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悪徳令息と悪徳令嬢が婚約し、しかも町の領主になり、住民は「もう終わりだよこの町」と嘆くも意外と善政を敷く模様  作者: エタメタノール


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第35話 愚民ども、町が大ピンチだぞ!

 のどかな午前の時間帯、アルゲンは自宅の書斎で書類をさばいていた。


「ふぅ、こんなところだろ」


 ノックの音がして、サティとエレンシアが入ってくる。


「お疲れ様でした」


 サティが紅茶を手渡す。


「アルゲン、私からはチョコレートケーキよ!」


 エレンシアはケーキを手渡す。


「エレンシアのケーキ、さぞ甘くて美味しいんだろうな」


「もちろんよ! ただし、私たちの愛には敵わないけどね」


「こいつぅ!」


 いつも通りにイチャつき――そんな時だった。

 ドアのベルが鳴る。

 サティが出ると、そこには兜を被った兵士がいた。

 しかも、かなり息を切らしている。


「失礼ですが、どなたです?」


「私は王国兵のダート、ご領主様に大至急用事があります!」


 すぐにリビングに入れて、アルゲンとエレンシアが応対する。


「王国兵が俺になんの用だ?」


 ダートは顔を強張らせて告げる。


「この町に『緋色の浄化団』が来ます」


「……は? どういうことだよ」


 ダートから話を聞く。

 王国軍は盗賊団『緋色の浄化団』を徹底的に追い詰め、だいぶその数を減らすことに成功した。

 しかし、本隊ともいえる集団はなかなか討伐できずにいた。

 そんな中、その本隊と思わしき盗賊たちがロクスの町近くに現れる。

 絶対に逃がすまいと、周辺を固める王国兵らは全戦力で仕留めにかかったのだが――


「そいつらは囮だったのです……!」


 王国軍が囮を追跡している隙に、残る盗賊の一団はロクスの町に向かっている。

 ダートはそれに気づき、ロクスに知らせるため、馬を飛ばしたという。


「なぜ、囮を使ってまでこの町を狙うのかしら?」とエレンシア。


「この国では奴らは殆ど略奪を行えませんでした。奴らの狡猾さであれば、このまま他国に逃げることもできるでしょうが、連中にも悪党としてのプライドがある。ですから、国を出る最後にある程度大きい町を焼き払ってしまおうと考えた」


「それにちょうどいい町がロクス(ここ)ってことか!?」


「おっしゃる通りです。かなり大きい上に、常駐兵もなく、しかも領主も若い……。奴らの情報網ならそれぐらいのことは掴んでいるでしょうから」


「くそっ……! 喧嘩に負けた奴がせめて唾を吐いていくみたいなノリでこの町を滅ぼそうってのか!?」


「言い方はともかく、その通りです」


 憤るアルゲンにダートは深刻な口調で言う。


「町の住民には選択してもらわねばなりません。戦うか、避難するかを。ただし避難した場合は……」


「町が焼き尽くされるってか」


「そうなるでしょう」


 アルゲンの眉間にしわが寄る。


「……分かった。ちょっと考えさせてくれ」


 アルゲンは目を閉じ、考える。

 脳裏に浮かぶのは、ロクスの町の街並みや、町の住民たち、さまざまな思い出……。

 やがて、アルゲンは目を開ける。


「……決まった」


 アルゲンが立ち上がる。


「サティ、愚民町長に頼んで町の人間をなるべく大勢集めてくれ」


「分かりました」


 サティもきびきびと動く。

 程なくして、町の広場に大勢の住民が集まった。

 アルゲンは全員を見据えつつ、告げる。


「みんな聞いてくれ。もう数時間で『緋色の放火団』って盗賊団がこの町にやってくる!」


 住民たちはざわつく。

 当然である。「寝耳に水」「青天の霹靂」という言葉でさえ生温い大事件だ。

 ――が、彼らを制するようにアルゲンは言う。


「だが、今すぐ避難すればお前ら愚民が死ぬことはない。ってわけで逃げろ! リーテの町か、ロクス山に逃げれば、盗賊団の連中もわざわざ追ってこないだろう」


 スタットが問う。


「しかし、アルゲン様……我々が逃げたら、この町は……」


「盗賊団にやりたい放題されるだろうな。家は焼かれ、金は盗まれ、食い物は食われ、俺んちもただじゃ済まないだろう」


「……!」


「だが、愚民さえ残っていれば町はいくらでも立て直せる! だから貴重品持って逃げろ! いいか、これは領主命令だぞ! 時間がないから、さっさとしろよな!」


 そのまま町民を解散させるアルゲン。


「逃げるしかないのか……」

「仕方ないわよ……」

「殺されたら終わりだしなぁ」


 アルゲンはそれを見届ける。

 だが、彼の中では一つの決意が固まっていた。

 町民が慌ただしく避難準備を始める中、モレス家邸宅で、アルゲンは一人違う準備を進めていた。

 スーツの上に胸当てをつけ、兜を被り、自作の木刀アルゲンソードを握り締める。


 アルゲンは――戦うつもりであった。


(盗賊? そんな連中にこの町を好き勝手されてたまるか……!)


 なぜなら――


(ロクスは俺の町なんだ!!! 俺が守る!!!)


 そんなアルゲンに声をかける二人組がいた。


「アルゲン」

「若様」


 アルゲンが振り返ると、そこにはエレンシアとサティがいた。


「なんで二人とも……!」


 エレンシアが詰め寄る。


「一人で戦うつもりね? アルゲン」


「……」


 サティも同じように――


「勝てると思ってるんですか?」


「勝つに決まってんだろ! 鍛え上げた俺の貴族殺法で、盗賊をバッタバッタと……」


「真面目に聞いてるんですよ、私は」


 サティに睨まれ、アルゲンはたじろぐ。


「盗賊っても、王国軍に追われてるような連中だ。向こうだって焦ってる。この町に来たところを俺が出鼻をくじけば、撤退させられるんじゃないかって思ったんだよ」


「一応の計算はしてたわけですね。それをお一人で?」


「俺は死ぬつもりはないが、死ぬ可能性もある。こんな戦いに愚民どもは巻き込めないだろ」


 アルゲンの言葉に、エレンシアが目を潤ませる。


「すごいわ、アルゲン! 悪い盗賊たちに一人で挑むなんて……!」


「ありがとう、エレンシア」


「ぜひ私も付き合わせてちょうだい!」


「それはダメだ! お前だけは死なせるわけにはいかない!」


「私を舐めないで、アルゲン!」


「え……」


「私はあなたと婚約した時から……いいえ、出会った時から、あなたとともに死ぬ覚悟はできてるわ!」


「エレンシアッ……!」


 アルゲンとエレンシアは見つめ合い、うっとりする。


「踊ろう。今なら最高の踊りができそうだ」


「ええ。迫りくる危機は私たちをより輝かせるでしょう」


 ついには踊り出そうとする二人を、サティが冷たく止める。


「踊ってる暇なんかありませんよ」


「うぐ……!」


「すみませんでしたわ……」


「若様、私も付き合います。よろしいですね?」


 拳を握り締めるサティに、アルゲンは汗をかく。


「サティに言われたら、何も言い返せねえよ」


 ここでエレンシアが――


「それにねアルゲン」


「ん?」


「あなたに付き合うのは私たちだけじゃないのよ」


「へ……?」


 エレンシアが手招きすると――


「ヒヒィィィィン!」


 馬のグリントが駆け寄る。


「グリント! お前まで! 一時的に逃がすよう頼んでたのに!」


「もっといますよ」とサティ。


「他に誰が……」


「我々を忘れてもらっては困りますな、アルゲン様」


「……!」


 そこには町長スタットを始め、大勢の町民が集まっていた。


「愚民ども……避難したはずじゃ……」


「一人で盗賊団に立ち向かうなんて、何を考えてるんですか、あなたは」


「……」


 スタットはかつて、アルゲンが領主に就任した頃を思い返す。


「実はねアルゲン様、私は――あなたが領主になったばかりの時、こう思ったんですよ。『あのバカが領主になってしまうとは……この町は終わりだ』ってね」


 当時のスタットは絶望し、町は遠からず滅ぶとさえ予言していた。

 ところが、そうはならなかった。

 アルゲンは税を下げ、さまざまなイベントを催し……と町民たちの予想を超えた働きぶりを見せた。

 ロクスはかつてアルゲンの父が治めていた頃とは違う熱気を帯びている。


「だけど、今はあの時よりもあなたをバカだと思ってますよ、アルゲン様。しかし、そのバカにどうか付き合わせて頂きたい!」


 頭を下げるスタット。

 これに、アルゲンの返事は――


「ちょっと待て、『あのバカが領主になってしまうとは』ってのはどういうことだ!?」


「え、そこ!?」


「愚民町長、俺が領主になった時そんなこと言ってやがったのか!? 許さねえぞ!」


「いや、ですが今はある程度は領主として認めてますし……」


「ある程度ってなんだぁ!? 全部認めろよ!」


 サティが止めに入る。


「まあまあ若様、とにかく町長様たちは町を守るおつもりのようです」


「……」


 町民たちも口々に――


「命だけ助かってもしょうがないしな」

「思い出が詰まったこの町を燃やされたくはない!」

「領主様だけに任せておけませんよ」


 アルゲンは舌打ちしつつつぶやく。


「愚民どもが……」


「アルゲン、庶民の皆様もこうおっしゃってることですし、みんなで戦いましょう!」


「……ああ、そうだな!」


 町民たちの避難誘導を担当していた兵士ダートにアルゲンが告げる。


「ってわけだ。俺たちは戦う! 盗賊団とな!」


 ダートはうなずく。


「分かりました。相手は名うての盗賊団です。厳しい戦いになるでしょう。しかし……あなたがたの団結力を見ていたら、奴らを撃退することも不可能ではないと思えてきましたよ」


「当然だ。なにしろこの町は俺の町だからな。みんな、この町を守るぞ!」


 町民たちはアルゲンの声に応える。

 ロクスの住民にとって――そしてアルゲンにとって最大の試練が今訪れようとしていた。

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― 新着の感想 ―
アルゲンが流石に真面目だ! ホントこういう時はやる男だなあ、お前は。 とりあえずギロチンを門扉のそばに置いておけば出鼻を挫けそう(・∀・)
ギロチンくんも殺る気になりました
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