第15話 愚民ども、格闘大会を開くぞ!
王国では武術や格闘技が盛んであり、大都市では大会が開かれ、強者たちが腕を競い合っている。
ロクスの町ではそういった大会はなかったのだが、アルゲンが言い出した。
「格闘大会を開こう!」
「何を言い出すんですか、あなたは」
サティが呆れる。
「愚民町長の娘の騒動で見ただろ? 俺があのラドゥスのボディガードを華麗にブッ倒す勇姿を!」
エレンシアが目を輝かせる。
「ええ、ええ、あの時のアルゲンは本当にかっこよかったわ! パンチは槍の如し、キックは斧の如し、投げは投石機の如しで」
「ふふ、そうだろう、そうだろう。しかもノーダメというのが俺の凄いところだ」
アルゲンもうなずく。
ちなみに投げ技など使っていないし、ダメージも受けまくっていた。
「お二人とも、だいぶ思い出が改ざんされてる気がしますね」
「されてなぁい! とにかく、ここらで俺の強さを見せつけるために大会を開きたい!」
「まぁいいですけど」
「よぉし、大勢の参加選手を募って、俺が優勝してやる!」
「庶民たちにあなたの強さを存分に思い知らせてね!」
「任せとけ、エレンシア!」
すでにアルゲンの脳裏には自分が優勝し、チャンピオンベルトを巻いた姿が見えていた。
町民は全員ひれ伏し、スタットは土下座し、サティは拍手をし、エレンシアから祝福のキスをされる……そんな光景が。
しまりのない笑みを浮かべるアルゲンを、エレンシアは囃し立て、サティは冷めた目で見つめていた。
***
さっそくアルゲンが町で大会開催を宣言する。
「……というわけだ。俺を倒せる自信のある愚民がいたら、どしどし参加してくれ! むろん優勝賞品は弾むぞ! どうせ俺が優勝しちゃうだろうけどなァ!」
町民たちは「どうしよう」とざわつくが、まずスタットが手を挙げた。
「私も出ますよ!」
「愚民町長。いいのか? ケガするかもしれないぞ」
「実は私もあの時、ラドゥスをやっつけてから自分の強さに気づき、密かに鍛えてましてね」
右腕で力こぶを作るスタットを見て、アルゲンも感心したように笑う。
「ふん、愚民なりに努力はしてるってことか」
すると、スタットが出るならと町の男たちが次々に名乗りを上げる。
「俺も出ようかな……」
「僕も出ます!」
「私も……」
自分のかませ犬が増えるだけだと思っているので、アルゲンは喜ぶ。
「よしよし、これだけ出るんなら面白い大会が開けそうだ!」
“と言っても俺にとって面白い”だけどな、と内心ほくそ笑んだ。
***
ロクスの町格闘大会は、告知から一週間後に開かれた。
広場中央には四方をロープで囲ったリングが用意されている。
リングを作ったのはもちろんアルゲン。銅像や図書館を建てた大工としての才能・経験がいかんなく発揮されている。
会場には露店を出す者もいて、大賑わいになった。
サティがリングを触る。弾力があり、安全性の高い仕上がりだ。
「よくできてますが、若様リングに何か仕掛けてませんか?」
「そんなことしねえよ」
「若様のそういうところ、フェアで好きですよ」
「まあ、俺ほどになると卑怯な手を使わなくても余裕で勝てるからな!」
「その通りだわ、アルゲン!」
エレンシアはアルゲンの優勝を全く疑っていない。
抽選で組み合わせが決まる。
サティの手でトーナメント表が作られ、アルゲンとスタットは決勝で当たる組み合わせになった。
領主と町長。二人は目線を合わせ、火花を散らす。
「愚民町長、どうやら当たるのは決勝だな」
「ええ、もっと早く当たりたかったですが」
「ライバル同士の決着は決勝でつけるぞ!」
「そうしましょうぞ!」
やり取りを見ていた一人の町民は思った。
(この二人、ライバル同士だったのか……)
***
アルゲンの一回戦。
対戦相手は料理店を営むジェフという男だった。
ルールは手にはグローブをつけ、目や股間などの急所攻撃は禁止、ダウンして10カウント取られたら負けというシンプルなもの。
審判は武術の心得があるサティが行う。
「では始め!」
試合開始の合図がかかる。
「うう……いきなり領主様とだなんて」
ジェフは弱気なファイティングポーズを取る。
「相手が悪かったな、愚民料理人。男爵令息ラドゥスの屈強なボディガードを沈めた俺の拳、受けてみろォォォォォ!!!」
長々と武勇伝を誇りつつアルゲンが猛然と殴りかかるが、ジェフが恐る恐る出した拳が、カウンターで入ってしまった。
「あ……? あれ……? あ、足が……」
この一発で、アルゲンはよろめく。膝がガクガクと震えている。
手応えを感じたジェフは拳を強く握り締める。
「いつもは肉や魚を料理する私ですが……今日はあなたを料理します!」
アルゲンの顎に見事なアッパーカットが決まった。
「ぐはぁっ!」
アルゲンはダウンし、「こんなバカな……」とうめいている。
「カウントを取るまでもありませんね」
サティはアルゲンのKO負けを宣告した。
エレンシアは「負けてもかっこいいわよ、アルゲン!」と実に楽しそうだ。彼女にとって、アルゲンは勝っても負けても輝いているヒーローなのである。
ちなみに、ライバルのスタットもあっさり負けてしまう。
決勝で会う約束をしていた二人は仲良く一回戦負けとなった。
その後もサティが手慣れた様子で試合を進めていく。
怪我人にはルカナが薬を振舞い、治療する。
「まさか、こんな形で私が役に立とうとはな……」
ちなみに、優勝は大工の棟梁であるベンダーであった。
だが、腕を振るい足りないベンダーは、審判のサティに向かって――
「そういやサティちゃんは武術をやってるんだって? 俺と手合わせしてくれないか?」
「いいですよ」
「ふふふ、手加減しないぜ!」
「望むところです」
この試合は、サティの圧勝に終わった。
こうしてロクスの町最強はサティということに決まってしまった。
そんな最強メイドにエレンシアも拍手を送る。
「素晴らしいわ、サティさん!」
「ありがとうございます、エレンシア様」
サティを囲んで、町民たちが盛り上がっている。
その光景を体育座りで見つめながら、アルゲンは悔しさに顔を歪めてつぶやく。
「いつか第二回も開いてやる……!」
横に座るスタットもうなずく。
「そうですな……目標はどうしましょう?」
「もちろん優……一回戦突破だ!」
「私もそうしときます」




