第4話 愚民ども、ギロチンを作ったぞ!
晴れた日、モレス家邸宅の庭に金槌の音が鳴り響く。
「できたーっ!」
声を聞いたエレンシアとサティがやってくる。
「どうなさったの?」
「何ができたんです?」
「見ろ、これを!」
アルゲンが作ったのは木製のギロチンであった。
「一から作ったんですか?」
「ああ、自分で設計図書いて、木材切って、刃を研いで……苦労したぜぇ~。俺にかかれば楽勝だけどな」
アルゲンは自慢げに説明をする。
「まあ、すごい!」
エレンシアは素直に目を輝かせる。
「ダンスもそうでしたが、本当に領主以外は何でもできそうですね」
「領主もできてるから!」
サティのツッコミに、アルゲンはたまらず抗議する。
「で、これをどうするんです?」
「う~ん、作った後のことは考えてなかった」
「見切り発車にも程がありますよ」
すると、エレンシアが――
「庶民たちに見せつけるというのはどう?」
「それいい! 庶民たちに俺の傑作を見せつけてやる!」
アルゲン、エレンシア、サティの三人は仲良く公園までギロチンを運ぶのだった。
***
公園までギロチンを運んだアルゲンは、町民を集める。
「これはすごい……」
「マジでギロチンだ」
「よく作ったわね……」
出来栄えそのものは完璧といっていいので、町民らは賞賛の声を上げる。
「そうだろう、そうだろう。もっと褒めていいぞ、愚民ども」
アルゲンが調子に乗って苦労話を語り始め、町民たちはげんなりする。
それが落ち着いたところで、スタットが尋ねる。
「アルゲン様、これを何に使うんです?」
「そりゃ当然、処刑だろ」
「誰を?」
「誰って……うーん」
アルゲンは腕組みする。
「この町で一番いらない奴を粛清するってのはどうだ!?」
すると――
「お、おい! ……なんでみんな俺を見るんだよ! や、やめろッ!」
ほぼ全員の視線を注がれ、アルゲンは青ざめる。
エレンシアが寄り添う。
「アルゲンが斬首されるなら私も刎ねられますわ!」
「おおっ、エレンシア!」
二人はそのまま見つめ合う。
「あなたと私、二人で首だけになるのよ!」
「ありがとう、エレンシア……」
「アルゲンと二人でなら、首がなくなっても悔いはないわ!」
「嬉しいぞ……。俺はそんなお前に首ったけだ!」
「まあ、アルゲン……!」
恍惚とした表情で、歯の浮くような会話を交わす。
サティが呆れる。
「このままお二人だけでミュージカルが始まっちゃいそうですね」
スタットがため息をつく。
「君も苦労してるみたいだね」
「これも仕事ですから」
アルゲンとエレンシアはしばらく自分の世界に入り浸り、何分かダンスをすると、ようやく元の世界に戻ってきた。
「で、どうするんです。これ」サティが尋ねる。
「銅像の隣にでも飾るか?」
「さすがに危ないですよ」
小さな子供も遊ぶ公園で、ギロチンを放置はさすがに危険すぎる。
「残念ながら、物置行きですね」
「物置!? せっかく頑張って作ったのに……!」
アルゲンががっくりしていると、そこへ――
「おやおや、面白いものがあるねえ」
老婆のランネだった。
年は90歳を超えており、ロクスの町最高齢を誇る。白髪頭で腰は曲がっているが、まだまだ元気である。
「愚民婆さん、なんの用だ!」
「おやアルゲンちゃん。大きくなったねえ」
「“ちゃん”付けすんな! 俺は貴族で領主だぞ!」
「まあ、いいじゃないか。あたしはアルゲンちゃんが立派になって嬉しいよ」
「ぐ……!」
アルゲンもたじたじになってしまう。傲慢という字がスーツを着て歩いているような男だが、昔からこの老婆には弱いのだ。
すると、ランネは大きなスイカを取り出した。自分で持ってきたようだ。
それをギロチンの刃の落下位置にセットする。
「おいおい、愚民婆さん、何する気だ。危ないぞ」
ランネは止める間もなくレバーを引き、刃を落とすと、スパァンといい音がした。
スイカが綺麗に切断され、中の赤い果肉があらわになった。
「おお、すげえ! 真っ二つかよ!」
自分で作ったにもかかわらず、アルゲンは切れ味に驚いてしまう。
二つになったスイカをランネは袋に入れる。
「これをひ孫たちに食べさせてあげるわ。どうもありがとうねえ」
「いや、どういたしまして……」
ランネはそのまま公園を去っていった。
しばらく皆、呆然としていたが、アルゲンがひらめく。
「……これだ! 硬くて切れない野菜とかを切る器具として使うんだ!」
「いいアイディアだわ、アルゲン!」
「悪くありませんね」
「よぉし、ギロチン! お前の役割が決まったぞ!」
アルゲンに叩かれたギロチンは、心なしか嬉しそうに刃を光らせた――ようにも見えた。
***
アルゲンお手製のギロチンは邸宅の庭に置かれることになった。
モレス家の人間に届け出をすれば、誰でも使うことができる。
ただし、アルゲンやエレンシアに申し込むと自慢話がうっとうしいので、ほとんどの人間はサティに申し込んでいるが。
サティがギロチンの使用記録を報告する。
「今日もカボチャ、カブ、スイカなど、さまざまな硬い食べ物を切ってましたよ。中には角材や氷を切らせて欲しいという依頼もありました」
「さすが俺のギロチンだな!」
「素晴らしいわ!」
「……だが、そんなギロチンでも切れないものがある!」
「なんです?」
「それは……俺とエレンシアの愛だ!」
「まあ、素敵!」
二人は二人だけのミュージカル世界に入っていく。
その外の世界にいるサティは首を横に振ってつぶやく。
「二人そろってギロチン台に送り込みたい気分ですね」




