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第2話 無理ゲー

 不死者によるミスカリア攻略の旅は、ここより遠く離れた地点からあらためてスタートする。

 フィールドを探索し、いくつものダンジョンを攻略し、無数の敵と戦い幾度となく死亡と復活を繰り返し――


 遠くないうちに、必ずやこの場所に舞い戻ってくる。

 今度こそ、俺という存在に絶対的な死をもたらすために。


 再戦時、俺の勝率は限りなくゼロに近い。

 実際に戦ってみて、あと一撃で死亡というところまで追い詰められて、はっきりとわかった。


 あの不死者は、すでに卓越した戦闘技術を有している。

 足りないのは、レベルと装備とアイテムと武技と魔法と――要するにそれ以外の全部だ。

 それらは今後、ミスカリア攻略を進めることで自ずと手に入り、不死者を飛躍的に強化する。


 対して俺ことラディスラフはすでに完成しており成長の余地はない。

 不死者との再戦時もステータスの強化はなく、新しい技や魔法が追加されることもない。


 これが『ダムドファントム』に依拠したこの世界の厳然たる摂理だった。

 たしかに俺は当面の危機を脱した。しかし、長いスパンで見れば死の運命は微塵も変わっていない。

 ラディスラフに転生した時点で、俺が不死者に殺されることは確定している。


 なぜなら不死者は字義通り不死であるからだ。

 殺しても死なない存在。どれだけ敗北しても勝つまで再挑戦を繰り返せる特権を持つ者。


 逆の立場になってはじめて実感する。とんでもないチートだ。

 かといって、諦めて運命を受け入れる気には到底なれない。

 だったら抗わず、先の戦闘でいさぎよく死を享受していた。


(生き延びてやる、絶対にッ……!)


 俺はあらためて決意を固めた。

 さっそく思考を回転させる。俺が死の運命から逃れるために取るべき方策は?

 真っ先に思いついたのは、逃亡。

 このボスエリア「火の屠殺場」を後にし、遠くへ移動して姿を隠すプランだ。

 

 不死者と二度と遭わなければ殺されることもない。まったくもって単純明快な理屈だ。

 気がかりなのは、果たしてラディスラフがボスエリアから出られるのかという点だったが、


(お、行けそうだぞ)


 試してみたところ、あっさり出入り口を通ることができた。

 移動に制限はないと考えて良さそうだ。

 これなら作戦は上手くいく――


(いや、駄目だなきっと)


 ゲーム内の演出を思い出す。

 再戦時、入った直後の「火の屠殺場」は無人だ。

 火葬の死使徒ラディスラフはやや遅れて、何処から転移してきたように出現し戦闘が始まる。

 

 空間転移。つまりラディスラフがどれだけ離れた場所にいようと、不死者がボスエリアに足を踏み入れたとたんに召喚され、強制的に戦闘開始となる仕様だと推察できる。


 逃げても無駄。おそらく間違いない。

 戦いを避けて通れないなら、ラディスラフを強くする以外に手はない。


 いや、わかっている。先ほど「すでに完成しており成長の余地はない」と言ったのは、ゲームの通りになにもしなければ、の話だ。

 俺という意思が介在すれば、変化をもたらせる可能性はある。


 とにかく試してみる。ボスエリアを出たことで、俺の進行方向にはお誂え向きに雑魚モブがいた。

『ダムドファントム』においてレベルアップしステータスを強化するには、主に敵を倒して「ファントマ」を集める必要がある。


 ファントマは通常のRPGでいうところの経験値とお金双方の役割を担っている。

 世界観的には、ミスカリアに存在するあらゆる生命体を構成する粒子と定義されていた。

 不死者がそうだったように、この世界のエネミーは絶命しても死体を残さず、ファントマに還元されて消滅する。


 俺はダンジョン内の雑魚モブを倒してみることにした。

 対象は屍人化した神官と、トカゲをモチーフにしたモンスターだ。

 そいつらとラディスラフは敵対しておらず、接近してもなんら反応はない。


 無防備な屍人に炎の魔法を撃ってみる。

 敵対関係にはなくとも、ボス級エネミーの攻撃はモブに対して当たり判定を有する。


 思惑通りダメージが発生し、屍人は一撃で死亡した。

 倒れ伏した肉体が即座にファントマへと還元されていく。

 不死者であれば、ここで光の粒子の一部が自身に流れ込むようなエフェクトが発生するが――


 予想通りラディスラフには同じ現象は起きなかった。

 ファントマはその場で天に立ち昇るように消滅してしまう。

 当然、俺がファントマを獲得したという感覚は皆無だった。

 経験値が入らない以上、レベルアップは不可能。そう結論づけるしかない。

 他者のファントマを奪取できるのは不死者だけの特殊能力ということだ。


 また、別のなんらかの手段でファントマを得られたとしても、レベルは自動的に上がらない。

 ヒロインである「命脈の巫女キアラ」の力を借りなければならなかった。


 キアラの所在地は不死者の拠点「命脈の神殿」。エネミーが侵入できない異空間にあるエリアだ。

 接触は不可能。そもそも不死者の協力者たる彼女が、ラディスラスに与するとは到底考えられなかった。


(ラディスラフの強化案も却下、か)


 矢継ぎ早に次の策を検討する。

 一人では勝ち目がないのだから、仲間を集めて共闘するというのは?


 たしかにボスエネミー複数体で不死者を囲んで一斉攻撃すれば、なにもさせずにハメ殺せるはず。

 不死者は復活して再挑戦してくるだろうが、何百何千回と理不尽なハメ殺しをされたら心が折れて諦めてくれるかもしれない。


 が、懸念点はいくつもあった。

 各地のボスが果たして共闘に賛同してくれるのか? 

 声と言葉を失っているラディスラフが一体どうやって説得して回るのか?

 そもそもボスたちは「不死者の敵」という点で一致するのみで、同じ組織に所属する仲間でも同志でもない。


 それに諸所の問題を解決して共闘が実現し、ハメ殺し作戦が成功したとしても、だ。

 不死者は再戦の前に様々な対策を用意できる。

 実際、俺もすぐに一つ思いついた。


 たとえばレベルを目一杯上げ、スーパーアーマー付きの範囲攻撃を極限まで強化すればいい。

 ボスをまとめて一撃で倒せる火力を用意されたら、ハメ殺し作戦は呆気なく破綻する。

 駄目だ。あらゆる点で確実性が低すぎる。この作戦も却下だ。


(ふぅ――)


 俺はいったん思考を中断する。

 集中力が切れたわけじゃない。思考の次元が低いと感じたからだ。

 正攻法では状況を打開できない。不死者には勝てないようになっている。


 なぜなら不死者は、世界そのものに祝福された存在だからだ。

 なにがあろうと最終的には不死者が勝てるように、運命が最初から仕組まれている。

 それこそがプレイヤーの分身たる「主人公」の不可侵の特権だった。


 ひるがえってラディスラフは、その不死者に倒されるために生み出された敵キャラ。

 主人公を引き立てる「悪役」の一人にすぎない。

 結論。俺が挑もうとしているのは、絶対にクリアできない「無理ゲー」そのものだ。


(……ここまでが、普通の考え方だ)


 それを捨て去るため、俺はあえて自分の中で言語化を試みた。

 ここから思考の次元を上げていく。

 普通や常識に囚われてはならない。むしろ打破する気概が必要だ。


 でなければ、世界と、運命と戦うことなどできはしない。

 しかし、果たして可能なのだろうか?

 ゲームの世界は創造主クリエイターの意図した通りに動くもの。

 ゲームの中に入ってしまった俺は、ゲームの法則に逆らえない。


(――本当にそうか?)


 思い出してみろ、今までプレイしてきたゲームはどれも完璧に、一部の隙も乱れもなく創造主クリエイターの意図通りに動いていたか?

 否、だ。ゲームはゲームであるがゆえ、時として誤動作を起こす。

 それは人間にとってウィルスのようなもの。

 すなわち――


(バグだ……!)


 どんなゲームも完璧ではない。思いがけないところに思いがけないバグが潜んでいる。

 バグには再現性があり、プレイヤーが意図的に起こすこともできる。


 それは意図的にゲーム世界の破壊を試みる行為。

 創造主クリエイターへの反逆だ。

 そして反逆の道を進む以外「不死者殺し」を達成する術はなさそうだった。

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