第24話 愚民のガキを執事にするぞ!
青空が美しい日、アルゲンは公園で自分の銅像を眺めていた。
「いつ見てもいい銅像だ……俺に似てかっこよくて、美しくて、凛々しくて……」
自分で自分の銅像にうっとりしている。
すると――
「アルゲン様!」
振り向くと、赤毛の少年クルムがいた。
ロクスの町の子供たちのリーダー的存在である。
楽しみを邪魔されたと、アルゲンは露骨に顔をしかめる。
「なんだ、愚民ガキ」
「お願いがあるんですけど……」
「お願いィ?」
「どうかアルゲン様の家で働かせて下さい!」
まさかのお願い内容にアルゲンは困惑した。
「なんで?」
「実は……もうすぐお母さんの誕生日で」
「それで?」
「自分のお金でプレゼントを買ってあげたいんです!」
「ふうん……。なるほど……。だから俺んちでバイトをね……」
アルゲンは少し考え、ニヤリと笑う。
「いいぜ。ついてこい」
「はいっ!」
アルゲンはクルムを自宅に連れて帰ることにした。
***
クルムを連れてきたアルゲンに、サティは驚く。
「どうしたんです、若様。誘拐ですか?」
「するか!」
エレンシアは微笑み、カーテシーを披露する。
「あらまぁ、庶民のクルム君じゃないの。ごきげんよう」
「こ、こんにちは」
エレンシアの優雅な挨拶に、クルムは頬を赤らめる。エレンシアはそれを見てニコリとする。
アルゲンはクルムの背中をバシバシ叩く。
「今日からしばらく、こいつを従者としてこき使うことにした」
「え?」
「まあ、面白そう!」
「だろ? ってことで愚民ガキ、いやクルム、しっかり働けよ!」
「はい!」
モレス家で働くからには愚民呼びはされなくなる。
クルムはしばらくの間、通いでモレス家にて働くことになった。
***
従者となったクルムは翌日早朝から、モレス家に出勤する。
さっそくアルゲンが命令する。
「出かけてくる。クルム、コートを着せろ!」
「はい!」
クルムは紫のスーツ姿のアルゲンに、白いコートを着せようとする。
しかし、身長差があるため、上手く着せられない。
「おい、もっと上まで上げろ! 袖に腕を通せねえだろうが!」
「すみません!」
背伸びしてようやく着せることができたが、アルゲンはクルムを睨みつける。
「いいか……。しっかり働かないと、金なんか払わないからな!」
「はいっ!」
食事時になり――
「クルム、食器の用意をしろ!」
「はい!」
テーブルの上に皿、ナイフ、フォークを置く。
これを見てアルゲンが顔をしかめる。
「おい……なんでナイフが左でフォークが右なんだよ」
「えっ、違うんですか!?」
「当たり前だろ! お前、普段どういう食事してんだよ!」
「普段はフォークしか使わないから……」
「ったく、これだから愚民は……! すぐ直せ! ナイフが右で、フォークは左だ!」
「すみませんっ!」
アルゲンの指導はかなり厳しく、クルムは何度も叱られる。
相手は子供――そんなことは関係なかった。
見かねたサティが機を見て、クルムにそっと近づく。
「クルム君、大丈夫?」
「大丈夫です」
クルムは笑顔を見せるが――
「無理はしなくていいのよ。あまりに厳しいと思ったら、私から若様に言ってあげるから」
サティとしては親切のつもりだった。だが、クルムは予想外の返事をした。
「いえ、厳しいのが嬉しいんです」
「え?」
「僕、プレゼント買うために他のお店でもアルバイトさせてもらったんですけど、僕がまだ子供だからか、みんな優しくて、簡単な仕事をくれて、ちゃんとお金もくれて……でも逆にそれがなんだか悪い気がしちゃって」
「……」
「でも、アルゲン様は違う。僕がちゃんと仕事しないと、ああやってちゃんと注意してくれる。怒ってくれる。なんていうか僕、初めて頑張って働いてるって気持ちになってるんです」
答えを聞いてサティは微笑む。
「そう……。あなたがそれでいいのなら、私が言うことは何もないわ。頑張ってね」
「はい!」
すると、アルゲンの声が飛んできた。
「クルム! ちょっと来い! ゲームの相手しろ!」
「すぐ行きます!」
走っていくクルムの背中はどこか頼もしいものになっていた。
しばらくして、「少しは接待プレイしろよ!」という情けない絶叫も聞こえていた。
***
クルムはおよそ二週間アルゲンの従者を務めた。
最後の日の夕刻、アルゲンが報酬を渡す。
麻袋の中には、かなりの量のコインが入っている。
「こ、こんなに……!?」
「まあ、それなりに働いたからな」
「ありがとうございました!」
「しっかり母親にプレゼントしろよ! 自分のオモチャなんか買ったら俺、怒っちゃうぞ!」
「はい、もちろんです!」
アルゲンたちは帰っていくクルムを見送った。
その夜、アルゲンは食堂のテーブルでクルムを呼びつける。
「クルム、そろそろ食事の支度をしろ。あれ? おーい、クルム!」
サティがやってくる。
「クルム君はさっき帰ったじゃないですか」
「あ、そうだった……」
アルゲンは頭をかく。
「せっかく従者としてマシになってきたから、いなくなると調子狂うなぁ」
エレンシアが口に手を当てて笑う。
「そうねえ。彼なら立派な執事になれると思うわ」
「よし……もうちょい大人になったら正式に雇ってやろうかな」
「それいいわね! クルム君なら大歓迎よ!」
「早く成長しやがれ、クルム!」
盛り上がっている二人に、サティがぼそりと一言。
「雇いたいのは勝手ですが、向こうにも拒否権はありますけどね」
「おい!」




