第20話 愚民ども、王子に教育してやる!
アルゲンがセオドアに近づく。
「おい、お前! どこの誰だ!?」
セオドアは自慢の金髪を触りながら堂々と答える。
「僕か? 僕は第一王子セオドア・ローン・フィリウスだ。お前こそ誰だ?」
“第一王子”の肩書きにもアルゲンは怯まない。
「俺はこのロクスの町の領主アルゲン・モレスだ」
「ああ、お前がこの銅像の……銅像のが賢く見えるな」
「言ってくれるじゃねえか」
アルゲンが詰め寄る。
セオドアは少したじろぐ。
「アルゲン様、その方は王子様で、見聞を広めるためにこの町に来られたのです」スタットが補足する。
「見聞を広める? 悪名を広めるの間違いじゃないのか」
これを聞いたセオドアは眉を吊り上げる。
「なんだと!?」
「お前みたいなのが第一王子とはなぁ……この国ももう終わりかな……。ああ、残念……」
露骨にため息をつきニヤニヤするアルゲンに、セオドアはますます腹を立てる。
「お前……! おい、今すぐ土下座しろ!」
「は?」
「その後は僕の靴の裏を舐めろ! そうすれば今の暴言は許してやるぞ!」
「やらなかったら?」
「……死刑だ! 王家侮辱罪でお前を死刑にしてやる!」
アルゲンは首を横に振る。
「なんで俺がお前如きにそんなことしなきゃならねえんだよ」
「なにい……!?」
王子を侮辱しまくるアルゲンを周囲の人間はハラハラして見守っている。
「僕は第一王子だぞ!」
「俺は伯爵の令息だ」
「そうだ……! 第一王子と伯爵令息……どっちが偉い!?」
「決まってんだろ……伯爵令息だ!!!」
「えええええ!?」
微塵の疑いもなく言い放つアルゲンに、セオドアは圧倒されてしまう。
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけてねえよ。俺のがお前より偉い」
「僕の方が偉い!」
「だったら証明してみろよ」
アルゲンが手招きする。
「俺がムカつくんだろ。だったら拳で証明してみろ。第一王子様」
「……やってやる!」
セオドアが殴りかかるが、アルゲンはひょいとかわす。
アルゲンの反撃の拳がセオドアにクリーンヒット。
「ぐぎゃっ!」
「さあ、どうしたどうした!?」
「くそぉぉぉぉぉ!!!」
喧嘩が続くが、アルゲンがセオドアを圧倒している。
「ハーハッハッハ! なんだよお前、弱すぎだろ! こりゃ楽しいわ!」
「ぐぞっ!」
アルゲンは自分より弱い人間にはとことん強い。王太子をボコボコに殴るアルゲンに、町の人間は生きた心地がしない。
そこへサティとエレンシアがやってくる。
スタットがすぐに呼びかける。
「大変なんだ! アルゲン様が王子をボコボコにして……止めないと……」
「若様の方が優勢ですね。最近は私も武術を教えてますし、動きがよくなっています」
「感心してる場合じゃないって! このままじゃアルゲン様は死刑に……!」
「そうですね。私が止めましょう」
だが、エレンシアがサティを手で制する。
「待って。アルゲンにも何か考えがあるのよ。だからもう少し見守りましょう」
「あるでしょうか……」
皆で喧嘩を見守っていると、ついにセオドアが膝をついた。
「うぐぅ……」
「ハッハッハ、俺の勝ちだな!」
セオドアはかなり殴られていたが、思ったより怪我はなかった。アルゲンもそれなりに加減をしていたのだ。
「なんだよお前……なんで僕に従わないんだよ!」
「なぜって? だって俺はこの町の領主だからな。いわば、この町を背負ってる。相手が何者だろうとそう簡単にヘコヘコするわけにはいかないんだよ」
「……」
「お前にはそういうのがあるのか? 何か背負ってるのか? 第一王子セオドア」
セオドアは目を閉じる。
やがて、絞り出すように言う。
「……ない」
「だったら身につけてみせろ!」
アルゲンが胸をドンと叩く。
「王子だとかそんな身分を振りかざさなくても、みんながついてくるようなハートを持つんだ! この俺のようになァ!」
「ハート……」
「その時こそ、お前は真の王子になれる!」
「う、うん……」
「よし、約束だ!」
「うん!」
アルゲンが手を差し伸べ、セオドアはその手を取る。
エレンシアは目に涙を浮かべている。
「素敵だわ、アルゲン! 王太子殿下に上に立つ者としての心得を説くなんて……」
サティはつぶやく。
「どの口で言ってるのか……という気もしますけど、ご立派になりましたね」
「ハッハッハ! よぉし、このセオドアを交えて、パーッとやろう! みんな!」
そのままアルゲンは町民たちを連れて、近くの料理屋で、どんちゃん騒ぎをする。
アルゲンはセオドアの皿にどんどん肉を乗せていく。
「ほれ、食え食え! 育ち盛りなんだからな!」
「ありがとう……」
セオドアもすっかり素直になり、美味しそうに肉を食べている。
先ほどまでのセオドアであれば「不味い」と暴言を吐いていただろう。
スタットはそれを見て思う。
(そうか、さっきまでの王子は虚勢のような面もあったということか……)
アルゲンはセオドアの肩をバシバシ叩く。
「いいかセオドア、俺みたいな立派な男になるんだぞ!」
「うん!」
セオドアもすっかり楽しんだ。
和気あいあいとしたムードの中、スタットがアルゲンをそっと呼び出す。
「……アルゲン様」
「ん、なんだ、愚民町長」
「今回は感服しました。よくあのワガママ王子を更生させてくれましたね」
アルゲンはこれを聞いて噴き出す。
「ぷーっ、愚民町長、お前あれが本物の王子だとでも思ってんのか?」
「え?」
「本物の王子が一人で町に遊びになんて来るかよ。ありゃ、王子を騙ってる偽者だよ、ニセモノ」
「そうなんですか?」
「たまにいるんだよ、ああやって身分を騙ってタダで飲み食いしようとする奴がな。あの小僧もそういう手合いに決まってる。だから、俺も付き合ってやっただけさ」
「じゃあ、さっきの説得は……」
「あんなもん、思いつきでそれっぽいこと言っただけだ! ハーッハッハッハッハ!」
スタットは唖然としてしまう。
夕刻近くになり、予告通り馬車がセオドアを迎えに来た。
殆どの人間がその荘厳さに歓声を上げる中、アルゲンは馬車を見て目を丸くする。
「な、なんだありゃ……!?」
屋根の竜の紋章は、アルゲンにも見覚えがあった。
「あれは、王家の紋章じゃねえか……!」
横のエレンシアが言う。
「ええ、私も見たことがありますけど、あれは本物ですわね」
どう見ても模造品の類ではない紋章に、アルゲンの顔がみるみる青ざめていく。
「え……? え……? どういうこと……?」
馬車の中から屈強な兵士が出てきて、セオドアを迎える。
「……殿下!? どうしたのですか、そのお怪我は!?」
セオドアはにっこり笑う。
「ああ、ちょっとね。でも薬を塗ったから平気さ」
薬はもちろんルカナ製である。これを聞いた兵士は目を吊り上げる。
「誰ですか! 怪我を負わせたのは! ただちにその者に処罰を……!」
「いや、いいんだ」
「しかし!」
「いいと言っている」
「……! し、失礼しました!」
午前中までとはまるで違うセオドアの迫力に、兵士はたじろぐ。
たった数時間で、この王子は見違えるほどの成長を遂げていた。
セオドアがアルゲンに振り返る。
「ありがとう、アルゲン。おかげで目が覚めたよ」
「いやぁ~、ハハハ……どういたしましてぇ……」
「僕は立派な王子になってみせる。アルゲンのようにね」
「そ、そうですかぁ……頑張って下さいませ……」
「まず僕がやらねばならないことは、今までに迷惑をかけた人々への謝罪かな。この町にも迷惑をかけた。飲み食いの代金はもちろん払う」
「ご立派なお心がけで……アハハハ……」
一方、アルゲンは汗まみれになっている。腰は引け、膝は震えている。
そして、セオドアは馬車に乗り込み、去っていった。
馬車の中でセオドアは従者に言う。
「僕は強いハートを持つ王子になるよ。そして、立派な国王になってみせる」
「殿下……成長なされましたな」
「うん……これもあのアルゲン・モレスのおかげだ」
馬車の外を見るセオドアの顔つきは、ところどころ傷があるが、実に精悍なものになっていた。
***
翌日、アルゲンは朝から自室に引きこもっていた。
エレンシアは心配する。
「アルゲンはどうしたの?」
「布団にこもって、俺はもう終わりだ、俺は死刑になるって、ずっと言ってますよ」
「まぁ、可哀想なアルゲン……慰めてあげようかしら」
「大丈夫ですよ。きっと三日も経てば、元通りになります」
「そうね、アルゲンですものね」
部屋の中のアルゲンはというと――
「俺はなんてことをぉぉぉぉ……! 終わりだぁぁぁぁ……! 死刑になりたくないぃぃぃぃ……!」
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