第31話 愚民ども、防犯意識を高めるぞ!
ロクスの町集会場で、町長スタットを中心に会議が行われる。
アルゲンも偉そうな態度で出席している。テーブルの上にあるクッキーをボリボリ食べる。
今日の議題は――
「アルゲン様、王国に盗賊団『緋色の浄化団』が入り込んだらしいです」
「『緋色の浄化団』? なんだか清掃でもしてくれそうな名前だな」
「とんでもない。狙われたら最後、全てを奪い尽くし、最後には町ごと燃やしてしまう恐るべき盗賊団です。各国で猛威を振るってきたとか……」
「なんだそりゃ!? ヤバすぎるだろ! 『緋色の放火団』にでも改名しろ! いや、改名させろ!」
「無茶言わないで下さい。しかし、今は王国軍が彼らに対し徹底的な攻撃を仕掛け、被害は最小限に留まっているとか」
「ならよかったじゃないか。この町に来られたらどうしようかと思ったが、そこらへんの防備は完璧だしな」
「ええ」
ロクスの町自体に常備兵はないが、周囲には数ヶ所の王国兵駐屯地があり、守りは万全である。
だからこそ、アルゲンの両親も安心してアルゲンに領主を任せたといえる。
「しかしまあ、いつこの町もどんな危機になるか分からん」
「それはそうですな」
「よし……決めた!」
「何をです?」
「俺が町の愚民どもの防犯意識を高めるため、演説してやる!」
アルゲンが拳を握り締める。
「みんな忙しいのにわざわざそんなことしなくとも……。時間窃盗罪という犯罪になるのでは」
「そんな犯罪ないだろうが! とにかく愚民町長、俺はやるぞ! 日時は今度の週末、ちゃんと知らせておくように!」
「……分かりました」
胸を張るアルゲンをよそに、スタットはため息をついた。
***
週末、広場には大勢の町民が集まっている。
用意された壇上にアルゲンが立つ。
「おはよう、愚民ども!」
「キャーッ、アルゲン素敵ーッ!」
エレンシア一人だけ盛り上がっている。
アルゲンもそんなエレンシアに白い歯を見せて笑む。
白けたムードの中、この二人だけは大盛り上がりである。
壇上の近くに立つサティは無表情ながら呆れる。
(いつもながらこの二人のメンタルはどうなってるんでしょうね……)
アルゲンは前に向き直る。
「今、世間を『緋色の放火団』なる盗賊団が騒がせているという」
勝手に改名してしまっている。
「これに限らず、なにかと物騒なことは多い。今日はこの俺が、領主のアルゲン様が、お前たちに防犯の心得というものを教えてやろう!」
「教えてーッ!」
エレンシアだけが熱狂的な拍手をする。
「まったく、いつもながら犯罪的な美しさだな、エレンシア」
「もうアルゲンったら! あなたこそ口の上手さは詐欺師になれるわ!」
「そっちこそ。エレンシアが結婚詐欺師なら幾人もの男を手玉に取れるさ」
「嬉しいわ、アルゲン……。二人で逃亡生活を送りましょう……」
「ああ、どこまででも逃げよう……」
どんどん脱線していくのでスタットが咳払いをする。
「すみません、アルゲン様。防犯の心得を……」
「おう、そうだった。えーとまず、戸締りはきっちりすること! ちょっとした用で出かける時も、鍵はしっかりしとくように! これは基本中の基本だな! 泥棒ってのはちょっとした隙を狙うもんだ!」
アルゲンは続ける。
「訪問者があった時は、いきなりドアは開けずに相手を確かめろ! 客に見せかけた強盗だったりするケースもあるからな! 近所同士で連携することも大切だ! そうしておけば、町に不審人物が来た時にすぐに注意を呼び掛けられるからな!」
聞きながらスタットがつぶやく。
「意外と普通、というかまともだな……」
「昨晩、本で一夜漬けしてましたから。完全に受け売りです」とサティ。
「ああ、そういうことか……」
アルゲンの演説は熱を帯びていく。
「さらにさらに、俺はこんなものを作った!」
一振りの木刀を取り出す。王国に流通する一般的な剣を模してある。
「これは『アルゲンソード』といって、軽くて丈夫で、お前らのようなろくに鍛えてない愚民にも扱いやすい武器だ。これをなるべく多くの家庭に配る! そうすればロクスの町の防備能力はさらに高まるはずだ!」
木刀を天に掲げるアルゲン。
「まぁ、アルゲンったらいつの間にあんなものを……」エレンシアが目を輝かせる。
「しかし、護身武器なら刃物の方がいいのでは?」とスタット。
「いえ、人というのは普段から慣れていないと他人に武力を行使することを躊躇してしまうものです。しかし、木刀であれば相手を殺傷する危険性は低くなり、その分思い切り相手を打ちのめせるようになる。若様の選択は理にかなっているといえるでしょう」
「な、なるほど……」
サティの解説に、スタットも納得する。
「それにしても、あんな木刀を開発してたなんて……さすがは領主以外何でもできる男ですね」
アルゲンの耳に入ったのか、サティに振り向く。
「だから領主もできてるっての!」
その後も、アルゲンのまあまあためになる防犯講義は続き、町民たちも「思ったよりもちゃんとしてたな」という評価になりつつあった。
しかし――
「――さて、いざこの町がピンチになった時は、このことだけは守ってもらう!」
なんだろうと皆が固唾を飲んで見守る。
「みんなで盾になって、俺とエレンシアを守れ!!! ハーッハッハッハッハ!!!」
この言葉に、町民たちは白ける。
「誰が守るか」
「さ、帰ろうか……」
「お疲れ様です!」
解散していく町民たちに、アルゲンは「おーい!」と呼びかけるが、誰も戻ってこない。
「じゃ、私たちも帰りましょうか」
「うむ」
サティとスタットもきびきびと帰っていく。
アルゲンはしばらく立ち尽くしていたが、やがて笑いながら言う。
「防犯のことを話してたら、造反されちまった!」
「面白いわ、アルゲン! クッション一枚!」
「ありがとよ、エレンシア! アーッハッハッハッハ!!!」
「オーッホッホッホッホ!!!」
広場では二人の高笑いがいつまでも響いたという。




