第9話 メイドですが、手紙を書かせて頂きます
朝から雨がざあざあと降っている日だった。
サティがリビングの机に向かっており、アルゲンがそれに気づく。
「なに書いてんだ?」
「手紙です。故郷の両親に」
サティはロクスの町出身ではなく、遠くの町からの奉公でモレス家に仕えているのである。
「故郷か……。お前の家って何やってんだ?」
「道場です」
「ど……!?」
アルゲンはたじろぐ。
「まあ、私の腕前は大したものではありません。たしなんでいた程度ですし」
「そ、そうだよな! 大したことないよな! アハハ……」
こう言いつつ、アルゲンの顔には汗がしたたる。
「若様のことやエレンシア様のことも、きっちりお伝えするつもりです」
アルゲンは拳で胸を叩く。
「おお、俺の勇姿を余すところなく書けよ!」
エレンシアも口に手を当て笑う。
「麗しい私のことも書いて下さいましね!」
サティは二人を無視して、文を書き進める。
『お父さん、お母さん、お元気ですか。私がモレス家のメイドになってはや数年。最初は寂しかったけど、とてもよくして頂いて、今はすっかり慣れました。今度また仕送りもしたいと思います』
アルゲンが窓を見ながら言う。
「雨だからって、家に閉じこもってるとジメジメしてキノコになっちまう! 出かけるか!」
「それもいいわね、アルゲン!」
二人は雨の中出かけることになった。
サティは二人に告げる。
「泥でお召し物を汚さないようにして下さいね」
「分かってるって! ガキじゃねえんだ!」
「二人で傘を差して、雨を上品に楽しむわよ!」
雨の日も元気な二人に浅くため息をつき、サティは手紙に戻る。
『しかし、伯爵様と奥様はなんとバカンスに行ってしまって、今は若様とその婚約者エレンシア様が代理でロクスの町領主を務めています。お二人ともまだ私と年も変わらないのに、とんでもないことですよね』
アルゲンが領主になってからの日々を思い出しつつ、サティはペンを走らせる。
『若様たちのやることははっきりいってメチャクチャです。愚民の金など汚らわしいといって税を下げたり、突然ダンスパーティーを開いたり、ギロチンを作ったり、私もなるべく冷静でいようとは思うのですが、いつも内心ハラハラしています』
サティは改めて自分がとんでもない人たちに仕えているのだなと思い返す。
その後も自分の近況や日々の生活を書いていく。
すると――
「ただいま~!」
アルゲンとエレンシアが帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
サティが出迎えると、アルゲンは泥まみれになっていた。
「な……!?」
「ハーッハッハッハ! 泥もしたたるいい男っていうだろ!?」
サティは危うく拳を繰り出しそうになる。
あれほどお召し物を汚さないように、と言ったのに……。
ギリギリのところで怒りを抑えつつ、質問をする。
「何があったんです?」
「いやぁ、ドブ川に入っちまってさ」
朗らかに笑うアルゲンに、サティは内心でますます腹を立てる。
すると、エレンシアが――
「ドブ川にハマってた庶民の男の子がいたのよ」
サティは「え……」と驚く。
「そうしたらアルゲン、笑って……」
『雨の日の散歩もいいもんだ! 愚民がドブ川にハマってる姿を見られる! だがせっかくだ。俺も泥と戯れてみるか!』
「……って、ドブ川に入って、その子を救出したのよ! 勇敢だったわぁ~!」
アルゲンが子供を助けたかったというより、子供を見ていてドブ川に入ってみたくなったというのは確かだろう。アルゲンはそういう人間である。
しかし、サティは――
「まったく……無茶しないで下さいよ」
「知らなかったか、サティ。俺の辞書に“無茶”などという言葉はない!」
「その通りですね」
サティは笑った。
体を洗ったアルゲンは別のスーツに着替え、エレンシアとともに談笑している。
そんな二人を見ながら、サティは締めの文章をしたためる。
『若様たちと過ごしていると、毎日ドタバタしてしまいます。退屈という時間がなくなります。しかしそれがたまらなく楽しいです』
サティはペンを置いた。
いい手紙が書けたと満足げな表情であった。
「さて、お二人に温かいお茶でも淹れましょうかね」




