第16話 愚民ども、ギルドを作るぞ!
世の中にはさまざまなギルドがある。
危険な仕事を請け負う冒険者たちのギルド。商人が集うギルド。職人たちが協力し合うギルド。
さらには裏社会にもこういったギルドはあるとされる。
そして、アルゲンは突如思い立った。
「“俺ギルド”を作ろう!」
「なんですかそれ?」
サティが質問すると、アルゲンは胸を張る。
「この俺アルゲン・モレスというあまりにも素晴らしい領主を称え、崇め、みんなで褒めまくろうというギルドだ」
「いいわね、それ!」
エレンシアの目が生き生きと光る。
「だろう!?」
「ようするにファンクラブのようなものですか?」サティが尋ねる。
「それだとなんか響きが陳腐だろ。あくまでギルドだよ、ギ、ル、ド」
「……まあいいですけど」
「じゃあ、私を最初の会員にしてちょうだい!」
エレンシアが胸に右手を当てながら身を乗り出す。
「もちろんだとも、エレンシア! なんなら副会長にしてやろう!」
「まぁ、嬉しいわ!」
サティは二人から距離を置く。
「私は結構です」
「付き合いが悪いな、サティ!」
「そうよ、サティさんも会員になりましょうよ」
「結構です」
アルゲンとエレンシアは体を寄せ合い、うっとりと見つめ合う。
「まあいいや、エレンシアが会員になっただけで、会員一万人分の価値はある」
「そんな……私の価値などせいぜい千人ぐらいですわ」
「いいや、一万人だ!」
「アルゲンったら! だったらアルゲンも一万人よ!」
「ふふっ、早くも二万人もの大所帯になってしまったな……」
そのまま抱きしめ合う。サティの目は冷めている。
「よぉし、愚民どもに俺とエレンシアを崇めさせてやるんだ!」
「ええ!」
アルゲンとエレンシアは両手を繋ぎながら、窓の外に広がる青空を見た。
***
翌日、アルゲンが町で『アルゲンギルド』発足を発表する。
ギルド会員になったあかつきには、週に一度モレス家の邸宅に集まって、アルゲンのトークを聞き、アルゲンを褒め称えることが義務付けられる。
「会員になりたい愚民は、この名簿に名前を書け!」
「オホホ、ギルド会員になれば思う存分私やアルゲンに会えるわよ!」
しかし、希望者は出ない。
というより、なるべく反応しないように通り過ぎていく。
「な……なぜだ!?」
「アルゲンがこんなに頑張ってるのに、庶民たちは分かってないわね!」
アルゲンはショックを受け、エレンシアは憤っている。
見かねたサティがアドバイスをする。
「なにか特典でもつけたらどうです?」
「特典か……そうだな。会員になった奴には、俺の詩集をプレゼント!」
誰も反応しない。
「俺の自伝もつけよう! みんなが気になってる俺の半生がよく分かるぞ!」
誰も反応しない。
「そ、そうだ! ジュースや菓子を出すから! なんなら軽食も! タダで飲み食いできるぞ!」
すると、誰かが――
「あ、じゃあ俺、入ります」
「私も!」
「僕もー!」
入会希望者が集まってきて、アルゲンは笑顔で彼らを迎え入れた。
「ありがとう……! ありがとう……!」
エレンシアは横で高笑いする。
「オーッホッホッホ、これもアルゲンの人徳のなせるわざですわね!」
サティはため息をつく。
「人徳というか、みんな“得”を取ったという感じですけどね」
***
こうして週に一度、モレス家の邸宅では『アルゲンギルド』の集会が催されるようになった。
しかし、その内容は――
「家で飲むジュースよりあま~い!」
「お菓子、美味しい!」
「いつ来ても、この家は立派な建物だな」
広めの応接室で町民たちが好き勝手に飲み食いをするだけ。満足したら帰っていく。
アルゲンは苦々しくこの光景を眺めている。
「く、くそ……これのどこが俺のギルドだ。いつもの集会を俺の家でやってるだけじゃねえか」
エレンシアが声をかける。
「まあ、いいじゃない。私はフィーユさんと歓談を楽しむわ。ねえ?」
「はい、エレンシア様!」
アルゲンがぶつくさ文句を言っていると、ロクスの町最高齢の老婆ランネが声をかけてきた。
「アルゲンちゃん。あんたも座ってみんなとおしゃべりしなさいよ」
「愚民婆さん、いつも言ってるけどな。“ちゃん付け”はやめてくれ! 俺は領主なんだからさ!」
“あんた”呼びはスルーするアルゲン。
「ほら、キャンディーあげる。食べるでしょ?」
「……食べる」
ランネからもらったキャンディーを頬張りながら、アルゲンも町民たちとの雑談に参加してしまう。
突如発足したアルゲンギルド、ひとまずは大盛況といったところである。




