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悪徳令息と悪徳令嬢が婚約し、しかも町の領主になり、住民は「もう終わりだよこの町」と嘆くも意外と善政を敷く模様  作者: エタメタノール


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第23話 愚民ども、サティの父親が来たぞ!

 ロクスの町に一人の男がやってきた。

 髪は長め、無精髭を生やし、白い道着を着た大男であった。

 のしのしと歩く姿はどこか熊を連想させる。


「サティめ、失礼のないようやっとるといいが……」


 一方、アルゲンたちは邸宅にいた。

 アルゲンとエレンシアは皿に山盛りになったロクスグミを食べる。


「やっぱうめえな、これ」


「ええ、いくらでも食べられちゃう」


「そろそろなくなりそうだな」


「また買ってくればいいのよ」


「それもそうだな」


 山になっていたグミがみるみる減っていく。

 ロクスグミはあれからさらに改良が重ねられ、ロクスの町名物として揺るぎない地位を獲得していた。


「お二人とも、太りますよ」


 サティがたしなめる。


「なあに、食った分運動すればいいのさ! なぁ!?」


「そうね、アルゲン! 私たちが踊ればすぐにカロリーを消費できますわ!」


「その通り、俺たちにとっては毎日がダンスパーティーさ!」


 サティは頭に手を当ててため息をつく。


「たのもう!!!!!」


 突然、野太い大声が響いた。


「な、なんだ!?」


「すごい声でしたわ!」


 アルゲンもエレンシアも驚いていたが、この声に一番驚いたのは――


「ええっ!? どうして……!」


 おろおろするサティに、アルゲンとエレンシアが文句を言う。


「おいサティ、そこは『お二人とも落ち着いて』って言う場面だろ」


「そうですわ。サティさんが落ち着かないでどうするの。もっと冷静になさって。騒ぐのは私たちの仕事ですわ」


「し、失礼しました……」


「まあいいや、誰が来たんだ?」


「すぐ出ます」


「いいっていいって。俺が出てやるよ」


 珍しくサービス精神を発揮し、アルゲン自ら玄関に出ると、そこには白い道着の大男がいた。

 さすがのアルゲンもたじろぐ。


「……うおっ!?」


「まあ、逞しい人」


 エレンシアも目を丸くする。

 すると――


「お、お父さん……」


 サティの言葉にアルゲンとエレンシアは同時に驚いた。


「お父さん!!!???」



***



 サティの父はサルダスといい、ロクスの町から遠く離れた町で武術の道場主をしている。

 見た目通り豪快で、声の大きい男であった。

 リビングのソファに四人が座る。サルダスだけが明らかに巨体である。


「娘がいつもお世話になっとります!」


「サティの父親がこんな大男だとは……」


 アルゲンもさすがに委縮している。


「お父さん、何をしに来たの?」


 娘の問いにサルダスは大声で答える。


「そりゃあお前の様子を見に来たんだ!」


「私の……!?」


「手紙で、伯爵様のご子息が領主様になったと聞いた。そんな中お前がちゃんとやれているか心配でな」


「だったら事前に連絡ぐらいくれればよかったのに」


「そういうのまどろっこしくてな、ワッハッハ!」


 四人でしばらくは世間話をする。

 元々サルダスはアルゲンの父と親交があり、道場の経営が苦しかった時には援助してもらったこともある。

 まだ赤子だった頃のアルゲンを抱いたこともあるという。

 それから十数年、娘のサティが「私は武術以外の仕事をしたい」というので、モレス家に奉公に出したという経緯があった。

 サルダスはアルゲンの父には感謝してもしきれないと頭を下げた。


「さすが俺の父上だ……」


 アルゲンは自分の手柄でもないのに偉そうにうなずく。

 サルダスが尋ねる。


「で、サティはどうです? ちゃんとやってますか?」


 アルゲンは咳払いをする。


「うん、まあ、よくやってくれてはいるな。彼女の働きは及第点といっていいだろう」


 ここぞとばかりに主人らしい口調でサティを評する。


「サティさんには本当に助けられてますわ! 私も色んなメイドに出会いましたが、文句なしのナンバーワンですわ!」


 エレンシアも素直にサティを褒める。

 普段はクールなサティにも照れが見える。


「そうですか。ちゃんとやっとるようでよかった……」


 だが、ここでサルダスの目つきが変わる。鋭い光を帯びる。


「ではサティ、今度はお前に聞こう」


「なに?」


「アルゲン様は……立派な領主か?」


 サティの顔に緊張が浮かぶ。


「なんでそんなことを……」


「実は、私はアルゲン様のお父上からこんなことを言われたことがあるのだ。『アルゲンが、もし君の目から見て愚か者に育っていたら、君の武術で制裁してくれていい』と」


「な、なに!?」


「そして、あの方は冗談でそういうことを言う人ではない……」


 突然猛獣の前に放り出された形となったアルゲンは青ざめる。


(冗談じゃねえ! こんなガタイのいい奴に殴られたら、俺は……!)


 アルゲンは脳内で、顔面が無惨にひしゃげた自分を想像してしまう。


(エレンシアはそんな俺でも愛してくれるだろうか……!?)


 エレンシアは笑顔で言う。


「まあ! サティさん、ぜひアルゲンのことを正直に話してちょうだい!」


(正直に、は余計だ~!)


 アルゲンの顔が青いを通り越して白くなっていく。

 サティはうなずくと、ゆっくりと話し始めた。


「では……若様は町民たちを“愚民”と見下しています」


「ほう」


「他にも自分の思いつきで銅像を建てたり、ギロチンを作ったり、伯爵様がいる時では考えられなかったようなことを次々に……」


「ふむ……」


 好き放題やってきた自覚はあるのか、アルゲンは冷や汗まみれになる。


(サティの奴、全部バラしやがって! このままじゃ俺の顔面は前衛芸術にされちまう……!)


「ですが」


 サティは続ける。


「若様は、問題はたくさんある人ですが、しかしそれが町の人たちを活気づけている部分もあります。例えば……」


 打って変わってサティはアルゲンの功績といえるエピソードを語り始める。

 減税、フィーユの救出、ルカナを住まわせる、図書館建設、数々のイベントの実施……。

 アルゲンは顔面蒼白でほとんど聞いていない。どうやって逃げるかを必死に考えている。

 サティが話し終えると――


「……」


 サルダスは突如、立ち上がった。


「アルゲン様!」


「ひゃ、ひゃい!」


「さすがですな。ご立派に育ったようです。あなたに仕えることができているサティは幸せ者ですよ」


「そ、そう?」


 目を白黒させるアルゲン。


「よかったわね、アルゲン!」


「うん、まあな! ハーッハッハッハッハ!」


 いつものように笑うアルゲンだが、から元気なことは否めない。

 サルダスが立ち上がる。


「お礼と言ってはなんですが、アルゲン様に一つ技をお教えしましょう」


「技?」


 そのまま全員で庭に出る。

 サルダスが何をするのか、三人が見ていると――


「ハァッ!!!」


 サルダスが拳を繰り出す。

 腰を捻り、全体重を乗せた、突風のような突きだった。


「我が道場に伝わる技の一つ、強力な正拳突き“岩砲(がんほう)”です」


「“岩砲”……」


「文字通り、岩を高速で発射するが如き技です。さっそくやってみて下さい」


「う、うん」


 サルダスはアルゲンの突きを見つつ、次々にダメ出しする。


「セヤッ!」

「腕だけで打ってはダメです!」


「テイッ!」

「気合が足りません! もう一度!」


「デヤッ!」

「もっと全身を使って!」


 かなり厳しい稽古だったが、アルゲンも運動神経はいいのでみるみる上達していく。

 そして――


「ハァッ!!!」


「……お見事です!」


 アルゲンはどうにか“岩砲”を習得した。


「この短時間でよくぞ……アルゲン様、筋がいいですな!」


「え……そ、そうかな?」


「あなたが武術家を目指したなら、きっと歴史に残る武術家になれたでしょうに」


「そ、そう!? そうだよな!? アハハハハハッ!」


 褒められ、アルゲンは高笑いする。


 技を伝授したサルダスは「娘がしっかりやっていると分かったので」と邸宅を後にする。

 その帰り際、サティが父に言う。


「お父さんが門下生でもない人に技を教えるって珍しいね。というか初めてじゃない?」


「これは武術家としての勘なのだが、アルゲン様は今にこの町を救うかもしれん。その時、あの技が力になればと思ってな」


「絶対買いかぶりだと思うけど」


「ハハハ、じゃあ、またな! 達者でやれよ!」


 ちなみにアルゲンは――


「“岩砲”を習得した俺にもはや敵は無し! 今の俺なら岩ぐらい砕けそうだ!」


 調子に乗って、試しに岩を殴ってみたら、


「ぐあああああっ! いだいいいいいいいっ!!!」


 拳が腫れ上がった。

 エレンシアも悲鳴を上げる。


「ああっ、アルゲンが死んだら私も岩に頭をぶつけて死ぬわ!」


 サティはがっくりしてつぶやく。


「お父さんの目はやっぱり曇っていたのでは……」

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― 新着の感想 ―
ガンホー! ガンホー! ガンホー!
“岩砲”……課金でガチャ回さないから
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