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悪徳令息と悪徳令嬢が婚約し、しかも町の領主になり、住民は「もう終わりだよこの町」と嘆くも意外と善政を敷く模様  作者: エタメタノール


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第21話 愚民ども、薬で俺にひれ伏せ!

 暖かな午後、アルゲンは自宅の庭で木材を組み合わせて椅子を作っていた。

 相変わらず慣れた手つきである。

 しかし、その最中、ハンマーで指を打ってしまう。


「ぎぃやぁぁぁぁぁっ!!!」


 エレンシアとサティが駆け寄る。


「どうしたの、アルゲン!?」


「ハンマーで指を……!」


「若様が大工でミスをするなんて珍しいですね。領主としてはミスだらけですが」


「ミスってないからぁ!」


 一通り騒ぎ終わると、うってかわってアルゲンは弱々しい声を出す。


「エレンシア、すまない……。俺はこの傷では助からない……。どうか、強く生きてくれ……」


「ダメぇぇぇぇぇ! 死なないで、アルゲン! 死ぬのなら私も一緒よ!」


「お前まで死んでどうする……だが、嬉しいぞエレンシア……」


「一緒に天国へ参りましょう、アルゲン……」


 サティがため息をつく。


「お二人の場合、これが本気なのか冗談なのか分からないのが恐ろしいですね」


「落ち着いてないで、何か薬かなにか持ってきてくれ! マジで痛いんだ!」


 しかし、薬箱を持ってきたサティが――


「申し訳ありません。どうやら切らしてしまってまして」


「なんだとォ!?」


「せっかくですから、ルカナさんのところに行ってみては?」


「ルカナ? あの愚民エルフか……」


「はい。彼女の薬はよく効くと評判ですから」


「うぐぐ……よし、行ってくるか。エレンシア……待っててくれ! 俺は必ず戻ってくる!」


「行ってらっしゃい、アルゲン! 死なないでね!」


「ああ……分かってる!」


 まるで戦場に出向く兵士と、それを見送る恋人。涙ながらの別れ方をする二人に、サティはつぶやく。


「ホントこのお二人は退屈という言葉を知らなさそうですね」



***



 町に移り住んだルカナは、現在ある一軒家を借りて、薬屋を営んで生計を立てている。

 彼女の薬は特殊な能力を持つエルフならではの製法で作られており、よく効くと評判である。

 アルゲンが訪ねると、長い金髪をたなびかせ、落ち着いたブラウス姿で応対してくれた。


「これはこれはアルゲン殿、どうされた?」


「これだ……」


 アルゲンが指を見せる。すっかり腫れ上がってしまっている。


「大工仕事中にやっちまって……治る薬をくれ」


「打撲か。了解した」


 ルカナは軟膏が入った容器を持ってきた。


「これを塗ればだいぶ収まるはずだ」


 ルカナの軟膏の効果は絶大で、アルゲンの指の腫れがみるみる収まった。


「おお、すげえ!」


「エルフに伝わる秘術で作った軟膏なのでな。ただし、あまり数が作れるものではないので、やはりそういった点は人間たちの薬品に劣る」


「なるほど……」


 このレベルの薬を量産できるのであれば、今頃エルフの薬が市場を席巻しているはずだが、そう上手くはいかないのだなとアルゲンは納得する。


「他にもこういう薬があるのか?」


「もちろんだ。風邪を治す薬、骨を強くする薬、心を穏やかにする薬……」


「色々あるんだな」


「“心や体に作用する”という点に関してはかなり幅広く作れると思う」


(心や体に作用……?)


 アルゲンがふと思いつく。


「ということは、こんなのはできるか? ――ずばり、ひれ伏す薬!」


「ああ、できる」


 即答され、目を見開くアルゲン。


「マジで!? どのぐらいかかる?」


「幸い材料は揃ってるし、一日もらえれば……」


 これを聞いてアルゲンは身を乗り出す。


「よっしゃ、じゃあ作ってくれ! 明日取りに来る!」


「承知した」


 邸宅に戻ったアルゲンは得意げに告げる。


「エレンシア、サティ! 全町民が俺にひれ伏す日も近いぞ!」


「まあ、素敵!」


「また妙なことをおっしゃってますね」


「ハッハッハ、明日が楽しみだ!」


 ちなみにアルゲンの指の痛みはすっかり収まっていた。

 薬の効果はもちろんだが、町民をひれ伏させることへの嬉しさが、傷の治りを早めたのだろう。



***



 翌日、朝食を済ませたアルゲンは再びルカナの家に出向く。


「できたか!? 薬!」


「ああ、これがそうだ」


 フラスコに入った液体を渡される。


「これを飲めば、ひれ伏すんだな!?」


「ひれ伏す」


「よーし……」


 アルゲンは勢いよく、“ひれ伏す薬”を飲んだ。


「効き目はどれぐらいで現れる?」


「30分ほどかと」


「よっしゃ、ちょっとその辺歩くか!」


 アルゲンが町を歩いていると、町長のスタットを始め、何人かの町民と出会う。


(そろそろ効き目が出る頃だな……。さあ、ひれ伏せ! 愚民どもォ!)


 こうほくそ笑んだ瞬間――


「!?」


 アルゲンは背を屈め、両手を地面についた。つまりひれ伏してしまった。

 スタットが驚く。


「どうしたんですか、アルゲン様!? 突然、地面に手をついて……」


「あ、あれ……!?」


 若き領主の異常事態に町民たちも焦る。


「体が動かない……!」


 アルゲンは起き上がろうとするが、体が言うことを聞かない。ますます地面にはいつくばってしまう。


「どうしちまったんだ、俺の体ぁ……」


 そして、泣きそうな声で叫ぶ。


「誰か、愚民エルフを連れてきてくれえ……!!!」


 エレンシアとサティもやってきて、大勢が集まる中、アルゲンは一人だけ地面にひれ伏していた。

 ルカナがようやく到着する。


「えっ、皆がひれ伏す薬が欲しかったのか!?」


「そうだよぉ……」


 町民たちは呆れ、ルカナはため息をつく。


「飲んだら周囲の人間がひれ伏す……そんな薬、作れるわけないだろう。そんなものができたら、誰でも王様になれてしまう」


「うぐぐ……」


「何を考えてるんですか、アルゲン様。町民をひれ伏させるなんて!」


 スタットにも諭される。


「うぐぐ……」


 そんな中、エレンシアだけはアルゲンの味方である。


「可哀想なアルゲン……私もひれ伏すわ!」


 サティが冷静に止める。


「やめましょう。ドレスが汚れます」


「その通りだ……。俺はエレンシアがひれ伏すところなんて見たくない……」


「アルゲンったら……あなたはいつも優しすぎるわ……」


 感激で涙を流すエレンシア。

 この場面だけ切り取れば確かに感動的だ、と町民たちも冷ややかな目で見つめる。元々悪いのはアルゲンなのだから。

 アルゲンが地面に這いつくばったままルカナに聞く。


「これ……どれぐらいで治る?」


「一週間はかかるだろうな」


「一週間!? 効き目を解除できる薬はないのか!?」


「作ることはできるが……今度は材料の入手が難しいから、結局一週間以上はかかってしまう」


 自然治癒を待つのが最短で、このままではアルゲンは一週間以上ひれ伏さねばならないという。

 自業自得ではあるが、町民たちもいい気味だと思うよりは同情の眼差しを向けてしまう。

 この状況にアルゲンが耐えられるはずもなかった。


(こんなの嫌だ……。愚民どもに見下されるなんて、憐れまれるなんて……)


 アルゲンの目に力がこもる。


「俺は……俺はこんな薬などに負けん!!!」


 少しずつではあるが、アルゲンの体が起き上がる。周囲の人間がざわつく。


「ま、まさか……!」ルカナも驚く。


「すごいわ、アルゲン!」エレンシアは喜ぶ。


「俺は……俺は、俺は、俺は……この町の領主だ! 愚民を見下す立場にある……!」


 言っていることは酷いものだが、よろよろと立ち上がる様子に皆が妙な感動を覚える。


「うおおおおおおおっ!!!」


 ついにアルゲンは立ち上がった。

 一度立ち上がってしまうと、薬の効果を吹っ切ることができたのか、再びひれ伏すことはなかった。


「信じられん……! 薬に逆らえる人間など初めてだ!」


 ルカナがこう言うと、エレンシアがアルゲンに抱きつく。


「すごいわ、アルゲン!」


「や、やったぜ……!」


 そして、なぜかアルゲンコールが響き渡る。


「アルゲン! アルゲン! アルゲン! アルゲン! アルゲン!」


「みんな……ありがとう! これからもどんどん俺を崇めろよ!」


 立ち上がる場面が妙に劇的だったので、この場はやたらと盛り上がった。なぜかアルゲンの評価も上がった。

 町民たちをひれ伏させることはできなかったが、結果オーライなアルゲンであった。

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― 新着の感想 ―
アルゲン、やっぱりアンタはスゲえよ。 たまにぶん殴りたくなるけど(・д・) だがなあ、薬で他人が平伏す、ってのは無理があるだろぉ?
薬に打ち勝つ強い意志が、謎の感動を呼ぶ。 言ってることは割とサイテーだけど
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