第7話 庶民たち、ファッションショーをやるわよ!
朝とも昼ともいえない午前中の穏やかな時間帯、エレンシアが町を散歩していると、町長の娘フィーユと出くわす。
「エレンシア様」
「あら、庶民のフィーユさん」
フィーユはエレンシアの服装を見る。
今日は愛用の赤いドレスではなく、フリルのついた青いドレスで着飾っていた。
「エレンシア様、いつもお洒落ですよね」
エレンシアは口に手を当てて笑う。
「まあねえ。貴族はお洒落も仕事のうちですもの」
「ということは、ファッションの勉強もたくさんしたんですか?」
「それはそうよ。王都のファッションショーに出たこともあるわ。あれは煌びやかで本当に素晴らしい一日でしたわ」
「ファッションショー、憧れちゃいますね。私も一度見てみたいです」
「オホホ、そんなこと無理に決まってるでしょ。ファッションショーは選ばれた者の聖域なのよ。あなたは庶民に過ぎないんだから。身の程をわきまえなさいな」
「そうですよね、ごめんなさい」
フィーユは特に気にする様子もなく謝る。
「分かればいいのよ。それじゃあね」
エレンシアは凛々しい姿勢で堂々と歩いていく。
フィーユはその後ろ姿を心底羨ましそうに眺めていた。
***
モレス家の邸宅に戻ったエレンシアは婚約者の名を呼ぶ。
「アルゲン! アルゲェン! いるかしら!?」
「いるぞぉ!」
アルゲンはラフなシャツ姿でストレッチの真っ最中であり、珍妙なポーズを取っていた。
腕や足が知恵の輪のように絡まっている。
「まあ、素敵なポーズ!」
「ありがとう。だけど、戻せなくなったから、戻すの手伝ってくれ……」
「分かったわ、アルゲン!」
エレンシアの手を借りて、アルゲンはどうにか元の体勢に戻ることができた。
「……で。なんだ、エレンシア」
「ファッションショーをやりませんこと?」
アルゲンは顔をしかめる。
「ファッションショー? この町で? この町の愚民どもにファッションを解するセンスなんかあるのかねえ」
「だからこそよ! ファッションショーをやって、庶民たちに私たちのファッションを見せつけてやりましょう!」
アルゲンはニヤリと笑う。
「それはいい考えだ。愚民どもに貴族のファッションというものを叩きつけ、今まで以上に俺にひれ伏すようにしてやる!」
「そうよ、アルゲン! オーッホッホッホッホ!」
「ハーッハッハッハッハ!」
ちょうど買い物から帰ってきたサティが、二人の笑い声を聞いてうんざりする。
「お二人がまた何か変なことを考えたようですね……」
***
いつものように、アルゲンが町民たちにファッションショー開催を宣言する。
「今度の週末、ファッションショーを行う! ファッションに自信がある愚民がいたら、どんどん参加しろよ! ま、俺たちには敵わないだろうがなぁ! ようするにお前たちは引き立て役よぉ!」
エレンシアも横で笑う。
「せいぜい私たちにあざ笑われて下さいまし!」
町民たちは呆れるも――
「ファッションショーか……」
「ちょっと面白そうだな」
「出てみようかしら」
ファッションショーに憧れていたフィーユも胸をときめかせていた。
(せっかくお二人が開いてくれるんだ……。私も精一杯のお洒落をして、参加してみよう!)
***
ファッションショー当日。
時刻は午後3時、会場はモレス家の邸宅、ダンスパーティーを開いた大部屋。
町民たちが大勢集まっていた。
サティが司会を務める。
「大変お待たせいたしました。只今よりロクスの町ファッションショーを開催します」
歓声が上がる。
「それでは、ファッションを披露したい方々に順番に登場して頂きます。どうぞ!」
アルゲンが用意したレッドカーペットに最初に現れたのは――
町長のスタットであった。
白いシャツに紺色のベスト、蝶ネクタイを付け、下は黒のスラックスといういつもよりシャープな格好でキメてきた。
「フフフ、どうかな?」ドヤ顔までしている。
これに町民たちは盛り上がる。
「町長、かっこいい!」
「すげえ! ちょっと若返ったように感じる!」
「ヒューヒュー!」
続いて登場したのはスタットの娘であるフィーユ。
上は水色のセーター、下は白いロングスカートという出で立ち。お下げのリボンもいつもより派手になっている。
「私にできる精一杯のお洒落をしてみました!」
これまた町民たちが絶賛する。
「可愛い!」
「似合ってる!」
「いつもその格好でいて!」
フィーユは顔を赤らめた。
他の町民たちも次々に自分たちの一張羅を披露する。
ファッションショーは大いに盛り上がった。
さて、ここでサティが真打ちたちの登場を告げる。
「ではいよいよ、エレンシア様の登場です。どうぞ!」
エレンシアのドレスは――“ド派手”であった。
真っ赤なドレスの背後には、孔雀のような意匠が施され、もはや仮装の領域。
ところどころ宝石も散りばめられており、光を乱反射している。
「オーッホッホ! 皆さん、ご覧なさい! これが究極のファッションよ!」
町民たちは驚き半分、呆れ半分といった様子だ。
「いやー、すげえ……」
「派手過ぎる……」
「いつものドレスのがよかったんじゃ……」
しかし、フィーユは目を輝かせていた。
「すごいすごい! エレンシア様、素敵です!」
「オホホ、もっと褒めていいのよ。庶民のフィーユさん!」
さて、エレンシアまで登場し、いよいよ大トリの出番である。
「では若様、どうぞ!」
サティの合図とともにアルゲンが登場する。
「ハーッハッハッハ、見ろ愚民ども! 驚け愚民ども! これが俺のスーパーファッションだ!」
アルゲンのファッションは黄金色のスーツだった。
確かに派手は派手だが、エレンシアよりはおとなしめである。
町民たちも「意外にまともだ」「思ったより普通だ」という感想を漏らす。
「金ピカだ……」
「まあ、いいんじゃないか?」
「とりあえずエレンシア様よりは常識的だ」
だが、そんな安堵はすぐさま覆されることになる。
「しかも、これだけじゃない……ここからが本番だ!」
アルゲンはスーツを脱ぎ捨てパンツ一丁になる。なんとパンツまで金色。
ダンスが得意なだけあって、意外と体つきはよかった。腹筋も割れており、いわゆる細マッチョであった。
「なに考えてるんだ……」スタットが愕然とする。
「やだーっ!」フィーユも両手で目を覆い絶叫する。
会場が阿鼻叫喚になる中、エレンシアだけは喜んでいた。
「さすがアルゲン! これこそ究極のファッションだわ!」
「ハハハ、エレンシア! お前のエレガントさもなかなかのものだぞ!」
「いいえ、とてもアルゲンには敵わないわ!」
褒め合う婚約者同士だが、ここにサティが割り込む。
サティは拳でアルゲンの腹を殴り、一撃で気絶させた。
「若様はこれにて退場ということで」
エレンシアは少し不服そうだ。
「あらサティさん、どうしてアルゲンを気絶させたの?」
「このままいくと若様は勢い余って下も脱ぎそうでしたので」
「私は下も見たかったのに……」
「それは結婚してから思う存分見て下さい」
「それもそうね! 楽しみは取っておきましょう! オーッホッホッホッホ!」
一人の退場者は出たが、ファッションショーはこのまま続けられ、大盛況のまま幕を閉じた。
さて、誰もいなくなった会場で目を覚ましたアルゲンは――
「なんで俺……パンツ一枚で寝てたんだ?」




