第14話 愚民ども、図書館を建てるぞ!
アルゲンが町を歩いていると、自身の銅像が建っている公園に差し掛かる。
それを見上げ相変わらずイカした銅像だ、と酔いしれる。
すると、子供たちに声をかけられた。
「あっ、領主様だ!」
「遊ぼう!」
「オーガごっこしよー!」
アルゲンは顔をしかめる。
「誰がガキどもと遊ぶかよ。俺は忙しいんだ」
「だったら、バカ息子って呼ぼう」
「バーカ!」
「バカ息子ー!」
しかし、子供たちのリーダー格であるクルムが皆を止める。
「おい、みんなやめろよ! 失礼じゃないか!」
だが、もう遅かった。アルゲンは激怒した。
スーツを脱ぎ去り、子供たちににじり寄る。
「てめえら、まだ俺の恐ろしさ素晴らしさを分かってないようだな!」
怒りのまま、アルゲンが子供たちの群れに乱入する。
クルムが慌てる。
「忙しいんじゃなかったんですか!?」
「うるせえ、予定変更だ!」
結局この日、アルゲンは夕方まで子供たちと遊んでしまった。
***
夜、邸宅の食卓にて。
アルゲンはほうれん草のバターソテーを咀嚼しながら、愚痴をこぼす。
「ったくよぉ、ガキどもときたら……俺を全然敬ってない。おかげで、昼間にやるべき仕事を全然できなかった……」
「食後にちゃんとやって下さいね。だいぶ溜まってますから」とサティ。
「うぐ」
フォークに刺した肉を口に運びつつ、アルゲンの愚痴は続く。
「それにしても、この町のガキは教育水準が低すぎる!」
「その通りだわ、アルゲン! 教育が行き届いていないわ!」
エレンシアはサラダを優雅に食べながら同調する。
「というわけで、図書館を作ろう!」
「また突飛なことを……」
サティが眉をひそめる。
「だけどよ、あった方が面白くないか? 図書館」
「それはまあ、確かに」
「その通りよ、アルゲン! 庶民のためにも図書館を作るべきよ!」
「よし、決まりだな。設計は俺がやる。エレンシアは方々に呼びかけて本を集めてくれ。サティは大工どもに依頼を頼む」
「分かったわ!」
「分かりました」
アルゲンがニヤリとする。
「この町の教育水準が上がれば、皆が俺の偉大さに気づき、崇めるに違いない!」
***
次の日、アルゲンは自分で書いた設計図を、ロクスの町大工の棟梁であるベンダーに見せる。
ベンダーは頭にタオルを巻き、タンクトップ姿の逞しい体躯の男であった。
「むむ……」
ベンダーが唸る。
「どうだ?」
アルゲンは得意げな表情をしている。
「意外と……いや失礼。よくできてますね……驚きました」
「だろ!?」
アルゲンが身を乗り出すと、ベンダーがアルゲンの手を掴む。
「アルゲン様、大工になりませんか?」
「ならねえよ!」
こうしてアルゲンの図書館作りが始まった。
図書館といっても予算の都合上、大きさは一軒家程度、規模は図書室といっていいもの。
だが、ロクスの町住民の教育水準を上げるにはそれぐらいで十分だろうとアルゲンは踏んでいた。
とにかく本を読む習慣をつけさせるのが大事なのだと。
エレンシアもさまざまな方面に呼びかけ、本を集める。
読まなくなった本を持て余している貴族は意外に多く、大量の本が集まった。
サティはメイドとして、アルゲンや大工たちにパンやミルクなどを差し入れする。
アルゲンは額に汗しつつ、大工仕事をするのだった。
「よぉし、この柱は削り終わったぞ!」
ベンダーがアルゲンの手並みを見て、またも口説く。
「いやー、手つきいいですねえ。ところで、大工になりません?」
「ならねえって!」
***
そしてついに、ロクスの町に小さな図書館が完成した。
本棚にはさまざまなジャンルの本がぎっしり詰まっており、子供たちだけでなく、大人まで読書に熱中している。
「この小説、面白いわ~」
「動物がたくさん載ってる!」
「ジャンル分けも丁寧で素晴らしいな」
今までにない施設ができて、スタットも喜ぶ。
「アルゲン様とエレンシア様のおかげですよ」
エレンシアは笑う。
「オーッホッホ、これでこの町も少しは知的になりますわよ」
「……で、肝心のアルゲン様は?」
サティが指を差す。
「若様でしたらあそこで漫画読んでますよ」
アルゲンはソファで漫画を読みながら大笑いしていた。
マナーも悪く、反面教師のような有様になっている。
「ハーッハッハ! これおもしれえ! いやー、図書館作ってよかったわ!」
教育水準云々はただの方便で、自分が楽しみたかっただけでは……スタットはそう思った。




