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第24話 魔法武闘会・初陣

 魔法武闘会の初日がやってきた。

 大会期間中は通常の講義はすべて休みとなり、個別の「教室」も開かれない。


 学院の学生数は一学年につき五〇〇人程度。

 俺は全体の半分くらいは参加すると見立てていたが、実際にはもっと少なく一〇〇人そこそこの数だった。

 校内に貼り出されたトーナメント表の前で、俺は特定の人物の名前を探したが、


(キアラは……参加してないのか。残念だな)


 彼女の現在の実力を知るまたとないチャンスだと思ったが、ままならないものだ。

 気を取り直して自分の試合へと意識を集中する。


 魔法武闘会は、学院内にある専用の円形闘技場にて全試合が取り組まれる。

 一会場での進行だと時間がかかりそうに思えるが、なにしろ魔法戦は決着までが早い。

 最短で数秒、最長でも五分を超えることは滅多にないため、驚くほどにサクサクと進行していく。


 かくいう俺の一回戦も、取るに足らない相手を開幕の『火球ファイアボール』で瞬殺して終わった。

 つづく二回戦、意外な相手との対戦カードが組まれていた。


「ふふはははははっ! こんなに早く君と戦えるとは思えなかったよ、ラディスラフ!」

「その声と喋り方、エドワールか」


 かつて入学初日に俺に魔法戦をふっかけ、あえなく敗北を喫した自称天才。

 顔を見てもすぐに気づけなかったのは、約束通り長いクルクルの金髪をばっさり短く切っていたからだった。


「ラディスラフ! いや、あえてこう呼ばせてもらおう! 我が宿命の好敵手ライバル強敵ともよ!」

「お、おう」


 俺は苦笑してしまうが、エドワールはいたって本気で大真面目だった。


「さあ驚き慄くがいいっ! ただでさえ天才のこの僕が敗北の屈辱から這い上がり、超天才として舞い戻ってきたのだからなぁッ!」

「なんていうか、相変わらずで安心したよ」

「今日まで僕は君に勝つことだけを目標に強くなった! いや、強くなりすぎてしまったかもしれない! だから強敵ともよっ、くれぐれも僕を失望させる戦いだけはしないでくれたまえよっ!」


 魔法戦が始まる。

 エドワールが魔石杖を構えると、先端に淡い緑色の魔光が輝いた。


(こいつ、まさか――!)


 固有魔法と魔光弾の組み合わせ。その技術を早くも修得済みだというのか。


「ふふははははっ! 見るがいいっ、我が『空裂』の刃をッ!」


 エドワールは魔光弾を三日月状に形成し、風圧によって高速射出してきた。

 俺が認識するところの「真空波」や「かまいたち」を彷彿とさせる魔法。

 それにしても驚くべきは同時発動のスムーズさだ。修得したてとはとても思えない。

 高度な制御をエドワールは苦もなくこなしていた。


(自称じゃなくて本当に天才かもな――)


 エドワールに対する評価を大幅に改めつつ、俺はシミターの柄に手をかけた。


「――魔力剣技『鐵払い』!」


 居合抜きの形で斬撃を繰り出し、エドワールの『空裂』を相殺する。

 俺が剣を使ったせいだろう、周囲の観客席からはひときわ大きなどよめきが上がった。


「魔力の剣とは面妖にして異端なり! しかし強敵ともよっ、その切っ先が僕に届くことは永遠に無いと言っておこう!」


 エドワールが左手の指を鳴らし、間断なく次なる魔法を発動した。


「何故ならば! 君はすでに捕らえられているからだっ! 我が『真空』の檻になぁッ!」


『空裂』を運んできた魔力の風が俺の周囲で激しく流動する。

 しかしなんの影響もない――と思った直後、突然に息ができなくなった。


(こ、これはっ……!)


 比喩ではなく、物理的に呼吸が不可能になった。

 エドワールが風の流れで空気圧を操作し、俺の周りを『真空』状態にしたからだ。

 即座に片手で口と鼻を塞いで息を止める。

 いま肺の中にある酸素を失えば、ものの数秒で俺は意識を失い敗北が確定する。


「ふふふははははっ! そうとも、何人たりとも酸素なしでは生きられない! そして強敵ともよっ、超天才と化した僕はすでに知っているぞ! 火が燃えるためにも酸素は必要不可欠だということをな!」


 自身の魔法のレベルを格段に上げただけでなく、俺の魔法の弱点まで抜かりなく調査してくるとは。


(本当に、俺に勝つことだけを目標にしてきたんだな……!)


 認めざるをえない。今のエドワールは俺にとっても紛れもない好敵手で強敵だった。

 それでも、負けを認める気はさらさらない。

 この状況は手詰まりではなかった。


 何度か説明した通り、燃焼の三要素とは「熱」「可燃物」「酸素」である。

 よって、酸素を除去してしまえば火は生じず俺の魔法は無力化される。

 というのは『焼火箭ファイアランチャー』を修得する以前の話だ。


 高速燃焼「爆燃」による圧倒的な推進力の獲得。

 それを実現した結果『焼火箭ファイアランチャー』を構成する俺の魔力は「火薬」にも似た性質を帯びるようになった。


 火薬とはあらかじめ「燃料」と「酸化剤」を混合した物質だ。

 その化学的特性ゆえに爆燃が起こるのだが、副産物として無酸素状態でも熱さえあれば燃焼が可能だった。


(『焼火箭ファイアランチャー』――)


 俺は魔法でそれを再現する。


(――発射ッ!)


 大サイズの火の矢を生成し、間髪いれずに射出する。

 爆燃による加速をもってすれば、エドワールへの着弾はほとんど瞬時だった。


「なっ、なにィッ――!?」


 驚愕の悲鳴ごと炎が呑みこむ。

 登校初日の再現。またしてもエドワールの体は魔法障壁で覆われた。

 胸元に付けた選手証、その魔石が砕けて敗退が決まった。

 周囲の真空状態が解除されると、俺は片膝をついて激しく酸素を求めた。


「っ……げほっ、ふぅはぁっ……!」


 危ないところだった。

 あと一秒か二秒、酸欠状態がつづいていたら、重傷判定と見做されて魔法障壁が展開していただろう。

 息を整えた俺は、茫然自失の態で立ち尽くしているエドワールに近づいて言った。


「やるな、エドワール。お前の魔法は本当に天才的だったぜ」


 そして自然な動作で手を差し出し握手を求めたが、


「やめろっ! 敗者に情けをかけるんじゃない!」

「いや、俺はそんなつもりじゃ……」

「勘違いするな! 僕と君はもう強敵ともでもなんでもない! 何故ならっ、何故ならばっ!」

 

 エドワールは片手で顔を覆うと、天を仰ぎながら嘆いた。


「この僕が君の強敵ともにふさわしくない魔導師に堕してしまったからだッ!」

「は、はあ……」


 どうにも俺にはついていけないノリだった。


「だからラディスラフよ、これで終りなどとは思わないことだ! 僕はもっと強くなって帰ってくる! そして誓おう! その時こそ君の真の強敵ともたらんことをッ!」

「ああ、期待して待ってるぜ」


 こいつとはどう足掻いても長い付き合いになりそうだ。

 とはいえ、まったくもって悪い気はしない。

 現代日本にいたころも含めて、本当に久しぶりだったからだ。


(俺を「とも」だなんて呼んでくれる人間はな――)


   ◇◇◇


 エドワールとの対戦を終えた俺は、気分転換のためいったん闘技場の外に出た。

 学生の大半が闘技場に詰めかけているため、校庭は人の気配がなくやたらと静かだ。


 そんな静謐な空気の中、俺はキアラとばったり会った。

 相変わらずの寒気すら覚える美貌に、なんの感情も宿さない瞳と表情。

 もう帰宅するつもりなのか、手には鞄を下げていた。

 俺は思わず立ち止まったが、キアラは一定のペースで向こうから歩いてくる。


「なあ、キアラが魔法武闘会に出ないのはどうしてなんだ?」

「興味がないからよ」


 いつも通り、目線も合わさずに答える。


「出場したら優勝も狙えるんじゃないのか。なんてったって首席入学者なんだろ?」

「興味がないと言っているでしょう」


 声を荒らげて激昂もしなければ、ことさら冷たい口調で軽蔑をあらわにもしない。

 常に揺るぎない中庸な態度は、キアラが俺に心底興味がないことを物語っていた。


 だからといって諦めるわけにもいかない。

 キアラが横を通り過ぎても、俺はしつこく追いすがった。

 彼女を味方につけられたときのメリットは計り知れない。

 不死者のレベルアップの阻止。

 これを実現できたなら、俺の計画は大きく前進する。


「じゃあ、どうしたら俺に興味を持ってくれるんだ?」

「ありえないわ。ねえ、あなた――」


 表情も口調もそのままでキアラは言った。


「もしかして、私のことが好きなの?」

「えっ!? い、いや、それはっ……」


 自分の気持ちが自分でも解らず、俺はどもってしまった。

 俺がストーカーじみた真似までしているのは、純粋に不死者殺しの大願を果たすため。

 キアラに対して恋愛感情はない。

 そもそも俺は、ゲームに限らず創作物のキャラに対して本気ガチで恋をするという感覚が解らなかった。


(でも、本当にそうか……?)

 

『ダムドファントム』をプレイしていた時、拠点に戻って話しかけるたび「おかえりなさい」と言ってくれるキアラに、特別な感情を少しでも抱かなかったと言えるのか?


 そして、今やキアラはゲーム内のキャラクターではない。

 生きた本物の人間として、手の伸ばせば触れられる存在として目の前にいるのだ。

 俺は――


「やめておきなさい。これは本気の警告よ」


 初めてキアラは足を止め、振り返らずに言った。

 俺の生温かい思考を一瞬で断ち切るほど、冷厳たる声音だった。


「でないと、あなた――死ぬことになるわ」

「し、死ぬって……」


 笑い飛ばそうとしたが、できなかった。

 それほどまでにキアラの言葉は真に迫っていて、有無を言わせぬ威圧感に満ちていた。

 と――


「な、なんだっ……!」


 突如として、異常な現象が俺たちの周囲に起こっていた。

 学院の建物が、校庭の地面が、空と雲と太陽が、ことごとくぐにゃりと歪んで正常な形を失っていく。


(俺の目がおかしくなったのか?)


 違う。これは周りの景色が、空間そのものが歪曲しているのだ。


「警告が遅かったようね」


 キアラが微々たる嘆息をこぼしてつぶやいた。

 空間の歪みはとどまることを知らず、ついに元の景色は一本の線になってぷつりと消えた。

 暗転。地面の感覚すら消失し、完全な暗黒領域に俺とキアラの体だけが取り残され――


 次の瞬間、俺たちは見知らぬ場所へと転移していた。

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