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第16話 魔物退治

 距離があるにもかかわらず母熊が後ろ脚で立ち上がる。

 威嚇かと思ったが、違った。

 母熊は大量の息を吸いこむと、大地を轟かせんばかりの咆哮を発した。


「ぐぅっ……!」

「っぅう……!」


 俺とエルは両耳を押さえて固まるしなかない。

 魔力で身体強化をしていなければ一発で鼓膜が破れる大音量だった。


「『土壁』よっ……!」


 たまらずエルが前方に土壁を造り、咆哮による衝撃音波を遮断する。

 はたと気づく。それこそが敵の狙いだった。


「エル、こっちへ――!」

「へっ――ひゃわぁッ!」


 エルの腕を引き寄せ、抱きとめてそのまま背後に転がる。

 直後、土壁を突破してエルの立っていた位置に母熊の巨体が殺到した。


「くそっ、脳味噌まで強化されてるってのかよ……!」


 もともと熊は動物の中でも高い知能を持っているとされる。

 それが魔石の影響で底上げされ、戦術めいた動きまでしてくるようだ。

 土壁で視界が遮られても正確な位置を特定できたのは、犬の七倍も優れているという嗅覚によるものだ。


「ラディ様、わたくし作戦を思いつきました! クマさんを燃やしちゃっていただけますかっ!」 

「わかった。――『火球ファイアボール』!」


 立ち上がりつつ最大出力で発射する。

火球ファイアボール』は再び立ち上がった母熊の腹部に直撃し、全身を炎で包みこんだ。


「――『土壁』よ、囲めぇッ!」


 すかさずエルが地面に両手を叩きつけ、こちらも最大出力で土壁を生成した。

 母熊を取り囲むように地面が隆起し、ドームを形作って中へ閉じこめてしまう。

 エルは立ち上がり、してやったりのドヤ顔で胸を張った。


「ふふんっ、大成功です! これでクマさんの蒸し焼きの完成――って、ラディ様? どうして『あちゃー』って顔してるんですかっ?」

「……駄目なんだ、エル。あんなふうに密閉したら酸素が供給されなくなって、火はすぐに消えてしまう」


 案の定、土壁のドームは内部から破壊され崩壊してしまう。

 中から母熊が躍り出てくる。毛皮は多少燃えたようだが本体の損傷は軽微だ。

 正直言って、エルがなにもしないほうが炎上によるダメージを稼げたと思われる。


「あわわわっ! ご、ごめんなさぁあああいっ!」


 エルは涙目になって平謝りするが、


「いや、それでいい。思いついたことは臆せず何でも試してみるんだ。そうでもしないとやつは倒せないっ……!」

「は、はいっ! 考えろー、考えろー、考えろー――はっ!」


 エルはなにかを閃いて目を見開いた。


「ラディ様、印籠を渡していただけますかっ!」

「いいけど、なんでだ?」

「この際ですから二つとも使っちゃいましょう! 間違いなくわたくしのペンダントより良い魔石が使われているはずですからね!」

「なるほど、そいつは盲点だったな」


 俺は腰から印籠を取り外してエルに投げ渡した。

 俺が持っていても無用の長物。

 しかしエルならば追加の「出力増幅装置」として利用できる。

 魔石に別の術式があらかじめ刻印されていても、固有魔法で上書きして使えば問題なかった。


「ラディ様、足止めはわたくしにお任せくださいっ!」

「わかった。その隙に俺が仕留めてみせる!」


 エルは腕を交差させ、両手に印籠を構えて言った。


「くっ……ぅうっ……!」


 大量の魔石を使えば魔法を増幅ブーストできるが、そのぶん使用者にかかる負荷も倍加する。

 普段からは想像もつかない鬼気迫る表情でエルは術式を構築した。

 大熊が後ろ脚で立ち上がり、咆哮の予備動作を取る。


「――『地割れ』よッ!」


 エルが交差した腕を左右にひろげて魔法を発動。

 ズゴゴッ! 地面に亀裂が生じ一直線に陥没していく。

 それは進むごとに横幅を拡げ、母熊の直下で最大になった。

 巨体が大地の亀裂に落下する。

 母熊は両前脚を縁に引っ掛けて体を支えようとするが、


「――『岩槍』よッ!」


 エルが左右の印籠を叩き合わせ、立て続けに魔法を発動した。

 シュドドドッ! 地中から十数本もの岩の槍が飛び出し、母熊を四方八方から突き刺した。

 岩槍はことごとく毛皮を貫通し肉にまで達する。

 不自由な体勢では力ずくで折ることもできず、母熊は容易に身動きがとれなくなった。


「ラディ様っ、あとはお願いします……!」


 印籠内部の魔石が両方とも砕ける音がして、エルもその場に両膝をついた。


「エルは本当に優秀なメイド――いや、最高の相棒パートナーだっ!」


 俺は地割れ発生の時点ですでに駆け出していた。

 狙うは母熊の頭部一択。

 大地の陥穽に落ちかけたことで攻撃しやすい位置まで下がっていた。


「――『火走ファイアスターター』っ!」


 左手を振り上げ、火葬の死使徒由来の魔法を至近距離から叩きこむ。

火走ファイアスターター』は射程が短いぶん、俺の三つの基礎魔法の中では一番の火力を誇る。

 圧縮された火柱が母熊の顔面を呑みこみ、細胞を焼いて炭化させていく。


 だが、まだだ。一撃で殺せるとは俺も思っていない。

 顔面を火に包まれながらも母熊は大口を開く。

 噛みつき攻撃ではなく咆哮の予備動作だ。


「させるかよッ!」


 すかさず俺は右手の折れた木刀で魔力武技を放った。

 さらに深く踏みこんで母熊の口内、喉の奥めがけて刺突を撃ちこむ。

 ゴァウッ! 激突する魔力武技と衝撃音波。威力はほぼ互角で、一瞬後には痛み分けの結果となった。

 魔力衝撃波が発生し、木刀は柄のわずかな部分のみを残して砕け散る。


 さらに俺の体と母熊の頭が同時に弾き返された。

 自重の差で、敵が頭部をのけぞらせた程度で済んだのに対し、俺は大きく後退して体勢を崩した。


 ところが、相殺によって受けたダメージは母熊のほうが明らかに甚大だった。

 顔中に裂傷が生じ、白目を剥いて意識を失いかけている。

 ただちに体勢を立て直せた俺とはあまりにも明暗がくっきりしていた。


 この結果を招いた理由の一つは、激突の地点。

 相殺時の魔力衝撃波は母熊の口内で発生したため、相手はもろにその威力にさらされるはめになった。


 さらにもう一つ、最大の理由は魔力武技発動時の防御力上昇効果だ。

 俺の中で瞬間的に増大した魔力は、攻撃力のみならず防御力も飛躍的に上昇させていた。

 これはゲーム内では「強靭度の加算」や「スーパーアーマーの付与」という形で実装されている効果だった。

 俺は再度、母熊へと肉薄する。


「こいつを喰らえっ!」


 だらしなく開いたままの口腔内へ腕を突っこみ、魔法を発動した。


「――『火球ファイアボール』ッ!」


 今度こそ喉の奥へと最大火力を撃ちこんだ。

 母熊の体内に飛びこんだ『火球ファイアボール』は粘膜ごと脊髄を焼く。

 それだけでも致命的なダメージだが、さらに髄液を炙って一瞬で沸騰させた。


 その熱は頭蓋の内まで伝導する。

 生物の脳は実に七割以上が水分で構成されており、ご存知の通り水が水蒸気に変わると体積は一七〇〇倍にも肥大する。

 すなわち、必然的に導き出される現象は――


 ドグパゥッ! 母熊の頭部が内部から爆発し、首から上が粉々に吹き飛んだ。

 全長一〇メートルにも達する巨大な魔物は、断末魔の悲鳴すら上げることなく絶命し、首無しの体は力なく亀裂に落下していった。


「我ながらグロいな……!」

 

 周囲には大量の血と肉と骨と脳味噌の細片が飛び散っている。

 爆発の直前に俺は地面に伏せていたので、返り血はほぼ浴びていない。

 エルもまた、ちゃっかり土壁に身を隠していた。


「あとは手の切断か」


 達成感もそこそこに、俺は黙々と作業を開始した。

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