知りたいはずだよなっ! 俺がいつどこでどうやって君から話を聞いたのかをッ……!」

「っ……!」


 直後、高重力がスッと消えて俺は圧迫から解放された。

 それに砕かれたはずの両手足がいつの間にか元通りになっている。


(これは――微細な重力を無数に発生させて骨や肉をくっつけたのか……?)


 だとしたら神業という以外にない。想像を絶する高次元の魔法だった。


「聞いてあげるから、話しなさい」


 キアラが地に足をつけ、腕を組みながら言う。


「最初に言っておくけど――俺は新たな竜王、つまり君の兄さんを殺すつもりでいる」


 俺は立ち上がりながら言った。


「なんですって……?」

「だからキアラ、俺の目的は君と同じなんだ」

「待って。どうしてあなたが兄さんを殺そうなんて思うのよ?」

「それは――」


 俺は深呼吸を一つ挟んだ。

 さすがにこれを話すとなると緊張せざるをえなかった。


「新たな竜王が誕生したら、この世界が滅ぶからだ」

「まるで未来でも見てきたような口ぶりね」

「ああ、その通りだ。俺は未来から来て、この先に起こることを知っている。キアラ、君の本心を知っているのだって、未来の君から聞いたからなんだ」


 その説明は真実とは微妙に違うが、嘘ではなかった。

 ここで異世界やゲームの話まで持ち出せば、説明がややこしくなりすぎて逆効果だろう。


「……」


 キアラはさしたるリアクションも取らず、黙したまま鋭い目つきで俺をじっと見つめる。

 心の内を見透かさんとするような眼光だ。

 

 俺は怯まずに言葉を重ねた。


「未来は酷い有り様だった。瘴気によって死が蔓延し、世界は崩壊しかけている。すべては呪われし王が誕生してしまったせいだ。君の言うとおり、彼が竜の器として選ばれたのは最悪の『過ち』だったんだ」

「そんな話を信じろというの?」

「信じなくてもいい。大事なのは目的と行動だからな。キアラ、俺も『過ち』を正したいんだ。この世界を救うために。なによりも俺自身が生き延びるために」


 キアラは考えこむ。

 にわかには信じられないが、世迷い言だと切り捨てるわけにもいかない。

 彼女の心情はそんな塩梅だろう。


「君だって一人で竜王を倒せるとは思ってない。だから行動を起こさずにいるんだよな? けど、俺なら一緒に戦える。二人で協力して竜王殺しを果たしてやろうぜ……!」

「仮に、あなたの話が真実だったとして――」


 ズゥンッ……! 高重力が発生し、俺は強制的に膝を屈せられた。


「そんな力で、竜王相手になにができるつもりなの」

「い、今は、無力でもっ……!」


 俺は重圧に抗って立ち上がり、キアラを正面から見返して言った。


「必ず、強くなってみせる! 竜王を倒せるくらいになッ……!」

「――好きになさい。私はなにも期待しないわ」


 重力を解除し、キアラはくるりと背中を向けた。

 危ない橋を渡って死にかけたが、どうにか俺は難局を乗り切ったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ