第30話 愚民ども、エレンシアとデートするぞ!
暑すぎず寒すぎず、といった具合の穏やかな日。
今日はこれといって予定もなく、モレス家邸宅にて、アルゲンもエレンシアもサティも緩やかな時間を過ごしていた。
そんな時、ふとサティが言った。
「いい天気ですね。若様、エレンシア様、せっかくですし、お二人でデートでもなさったら?」
アルゲンとエレンシアが目を合わせる。
「デートか……そういえば、そうだな」
「アルゲンが領主になってからは全然やってなかったわね」
「なにしろ多忙だったからなぁ。銅像建てたり、ギロチン作ったり、格闘大会開いたり、山登ったり……」
「若様はそれなりに領主としての業務はこなしていますが、その羅列だと暇人にしか見えませんね」
アルゲンがソファから立ち上がる。
「よっしゃ。エレンシア、たまにはデートと洒落込まないか?」
「いいわね、アルゲン。優雅なデートと参りましょう」
「どこへ行かれますか?」
「うーん、あまり遠くに行くのはまずいよな。領主だし」
「だったらロクスの町をデートしましょうよ」
「いいのか? もっと変わったところをデートしてもいいのに……」
「あら、このロクスの町は日々生まれ変わってるわ。私もよく散歩しているけど、まるで飽きないもの」
「ありがとう、エレンシア。だったら町でデートしてくるか!」
町でのデートを楽しもうという二人に、サティも微笑む。
(若様もエレンシア様も、だいぶ成長なされましたね……)
「それに私とアルゲンのラブラブぶりを庶民たちにも見せつけないとねえ! オーッホッホッホッホ!!!」
「そりゃいいや! 愚民どもは嫉妬で気が狂うに違いないぜ! ハーッハッハッハッハッハ!!!」
サティは顔をしかめる。
(やはり大して変わってませんでしたね……)
***
アルゲンは愛用の紫色のスーツを着て、エレンシアは真っ赤なドレスを纏い、颯爽と歩く。
二人が並んで歩くと、やはりただならぬ気品を周囲に振りまき、見る者を圧倒する。
黙っていれば模範的な貴族カップルにしか見えない。
「愚民ども、領主様とその婚約者様のお通りだぁ!」
「オーッホッホッホ、さあ存分に羨んでいいわよ、庶民たち!」
ただし黙っていないので、残念ながら模範的な貴族カップルには見えない。
町民たちの冷たい視線を浴びつつ、アルゲンとエレンシアは高笑いして歩き続ける。
二人は公園に通りかかる。
アルゲンの銅像が今日も変わらず立っている。
「本物のアルゲンはもちろんかっこいいけど、銅像のアルゲンもかっこいいわね~」
エレンシアがうっとりする。
「フフフ、まあな……」
アルゲンも得意げに笑う。
そこに町民らの集団がやってきて――
「アルゲン様の像、蹴っていこうぜ!」
「そうだな!」
銅像は今日も元気よくストレス解消に使われている。
「あれだけ殴られても蹴られても、アルゲンの銅像はビクともしないわね~」
「フフフ、まあな……」
アルゲンは実に嬉しそうに笑った。
今度は図書館を訪れる。
アルゲンが建てた図書館は盛況である。
元々はアルゲンが「俺を崇めさせるために教育水準を上げなければ」という動機で建てたが、子供たちに本を読む習慣がついたことで、「イタズラをしなくなった」「自分の将来を真剣に考えるようになった」などの報告も入っている。
もっとも当のアルゲンは図書館に行くと漫画しか読まないが。ちなみにエレンシアは恋愛小説を好んで読む。
「アルゲン、何か読んでいく?」
「んー、今はいいかな。エレンシアとのデートを優先だ」
「嬉しいわぁ、アルゲン!」
抱き合う二人に、利用客である子供が注意を呼び掛ける。
「お二人とも、図書館ではお静かに」
「あ、はい……」
アルゲンとエレンシアは揃って肩をすぼめた。
図書館を出て、二人は町を歩く。
「ちょっと腹が減ったな。何か食べようか」
「そうね」
「この辺で食べるところといえば……お、あった」
アルゲンがやってきたのはパン屋であった。
「ここは確か、アルゲンのアイディアで繁盛した店よね」
「ああ、そうそう。ポイントカードを作ったりしたな」
店に入ると店主のコネットが出迎えてくれた。黒髪のボブカットで、大人しいがパン作りの腕は確かな娘である。
「いらっしゃいませ、アルゲン様、エレンシア様」
「おう、愚民パン屋。ちょっと買っていくぞ」
「はい、ぜひ!」
アルゲンとエレンシアは大量のパンを購入し、しかもその場で食べ、コネットを唖然とさせていた。
「大丈夫ですか? そんなに食べて……」
「平気平気、俺たちの愛のパワーですぐ消化しちゃうから」
「そうよね、アルゲン。私たちの愛はなんだって消化するわ」
二人を見て、コネットはうなずく。
(確かにこれだけ熱々なら、パンのカロリーぐらいすぐ消費しちゃうかもしれないなぁ……)
いくらかのパンを持ち帰りつつ、二人はウィリーの菓子屋に立ち寄る。
「愚民菓子屋、景気はどうだ?」
「おかげさまで」
ウィリーが笑顔で応じる。
アルゲンの目的はもちろん今や町の名物となったロクスグミである。
エレンシアとともに店の前で頬張る。
「美味しいわね~」
「ますます味がよくなった気がするな」
ウィリーがうなずく。
「ええ、今もグミの研究を続けていますから!」
「愚民なりに努力してるってことか」
「そうです。ロクスグミを王国中のみんなに知ってもらう! これが私の夢です!」
アルゲンは感心したようにうなずく。
「そうか……頑張れよ」
「はいっ!」
ロクスグミの元々の発案者はアルゲンだったが、今やそのグミは完全に生みの親の手を離れ、独自の進化を歩んでいる。
アルゲンがそのことが嬉しいような、少し寂しいような、そんな気持ちになった。
エルフのルカナの家も訪ねた。
彼女の家も薬屋として盛況で、今は住民として認められている。
「よう、愚民エルフ」
「こんにちは、庶民でエルフなルカナさん」
「ああ、いらっしゃい。何か薬が欲しいのか?」
「いや……俺たちは至って健康なものでな」
アルゲンは隣に立つエレンシアの肩を抱く。
「俺たちのラブラブぶりを見せつけに来たのさ!」
「ご覧になって、ルカナさん!」
手を繋ぎダンスを披露する二人に、ルカナは呆れる。
「お二人に、付ける薬はないようだ」
「だろ!? 俺たち薬なんかいらないカップルだからさぁ!」
「そうよねえ、アルゲン!」
ルカナは心の中で思う。
(褒めたわけではないのだが……まあいいか。この二人にはずっとこんな感じでいて欲しいしな)
ルカナに別れを告げると、二人は町外れまで歩を進める。
町の近くにそびえ立つロクス山を見上げる。
さすがに山に登ることはしないが、アルゲンはつぶやく。
「小さな山だ……」
「だけどいい山じゃない。神様もいるしね」
「忘れかけられてたような神だけどな」
アルゲンは両手を組み、祈りの体勢を取る。
「あら、アルゲン? 神様にお願いごと?」
「いや、お願いごとじゃない……命令だ! どうかこの俺とエレンシア、ついでにこの町も守ってくれってな」
「じゃあ、私も命令しておこうかしら」
祈りならぬ命令を済ませると、アルゲンとエレンシアは帰路につく。
モレス家に到着すると――
サティが庭でグリントに乗って、乗馬を楽しんでいた。
「若様!? ずいぶん早かったですね……」
アルゲンがニヤリとする。
「ははーん。サティ、お前グリントに乗りたくて、俺とエレンシアをデートに行かせたな?」
「若様に魂胆を見破られるととても屈辱ですね……」
サティが歯噛みする。
「まあまあ、今日はもっと乗馬を楽しむといいわ。私たちもたくさんパンを買ってきましたので」
「ああ、今日の夕食はパンにしよう。パン三昧だ!」
サティはグリントの上から頭を下げる。
「ありがとうございます。若様、エレンシア様」
アルゲンとエレンシアにとっても、サティとグリントにとっても、とても楽しい一日となった。
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