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第27話 火の魔法剣

「な――はッ……!?」


 痛みは一瞬で治まったが、精神的な衝撃が甚大だった。

 俺の肉体にはいかなる物理的外傷もない。

 それなのに多量の血が流れ出たからには、もはや疑いの余地はなかった。


 最も恐れていた「出血」の状態異常が起きてしまったのだ。

 しかしなぜ? 攻撃を喰らわなければ状態異常値が蓄積するはずもないのに――


(ま、まさか――「斬り結び」は「ガード」として判定されたッ……!?)


 近接武器によるガード。それでは状態異常は一〇〇%カットできず、着実に蓄積していってしまう。


 死神ビルド。全武器でもトップクラスの状態異常値を持つノコギリ鎌をメイン武器とし、相手の出血を狙っていく装備構成。

 その凶悪な本領は出血後にこそ発揮された。


 俺が出血すると同時に、不死者の体は暗い赤色のオーラに包まれる。

 装備したアミュレットの効果発動。

 死神ビルドでは「周りで出血時に攻撃力上昇」を積むのが鉄板だった。

 そんな危機的な状況にもかかわらず、俺の体は金縛りにあったように動かない。


(くそっ……強制怯みか……!)


 悪いことに出血発生時の怯みもゲーム通りに発生していた。

 不死者は左手にまたもや魔石杖を装備し、すぐさま魔法を使用する。


 ――血液系魔法『簒血の祝杯』。


 頭上に掲げた杖の先に深紅の杯を象ったシンボルが出現すると、そこへ向かって俺の体から流れた血が吸い寄せられていく。

 杯が砕け、不死者は鮮血のシャワーを全身に浴びた。


『簒血の祝杯』は特殊な魔法で「敵の出血後五秒以内」でのみ効力を発揮するという厳しい制約があった。

 そのぶん効果は絶大で、HPとMPの大回復に加えて一時的な全ステータス上昇までついてくる。


 これで俺が必死に与えたダメージは帳消し。

 不死者は全快どころか大幅な強化状態で戦闘が再開する。


 出血は毒などの状態異常と違って継続的なダメージは発生しない。

 救いはその点くらいで、後はだいたい最悪の状況だった。


 不死者は再び鎌の両手持ちに切り替え、斬撃を見舞ってくる。

 攻撃モーションが明らかに速い。まるでそこだけ時間が加速しているようだった。

 最後の駄目押し、ノコギリ鎌の付帯効果「周りで出血時に攻撃速度上昇」が発動したのだ。


 これが死神ビルドの真骨頂。

 ひとたび出血したら最後、敵には多重の強化バフが発動して一気に畳みかけられてしまう。


「ぐぅッ……!」 


 俺も斬撃を繰り出して応戦するが、先ほどよりも目に見えて分が悪かった。

 一方的に押しこまれ、反撃のいとぐちが見出せない。


(こんなぶっ壊れビルド、発売前に気づいて修正しとけよなっ……!)


 まさか異世界まで来て、開発者への悪態を繰り返すことになるとは思わなかった。

 正直、こうなってはどうにもならない。

 正攻法ではどう足掻いても勝ち目はない。

 不死者の攻撃を死に物狂いで捌いて「ガード」しながら、俺は諦めの境地で一つの「結果」を受け入れていた。


 目に見えない状態常置が蓄積していく。残念がながら防ぐ手立てはなかった。

 このままでは二度目の出血も時間の問題。

 それ以前に、不死者の猛攻をしのぐ俺の両腕が限界だと悲鳴を上げていた。


 バギンッ……! 直後、不死者の攻撃によって俺のシミターが大きく弾かれた。


(っ……! 「ガード崩し」かッ……!)


 ガード時にはスタミナを消耗し、これがゼロになるまで削られると体勢が崩れてしまう。

 無防備な姿をさらした俺に対し、不死者が取る一手は決まっていた。


 ――絶命の一撃。


 不死者は特殊モーションで鎌の刃を俺の首の後ろにかける。

 そして、左足で体を蹴り飛ばすと同時に鎌を引き、俺の首を掻っ切った。


「がはァッ……!?」


 激痛とともに首から血がほとばしる。

 例によって物理的な外傷はなく、首は胴体とつながったままだが、俺はもう虫の息だった。

 蹴り飛ばされた勢いで力なく仰向けに倒れる。 


 あと一撃で俺の命は潰えるが、不死者は最後の最後まで抜け目がなかった。

 体勢を低くした、魔力武技『血刃弧月』の構え。

 単発最高火力の攻撃を「起き上がり」に重ね、確実にとどめを刺すつもりだ。


(もう、仕方ないよな――)


 起き上がった俺は片膝を立てた姿勢のまま、あえてなにもしないという選択をとった。

 覚悟はできている。この「結果」はすでに受け入れていた。

 血の刃を纏ったノコギリ鎌の斬撃が、今度こそ俺の首を断たんと迫り――


 ピィンッ……! 必殺を期した不死者の一撃は、俺の体に接触する寸前で弾かれ軌道がそれた。

 なぜか? 俺の体に沿うように魔法障壁が展開していたからだ。

 身につけていた魔法武闘会の選手証が、致命的なダメージを検知したことによって。


 ここが精神世界である都合上、発動するかどうかは賭けだったが、決して分が悪くはないと俺は踏んでいた。

 なにしろ異世界のゲームの現象までおおむね再現されているのだ。


「だったら、魔道具の効果くらい再現されて当然だよなッ……!」


 これで俺は魔法武闘会を失格となったが、この「結果」は甘んじて受け入れるしかない。

 不死者に勝てるなら安いもの。お釣りがくるくらいだった。

 不死者は大技を空振りしたことで相応の隙を生じていた。


(ここで決めるッ――!)


 紛れもなく最初にして最後のチャンスだ。

 二度目はない。学生証は外しているため、魔法障壁に頼れるのは一回限りだ。

 生きるか死ぬか、すべてをこの技に託す。


(――火の魔法剣)


 そもそもの話をしよう。

 俺がソウゲンに弟子入りを志願したのは、彼の魔力剣技を習得するためではない。

 習得した上で自身の魔法と組み合わせ「火の魔法剣」を編み出すことが真の目的だった。


 元から構想はあった。その実現可能性に関しては日々の鍛錬の中で検討を重ねていた。

 実のところ術理の構築、いわゆる「技の設計図」はすでに組み上がっていた。

 それも土壇場で、今日この戦いが始まったまさにそのときに、だ。


 魔法とは、強敵にこそ大いに学ぶもの。

 おりしも今日、魔法舞踏会でエドワールが見せた固有魔法と魔光弾の合わせ技。

 さらについ先刻、魔女が見せた二つの固有魔法の融合という離れ業。

 それらを目にし、構造を把握し、効力の凄まじさを身を持って味わった結果、俺の中に新たな技が形作られた。


 俺はシミターを両手で握り、流れるような動作で上段に構えた。

 束の間、目を閉じて不死者のことも忘れる。己の技だけに全身全霊を集中した。


 ――『技を習うんじゃねえ、技に習うんだ』


 師の金言を思い出し、心の中で復唱する。


 ――『理想の技を常に想起し、それを戦の中で更新しつづけろ』


 そうだ、片時も忘れたことはない。


 ――『その果てにこそ、お前さんだけが成しうる至高にして究極の技があるはずだぜ』 


 至高にも究極にも程遠いが、ひとまず形を成すことが肝心だ。

 火の魔法と魔力剣技を同時に発動する。

 ただし、それだけでは単に「火属性を付与した魔力剣技」となってしまう。

 そんなものでは足りない。不死者を倒しきる必殺の一撃に至らない。


 ならばどうするか? 答えは「融合」だ。

 思えば俺は魔力剣技を習得したことで「瞬発」の概念を学び、その「瞬発」を応用することで高速燃焼「爆燃」を習得した。

 今度は「爆燃」を魔力剣技に応用する。


(燃やすのは――俺自身だッ!) 


 カッと目を見開くや、俺は一気呵成に技を発動した。

 既存の魔力剣技と同じく、全身の魔力を瞬間的に高めて横溢させる。

 そしてその魔力に着火し、身の内で高速燃焼させた。

 爆燃によって生じた強烈な圧力が限界を超えた速度で俺の肉体を稼働させる。


「――火の魔法剣『鋼斬り』ッ!」


 振り下ろすシミターの刀身もまた、ほとばしる火勢によって加速されていた。

 ガギュィインッ! 不死者は寸でのところで盾に持ち替え、俺の一撃を受け止めた。

 だが、火の魔法剣の威力は通常の魔力剣技の数倍に達している。


 バゴゥンッ……! 振りきったシミターの切っ先が地面に到達する。

 と同時に、不死者の盾は上方へと大きく跳ね上げられていた。

 物理的にはおかしい現象だが、ゲームの再現としてはまったくもって正しい。

 そのまま不死者は大きな隙をさらす。

 スタミナ切れによる「ガード崩し」の成立だ。


(やり返させてもらうぞ――!)


 俺はすぐさま不死者に肉薄し、シミターを引いて刺突の予備動作に入った。


 ――絶命の一撃。


 そこから先は、まるでプログラムに従うかのごとく半ば自動的に体が動いた。

 不死者の鳩尾に刀身を突き刺し、一気に背中まで貫通させる。

 つづけて先ほどやられたように、左足で胴体を蹴り飛ばしながら剣を引き抜いた。


 大量出血しながら不死者が仰向けに倒れる。

 まだ死んではいない。

 絶命の一撃だけではHPを削り切れていなかった。


 が、倒れている不死者に追撃は控える。

 ゲームが再現されているなら、転倒中は無敵になっていると考えられるからだ。


 代わりに俺は素早く不死者の背後に回り、再度シミターを引いて刺突の構えを取った。

 これが人間であれば、背後をケアしつつ体勢を立て直すはずだが、不死者はゲームのモーション通りに正面を向いたまま起き上がった。

 その瞬間に刺突を重ねる。シミターはなんの抵抗もなく背中から胸までを貫いた。


背後絶命バックスタブ――ったぞッ……!」


 宣言してから、またもや不死者を蹴り飛ばす。

 ザシュッ………! うつ伏せに倒れこむと、命の糸が断たれるような音が響いた。

 絶命。不死者は短い悲鳴を最期に動かなくなる。

 この世界に来て最初の戦闘の時と同じく、身につけた装備ごと光の粒子に還元されていった。

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