第26話 愚民ども、俺も魔法を習得してやる!
アルゲンはルカナの家に来ていた。
出されたエルフ秘伝の紅茶に舌鼓を打ちつつ、話題を切り出す。
「そういやエルフは魔法を使えるんだったよな」
「ああ」
「なんでエルフは魔法を使えるんだ? 俺らは使えないんだ?」
ルカナは顎に手を当てる。
「ふむ……色々な説があるが、エルフは自然の中で暮らし、その中で火や水が必要となり、魔法という術を編み出したのではと言われているな。一方で人間は文明化していったから、その必要がなくなったとか」
「……なるほど」
アルゲンが身を乗り出す。
「俺にも魔法って会得できないか?」
「人間が? うーん……どうだろうな。しかし、なぜ?」
「俺は領主としては完璧で、こないだは“岩砲”なんて格闘技の奥義まで身につけた。もはや完璧中の完璧な男といっていい。だけど、魔法だけはまだだなと思って」
「……」
ルカナは内心呆れるが表には出さない。
「……一番簡単な魔法ならできるかもしれない」
「どんな魔法だ?」
「体内の魔力を放出して、相手を吹き飛ばす魔法だ」
「それいいな……教えてくれ!」
アルゲンは興味を持ち、さっそく訓練を始める。
「自分の体内に、血液のように魔力が流れていることをイメージするんだ」
「イメージ……」
「それを……放出!」
ルカナが右手を突き出すと、テーブルの上のペンが吹き飛んだ。
「こんなところだ。ただしかなり疲れるので、結局手でペンを手ではたいた方が早いが」
「魔法ってのも万能じゃないんだな」
今度はアルゲンがやってみる。イメージと右手を突き出す動作を繰り返す。
しかし、やはり上手くいかない。
30分、一時間と、時間だけが過ぎていく。
「何も出ないな……やっぱ人間じゃ無理なのか?」
ルカナが一計を案じる。
「呪文を唱えてみるのもいいかもしれない」
「呪文?」
「言霊というやつだ。何でもいいから、自分の魔法を発揮できるような呪文を唱えてみろ。そうすれば魔法のイメージが増幅されるかもしれない」
「ふうん……やってみるか!」
アルゲンは即興で考えた呪文を唱える。
「よし、行くぞ。深淵なる空よ、海よ、大地よ……」
「大げさすぎる気もするが……」ルカナが苦笑いする。
「この高貴で上品で偉大なるアルゲンに力を与えたまえ……」
アルゲンが両手を前に突き出す。
「いでよ、我が力ァ!!!」
ドンッ!
轟音とともに、ルカナ家のテーブルが吹き飛び、倒れた。
「な……!?」
アルゲンが笑顔でルカナに振り返る。
「なぁ、今のって魔法か!?」
「ああ……間違いない。魔法だ」
「やったぁ、できた!」
ルカナは本気で驚いている。
「凄い……。人間でありながら、魔法を身につけるとは歴史的な快挙ではないだろうか」
「え、マジで!?」
「もし発表すれば、国中から注目されるかもしれん」
名声と注目ならばいくら浴びても足りないというほど大好きなアルゲンは目を輝かせる。
「うひょおおおお! だけど、俺はまずやりたいことがある!」
「やりたいこと?」
「ちょっと行ってくる!」
アルゲンはルカナの家を飛び出した。
***
アルゲンが向かったのはスタットの自宅だった。
勢いよくドアを叩くと、スタットが中から現れる。
「愚民町長!」
「なんですかな?」
「俺と勝負しろ!」
「いいでしょう」
スタットもニヤリと笑う。最短のやり取りで決闘が決まってしまった。
「ライバル同士、ついに決着だ!」
「ええ、決着をつけましょう」
やり取りをたまたま見ていた町民はこう思った。
(あの二人、ライバル同士だったのか……)
スタットが拳を構え、トントンとフットワークを見せる。
格闘大会以降、次こそは一回戦突破と、独学でかなり鍛え込んでいるのが分かる。
一方のアルゲンもサティやサルダスから手ほどきを受け、さらには魔法まで身につけた。
「参りますぞ!」
「俺の魔法を見せてやる!」
「魔法!?」
「深淵なる空よ、海よ、大地よ……」
両手を前にかざすアルゲンに、スタットは首を傾げる。
「この高貴で上品で偉大なるアルゲンに――」
ここでスタットの拳が命中した。
「うげっ!」
「隙だらけですよ、アルゲン様!」
「ちょ、ちょっと、詠唱させろォ! 卑怯だぞ!」
魔法にこだわるアルゲンはまともに攻撃できず、ノックアウトされる。
スタットは得意げに笑う。
「私の勝ちですな」
「うぐぐ……」
本来町長が領主を殴るなど大問題になるが、アルゲン的にはもはやそこは問題ではない。
ただただ負けたことが悔しかった。
「ちくしょう……魔法、もういいや! やっぱり普通に殴った方がいい!」
アルゲンの中で魔法ブームは終結した。
もしかすると人類初の本格的な魔法使いになれた可能性もあったが、結局「吹き飛ばす魔法」を覚えるだけにとどまったのであった。




