第5話 愚民のガキども、いじめてやる!
穏やかな昼下がり、アルゲンは町を散歩していた。
スーツ姿で、必要以上に肩で風を切って歩く。自慢の前髪は一歩歩くごとに揺れている。
「こんにちは……アルゲン様」
町民に挨拶されると、アルゲンはすかさず睨み返す。
「おい、声が小さいぞ愚民! もう一度!」
「は、はいっ! こんにちは、アルゲン様!」
「ふん、まあそれぐらいでいいだろう」
アルゲンはそのまま得意げに歩く。
こんなことばかりしているので、当然町民からは眉をひそめられている。
そんなアルゲンが公園を通りかかる。
今やストレス解消器具でおなじみの銅像を眺める。
今日も俺の像はかっこいいじゃねえか……などと想いを馳せる。
すると――
「あっ、バカ息子だ!」
「なに!?」
アルゲンが凄まじい形相で振り向く。
「伯爵様のバカ息子!」
「バカむすこー!」
「メイドさん困らせるバカ息子!」
公園の子供たちがアルゲンに暴言を吐きまくる。
きっと親の影響なのだろう。
「誰がバカ息子だ、お前らぁ!!!」
子供の一人が言う。
「だってバカじゃん」
「なんだとぉ!?」
アルゲンの顔面にみるみるうちに血管が浮く。
「お前ら許さん! まとめてブッ潰してやる! クソガキどもォ!」
スーツを腕まくりして、アルゲンが子供たちに突撃する。
まさか襲ってくるとは思わなかったのか、子供たちは慌てて逃げ惑う。
子供の中には赤毛の少年クルムもいた。
アルゲンの銅像に蹴りを入れた少年である。
あの件もあり、彼は他の子供に比べると、アルゲンに対して悪い印象を持っていなかった。
「ごめんなさい、アルゲン様! この子たち、まだ幼いから……許してあげて下さい!」
「許すわけねーだろ! 俺に逆らったらどうなるか後悔させてやる!」
「そんな! 大人気ないよ!」
「大人気ない……そんな言葉は俺の辞書にない!」
堂々と大人気ない発言をするアルゲン。心なしか誇らしげですらある。
アルゲンは両手を振り上げる。
「俺は……鬼だ!!!」
ついには自分を“鬼”と称し、アルゲンは子供たちを追い回す。
婚約もしている十代後半の男が、十歳前後の子供たちに本気を出す。
普通ならためらうシチュエーションだが、アルゲンにそんなためらいなど存在しない。
なんの恥じらいもなく全力である。
「ウガアアアアアッ!!!」
「ひええええっ!」
本物の鬼さながらの迫力で一人の子供を追い詰め、その腕を捕まえた。
「捕まえたぞ、ガキィ……!」
「わわっ……」
アルゲンの殺気立った眼に、捕まった子供は泣き出しそうになる。
「……これで、次はお前がオーガだ」
「へ?」
「タッチされた奴はオーガなの!」
「なにその変なルール!」
「うるせえ! なんか今閃いたんだ!」
アルゲンの決めた謎ルールにより、『体にタッチされた者がオーガになり、オーガになった者は他の人間を追い回す』という謎の遊びが始まった。
「くっそー、誰かをタッチしてオーガにしてやる!」
もちろん、アルゲンは全力で逃げる。
「捕まえられるもんならやってみな!」
「じゃあ、逃げるのはこの公園内にしよう! 町の迷惑にならないように!」
「そりゃいいな! さすが俺の銅像を蹴飛ばしただけのことはある!」
クルムのアイディアで、逃げる範囲も制限される。
領主と子供たちは夢中になって駆け回る。
これがなかなか面白く、後に『オーガごっこ』という名で国中に広まることになるのだが、アルゲンは知る由もないし、広まる頃には自分が創始者であることすら完全に忘れていた。
アルゲンたちは夕方まで遊んでしまった。
「結局アルゲン様がオーガだったね」
「うぐぐ、ちくしょう……くそぉ!」
アルゲンは腹いせに自分の銅像を殴るが、殴り方が悪く、拳を傷めてしまった。
「いたぁい!」
子供たちは手を振って帰る。
「また遊んでね!」
「……気が向いたらな!」
邸宅に戻ると――
「今日はガキどもをいじめてやった! 汗かいたからスカッとしたぜ!」
エレンシアは扇をあおぎながら褒め称える。
「さすがだわ、アルゲン! 子供にも容赦しない姿勢、惚れ惚れしてしまうわ!」
一方、サティはため息をついた。
「自慢することじゃないでしょうに」
アルゲンはスーツを脱ぐと、のしのしとバスルームへ歩いていく。
「よーし、風呂でも入るかぁ!」
その笑顔はとても爽やかであった。




