愛着障害
私は生きていない。生かされているだけの奴隷だ。
駅のホームはいつものように混んでいた。朝のラッシュアワー、誰もが無言でスマホを睨み、肩をぶつけ合いながら前へ前へと押し寄せる。空気は湿って重く、排気ガスの匂いと人の体臭が絡み合って、息苦しい。
私は端っこに立っていた。いつもの位置。線路が見える、ちょうどいい距離。電車が近づいてくる音が、腹の奥に響く。ゴーッという低いうなりが、だんだんと大きくなっていく。
アナウンスが流れた。「ただいま、人身事故が発生し——」
周りがざわついた。ため息、舌打ち、スマホを覗き込む指の動き。誰も驚かない。遅れるのが嫌なだけだ。誰かが死んだって、関係ない。自分たちの予定が狂うのが腹立たしいだけ。
私は動かなかった。ただ、線路の方を見ていた。
そこに、血があった。まだ新しい、赤い染みがレールに広がっている。肉片が散らばり、白い制服の駅員が慌ててシートをかぶせようとしている。でも、風でめくれて、ちらりと見えた。人の形をしていたもの。
あれは、私と同じだったんだろうな。
生きていない。生かされているだけの奴隷。
親に生まれて、学校に通わされて、働かされて、税金を払わされて、老いて死ぬまで、ただ機械のように動かされるだけ。愛なんて、最初からなかった。抱きしめられた記憶も、優しい言葉も、全部偽物か、忘れたか。
だから、あの人は自分で終わらせたんだ。私も、いつか——
電車が遅れて、みんながイライラしてる。私はただ、ぼんやりと血の跡を見ていた。心臓はちゃんと動いてるのに、何も感じない。痛くもない、悲しくもない。ただ、空っぽ。
私は生きていない。生かされているだけ。
この体は、誰かの都合で動いてるだけだ。
いつか、私もあのレールに飛び込めば、ようやく自由になれるのかな。
でも、それすら、自分で決められない気がする。
私は、ただの奴隷だから。




