第2話 愚民ども、俺の銅像を建てるぞ!
ロクスの町には公園がある。
広い芝生があり、遊具も完備され、休日は大勢の家族が集まり賑やかになる。
町民たちの憩いのスペースといえる。
そんな公園に、派手な紫色のスーツでやってきたのは――
「相変わらず愚民どもがたむろしていやがるな」
ロクスの町の現領主アルゲン。
「庶民たちをこうして見下すのは楽しいですわね」
横にはアルゲンの婚約者エレンシア。
真っ赤なドレスを着て、桃色の扇子をあおいでいる。
あまりにも場違いな二人の登場に、公園の利用者たちはげんなりする。
「アルゲン様だ……」
「エレンシア様もいるぞ」
「二人揃って何しに来たんだ……?」
こんな冷たい視線も彼らの中では「愚民どもが俺たちに注目している」「庶民たちが私たちに目を奪われている」と脳内変換してしまう。
「しっかし、この公園、どうも殺風景だとは思わないか?」
「ええ、エレガントさに欠けるわね」
「だろう。何かオブジェでも作りたいところだが……」
アルゲンが閃く。
「そうだ! 俺の銅像を建てよう! 領主となった俺の銅像を建てて、愚民どもにさらに俺を崇めさせるんだ!」
エレンシアは同調する。
「それはいい考えね! きっとみんな喜ぶわ!」
「よし、そうと決まれば、予告しておくか。俺の銅像を建てるとな!」
アルゲンは町長スタットを始めとした町の主立ったメンバーを公園に集めた。
「アルゲン様、何をする気で……?」
スタットは露骨に顔をしかめるが、アルゲンはふんぞり返る。
「この公園に俺の銅像を建てる!」
スタットはため息をつくが、アルゲンはまるで気づいていない。
「建てるのはいいとして、誰が作るんです?」
「俺だ」
「え、自分で!?」
「当然だろう。お前ら愚民にこんな偉大な事業を任せられるかぁ!」
「……自分でやるなら、勝手にやって下さい」
「おう、勝手にやってやる! ハーッハッハッハッハ!」
「頑張ってね、アルゲン! オーッホッホッホッホ!」
笑いながら自宅に戻っていく二人を、スタットは呆れた表情で眺めていた。
「なんなんだ、あの二人は……」
***
モレス家の邸宅――アルゲンは自室にこもり切りとなる。
サティがエレンシアに尋ねる。
「若様、このところ食事の時以外はずっと部屋にこもってしまって……どうしたのでしょう?」
「銅像を作ってるのよ」
「まあ、銅像」
「アルゲンのことだから、きっと素晴らしい銅像を建てるに違いないわ! オーッホッホッホッホ!」
「私はあまり期待せずに待つことにします」
サティは静かな目と声で答えた。
***
二週間後、アルゲンが町民らを公園に集める。
彼の横には何かを包んだ白い布があった。
「愚民ども、ちゅうもーく! これより銅像の除幕式を行う!」
町民たちはささやく。
「マジで作ったのか」
「口だけだと思ってた」
「どうせ酷い出来に決まってる……」
あまり盛り上がらないのでアルゲンが不満げな顔をする。
「おい、拍手がないぞ! 拍手!」
パラパラとまばらな拍手が沸く。
「コラァ! もっとちゃんと拍手しろ!」
大きな拍手が鳴り響き、アルゲンは満足げに微笑む。
「よしよし、それじゃ除幕式を始めるぞ。見て驚けよ。これが俺の――銅像だ!」
アルゲンが布を取り去ると、そこには等身大のアルゲン像があった。
スーツ姿で左手は腰に当て、右手はまっすぐどこかを指差している。
かなりリアルにできており、素直に感嘆の声が上がる。
「へえ、すごい!」
「よくできてるなぁ!」
「本人にそっくりだ……!」
町長のスタットも目を丸くしている。
「これはすごい! アルゲン様にも意外な才能があったんですな」
「だろ! ん、意外?」
エレンシアとサティも――
「さすがアルゲン、素晴らしい出来栄えだわ!」
「よくできていますよ、若様。正直見くびってました」
「そうだろう、そうだろう! まあ、この程度、俺にかかれば楽勝だがな!」
アルゲンは銅像作りの苦労話を始める。
やれ材料は厳選しただの、鏡を見ながらポーズを決めただの……あまりに長いので、町民たちもうんざりしてくる。
そんな時だった。
「ねえねえ、これ蹴っていい?」
赤毛の少年クルムが銅像に近づいてきた。
「いいわけねえだろ――あっ!」
アルゲンが制止する間もなく、クルムは銅像を蹴ってしまった。
「このクソガキィ!!!」
アルゲンは激怒するが、クルムは目を輝かせている。
「すっごーい!」
「ん?」
「この銅像、ビクともしないや!」
「ん? おお、そうだろ。なにしろ超頑丈なスケイル銅を使ったからな!」
「領主さま、もっと蹴っていい?」
「お? いいぞ、蹴れ蹴れ! 蹴りまくれ!」
アルゲンはつい許可を出してしまう。すると――
「俺も蹴っていいですか!?」
「殴っていいかしら?」
「僕も!」
アルゲンも機嫌をよくしてしまう。
「どんどんやれ! 愚民ども程度の攻撃じゃ、この銅像は壊せないぜ!」
町民が次々にアルゲン像を殴る蹴るするが、銅像は全く壊せない。
「私もやっていいですか?」とスタット。
「いいとも!」
スタットがキックを叩き込む。アルゲン像は傷一つつかない。
「私もよろしいですか?」とサティ。
「いいぞ!」
サティの拳が炸裂。かなりいい音がした。
「私のパンチでも壊れないとは……さすがですね」
「なんなんお前……?」
サティのメイドらしからぬパンチ力にアルゲンはたじろぐ。
次々にアルゲン像は攻撃を加えられたが、壊されることはなく、無事除幕式は終わった。
「あー、スッキリした」
「気持ちよかった~」
「スカッとしたわ!」
アルゲンも満足そうにうなずく。
「愚民どもからも好評だし、最高の除幕式になったな、エレンシア!」
「ええ、とても素晴らしかったですわ!」
そんな中、サティはじっと自分の拳を見つめていた。
「私もまだまだ未熟ですね」
***
その後、公園のアルゲン像はすっかり名物になった。
「くっそ~、今日はムカついたぜ! アルゲン様の銅像でも殴りに行くか!」
「俺も行く!」
「あれ殴るとスカッとするよな!」
アルゲン像は町民のストレス解消役として大活躍。
少しずつ傷は増えていくが、相変わらず自信満々のポーズを取っている。
邸宅で、アルゲンはそれを自慢げに語る。
「今日も俺の銅像がみんなからボコボコに殴られてたが、ビクともしてなかった! 最高の気分だ!」
「それはいいことだわ、アルゲン!」
「だろう!? ハーッハッハッハッハ!」
サティはそんな二人を冷めた目で見つめていた。
「まあ本人が満足しているのならこれで良しとしましょうか」




