第6話 愚民ども、名物を作るぞ!
ロクスの町の集会場で、町長スタットを始めとした町民たちが会議をしていた。
そこには現領主アルゲンの姿もあった。
普通こういった集会に、貴族である領主が参加することはないのだが、アルゲンにそんな慣例は通用しない。空気を読まずどんどん参加してしまう。
テーブルに肘をついて横柄な態度でつぶやく。
「名物が欲しいんだよなぁ~」
「はぁ……」
アルゲンはテーブルの上に出ているビスケットを遠慮なくボリボリ食べながら続ける。
「よその領地に売り込んだり、観光客を呼べたりできる名物、なんかないのか?」
スタットが答える。
「名物と言われても、これといったものは……」
「例えばほら、ある町じゃ魚を煮たやつがすげー美味かったぞ」
「ロクスの町は小さな川が流れてるぐらいですし……」
「山の木の実とかさぁ」
「近くに山はありますが、これといった植物は……」
「美味い肉とかさぁ」
「畜産業もそこまで盛んじゃないので……」
「なんもねえのな、この町!」
アルゲンはため息をつく。ボリボリとビスケットを噛み砕く。
ロクスの町は中堅どころで、経済的にも問題はないが、これといった“ウリ”がある町でもない。
良くも悪くも、平凡で平穏な町といえた。
すると、菓子屋のウィリーという男が手を挙げた。
「愚民菓子屋か、なんだ?」
「最近、面白いお菓子を勉強して、作りまして」
「面白いお菓子?」
「“グミ”っていうんですけど……」
「グミ? 初めて聞くな」
「異国で流行ってる、果汁をゼラチンで固めたお菓子です。よろしければどうぞ」
アルゲンは出された赤色のグミを食べてみる。
「ふうん。弾力があって、なかなか面白い食感だな……。だけど、名物にするには物足りない気がする。パンチが足りない」
「す、すみません」
だが、アルゲンはこのグミに何かヒントを得たような表情になっていた。
「よ~し、俺も家で名物作りをやってみるか!」
***
ウィリーに作り方を教えてもらい、材料を仕入れ、アルゲンは邸宅のキッチンでグミを作る。
出来上がったものをエレンシアとサティに試食させる。
「どうだ?」
「プニプニしてるわね。食感が楽しいわ」とエレンシア。
「ええ、美味しいです」サティもうなずく。
「だがよ、何かインパクトが足りないんだ。このグミをこの町の名物にしたいんだが……」
「だったら、スパイスを加えてみるのはどう?」
「スパイスか……ウチには大量にあるから、やってみる価値はあるかもな」
エレンシアのアドバイスを受け、アルゲンは様々なスパイスを組み合わせて、グミを作る。
しかし、あまりに大量に作ってしまったので――
「もう美味いのか不味いのかすら、よく分からなくなってきた……」
「グミが嫌いになりそうだわ……」
「頑張って全部食べましょうね」
グミ地獄に苦しむ一同だったが、あるグミを食べた瞬間、アルゲンは目を丸くする。
「……ッ! これ、うめえ!」
エレンシアも食べてみる。
「あらホント! これだけ別格に美味しいわ!」
「すごいです……!」
サティも絶賛する。
無数に作られたグミ群の中に、偶然にもとびきりの傑作が混ざっていた。
「若様、まだ頭の中にこのグミのスパイス分量が残ってるはずですよね。すぐにこのグミを作った材料の組み合わせをレシピとして残しましょう」
「んな大げさな。俺の記憶力にかかればメモの必要なんて……」
「残して下さい」
「わ、分かったよ」
アルゲンはこのグミの材料をしっかりと書き残した。
もし書き残していなかったら、おそらく二度と再現できなかったに違いない。
サティのナイス判断であった。
***
次の日、アルゲンは町民らを集会場に集め、傑作グミを食べさせる。
会議参加者は口々に絶賛する。
「これはイケる!」
「おお、美味い!」
「美味しいです!」
菓子屋のウィリーも太鼓判を押す。
「これ……いいですよ! いやぁ、たった一日でこんなグミを生み出すなんて……」
ウィリーに賞賛されるも、アルゲンは珍しくあまり調子に乗らない。
「よし、愚民菓子屋、お前にこのグミを任す!」
「え」
「レシピはくれてやる。このグミを元に、お前が“名物”を作ってみろ!」
「……!」
傲慢で独善的なアルゲンが他人に何かを託すなどめったにないことだ。
周囲は驚いたし、ウィリーももちろん驚く。
そして、彼の菓子職人魂に火がついた。
「やってみます! このグミを名物にしてみせます!」
「頼んだぞ!」
しかし、アルゲンの本心は――
(もうグミなんて当分見たくもねえ。あとはこいつに全部丸投げしちまえ)
――であったが、もちろんそんなことは言わなかった。
***
しばらくして、ウィリーはアルゲンのグミをさらに改良した商品を発表した。
アルゲンの作った味だとまだ菓子としては刺激が強かったのだが、その欠点がなくなっており、子供から老人まで食べられるグミとして売り出せるようになった。
アルゲンは自宅リビングで、そのグミを食べる。
「うめえな、このグミ。いくらでも食べれるぞ。さすが俺のレシピを元にしただけある」
サティも食べながら話しかける。
「でも若様、ウィリーさんが『このグミを作ったのは領主様ですので』ってお金を持ってきた時、受け取りませんでしたね」
「愚民の稼いだ金の分け前をもらうなど、俺のプライドが許さないからな!」
アルゲンがさらにグミを食べる。
「妙なところで欲がないですよね、若様は」
「さすがだわ、アルゲン!」
「だろ!? 俺って最高だろ!?」
二人に褒められ、アルゲンは鼻を高くする。
「あと……ウィリーさんがグミに名前を付けて欲しいとおっしゃってましたけど、名前はどうします?」
アルゲンはこの名物グミの名付け親を依頼されていた。
「そんなもん、決まってるだろ。『愚民グミ』だ!」
堂々と言い放つも、サティの反応は冷ややかだ。
「そんな名前の商品を売り出したら、この町全体の品位を疑われますよ」
「いいや、愚民グミにする!」
サティは目を鋭く細め、無言で拳を握り締めた。
「よ、よし、『ロクスグミ』でいこう」
「町の名前をつけるのね。素晴らしいわ、アルゲン!」
「そ、そうだろ! ハーッハッハッハッハ!」
この『ロクスグミ』は菓子屋ウィリーの店で本格的に売り出され、ロクスの町を代表する銘菓へと成長していく。
アルゲンの「名物を作る!」という目論見は見事当たったといえる。
ちなみに、アルゲンは『愚民グミ』商品化を諦めておらず、また独自にグミ作りに挑戦したが――
「……まずっ!」
「ひどいお味……。これは売れないわね」
「試作したグミは若様が責任を持って全部食べて下さいね」
皿に山盛りになった失敗作グミを、アルゲンは涙目で食べる。
「ちくしょう……もう二度とグミなんか作らねえぞ! 食べるだけにする!」
二度と『ロクスグミ』のようなものは作れず、諦めたという。




