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悪徳令息と悪徳令嬢が婚約し、しかも町の領主になり、住民は「もう終わりだよこの町」と嘆くも意外と善政を敷く模様  作者: エタメタノール


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第11話 愚民ども、エルフが町にやってきたぞ!

 ロクスの町に、小汚い布を羽織った女が倒れている。

 通行人がたまたま発見し、介抱する。


「おい、大丈夫か!?」


 女は長い金髪で青い瞳、素朴な衣類を着ており、容姿は美しかった。

 しかし、通行人は女の耳を見て驚いた。

 常人より長く、鋭く尖っていたのだ。


「……!? これってもしかして、エルフか……!? と、とにかく運ばないと!」



***



 ロクスの町の診療所に、エルフらしき女は運ばれた。

 しばらくベッドで眠っていたが、やがて目を覚ます。

 上体を起こし、きょろきょろする。


「うう……ここは……?」


「ここはロクスの町、私が町長のスタットだ」


 町民の要請を受け、スタットが駆けつけていた。


「ロクスの町……」


「君は町の入り口で行き倒れていたのだが、よかったら名前などを教えてもらえないか?」


「分かった。私は……エルフのルカナという」


 その場にいた全員がざわつく。


「エルフ……!?」

「や、やっぱり……!」

「ひいい……!」


 これを見てルカナは表情を暗くする。

 そんな中、スタットだけは態度を変えず、町長として接する。


「ルカナさんとやら、君はこれからどうしたい?」


「……私にはどこにも行くあてがない。できれば、この町にしばらくいさせて欲しいのだが……」


「う、ううむ……」


 この頼みにはスタットも難色を示す。


 エルフとは人間に近い少数種族。

 不思議な力を持つため、人間から迫害された過去もある。

 現在ではそういった表立った迫害こそやんでいるが、未だに彼らは偏見の目に晒されている。

 スタットとしても、差別するつもりはないのだが、町に住まわせるというのにはやはり抵抗を感じ二の足を踏んでしまう。


「私の一存では決められないので、領主様に決めてもらうしかない」


「……承知した」


 この時点でルカナはこの町に住めることを諦めていた。



***



 スタットはルカナを連れて、現領主アルゲンのいるモレス家邸宅にやってきた。

 門にて、メイドのサティが出迎える。


「あら町長さん。その方は?」


「エルフのルカナさんだ」


「……! まぁ……」


 初めて見るエルフにいつも冷静なサティも目を見開く。

 一生のうち一度エルフを見ることのできる確率は、国王を見られる確率よりも低いと言われるので当然ともいえる。


「しばらくこの町に住みたいとのことなので、アルゲン様に相談しに来たのだ」


「分かりました。すぐ呼んで参ります」


 邸宅の応接室にて、スタットとルカナが、アルゲンとエレンシアと会う。

 相変わらずアルゲンは紫色のスーツを着て、エレンシアは派手な赤いドレスを纏っている。

 アルゲンとエレンシアはルカナの素性を知っても、表情は全く変わらなかった。まるで世間話のように淡々と話す。


「エルフ? ふーん。だったらこういう奴のために父上が臨時で住めるようにしてる家を用意してたろ。しばらくそこに住まわせてやったらどうだ? 正式に住民として迎え入れるかはそれから考える」


「それでよさそうね」エレンシアもうなずく。


 アルゲンにしては珍しくまともな対応だったので、スタットは驚いてしまう。


「分かりました……。では、そのように手配します」


「頼んだぞ、愚民町長」


「ええ、お任せを」


 スタットもアルゲンの愚民呼ばわりにはすっかり慣れている。

 すると、ルカナが声を上げた。


「あ、あのっ!」


「ん?」


「どの町に行っても、追い出されてしまった私を、どうして住まわせてくれる? そもそもなぜ、私を見ても何も驚かないんだ?」


 アルゲンはきょとんとする。


「驚くって……なんで俺が驚かなきゃならねえんだよ」


「だって私はエルフなのに!」


「ハァ? 知るかボケェ!!!」


 アルゲンはいきなりキレた。


「エルフってのは少数種族らしいが、だからって俺が特別扱いすると思ったら大間違いだぞ! 俺はそんな甘い領主じゃねえんだ!」


 アルゲンが胸を張ると、エレンシアもその肩に触る。


「よく言ったわ、アルゲン! 素敵!」


「ハハハ、エレンシアにそう言ってもらえると照れるな……」


 見つめ合い、顔を赤らめる二人。二人の世界に入ってしまった。

 そんな二人にサティとスタットは呆れるが、ルカナは感激している。


「ありがとう……。人間から差別されなかったのはこれが初めてかもしれない」


 すると、アルゲンは首を傾げる。


「何言ってんだ? お前」


「え?」


「差別ならしまくってるぞ」


「しかし、こうやって町に住まわせてくれるのに……」


 アルゲンは前髪をさっとかき上げる。


「分からないなら教えてやろう。俺にとってこの町の住民は愚民! つまり全員、差別対象だ! ……おっと、エレンシアは除くがなァ! ハーッハッハッハ!」


「オーッホッホッホ、その通りよ! 庶民たちなど私たちにとっては卑しい差別対象に過ぎませんわ!」


 ルカナは唖然とする。

 スタットはため息をつき、サティは「いつもこんな感じですので」とルカナに告げた。

 そしてサティとスタットは改めて思った。

 この町に今更エルフの住民が増えようとどうってことない。だって、この二人がいるのだから。

 どんな前歴のある者がここに来ても、二人には敵わないと感じた。


 一通りの手続きを終え、アルゲンが言う。


「ところで、ルカナ……だったか。どうやって生計を立てるつもりなんだ? 何かできるのか? 職業訓練を受けることもできるが……」


「私は魔法を使える。その力で薬を精製することも可能だ」


「魔法、ね。エルフが使える秘術だったか。どんなのがあるんだ?」


「例えば火を出したり」


 ルカナが掌に火を出す。

 スタットやサティは驚くが、アルゲンはムスッとする。


「俺だって火ぐらい出せる!」


 キッチンに出向いて、戻ってきたアルゲンは火打ち石を打ち付けて火花を出す。


「雷を出したり」


 ルカナが掌にバチバチと雷を出す。


「俺だって雷ぐらい出せる!」


 スーツを脱ぎ、下に着ていたセーターを激しくこすり、アルゲンは静電気を出す。


「ちなみにこのセーター、エレンシアのお手製だ!」


 自慢話も忘れない。エレンシアは「アルゲンったら」と頬を赤らめる。


「水を出したり」


 ルカナが掌に小さな水柱を浮かべる。


「俺だって水ぐらい出せる!」


 アルゲンがズボンのベルトに手をかける。

 すかさずサティが拳を握り、睨みつけた。


「殴りますよ? 本気で」


「わ、悪かった……」


 エレンシアは「見たかったわ! アルゲンのお水!」と残念がった。

 スタットに至っては、最初から会話についていく気すらなくマイペースで紅茶を飲んでいる。


 ルカナは苦笑いしつつも、「住まわせてくれてありがとう」と去っていった。


 それからというもの――

 ルカナの作る薬はよく効き、町の住民からも好評だった。


「あのエルフさんの薬、よく効くよなぁ」

「おかげで腰痛が薄れたよ」

「私も風邪をひいてたけど、すぐに治ったわ!」


 アルゲンはそれを聞き、微笑む。


「結構役に立ってるようだな、あのルカナとかいう愚民エルフは」


 エレンシアが相槌を打つ。


「アルゲンも薬を買いに行ったら?」


「いーや、俺は今んとこ健康だからな!」


 アルゲンは両腕で力こぶを作るポーズを取る。


「それに、頭につける薬はないと言いますしね」


「どういう意味だ!?」


 アルゲンが怒るとサティはそそくさと逃げるように去っていった。

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― 新着の感想 ―
利く利かないじゃない! もしアルゲンがまともになったら面白くないじゃないか。 町の人たちにとってもだよ。「普通」になったら税金だって元に戻るかも知れないんだぞ?
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