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砕けた光の中で目を覚ます

金属が軋む嫌な音と、視界を覆う白いヘッドライト。

 誰かが叫ぶ声。自分の名前を呼ぶ声。

 そして——温かい手が、僕の指先に触れた。


「……悠真、だいじょう——」


 最後に聞こえたのは、妻の震える声だった。


 衝撃。浮遊感。

 すべてが砕け散っていくような感覚のあと、世界は一度、完全な静寂に沈んだ。


 次の瞬間だった。


 ——カリッ。

 耳元で、チョークが黒板を走る乾いた音がした。


「……え?」


 ゆっくりと目を開けると、そこには見慣れた教室があった。

 午後の光がカーテン越しに差し込み、机の上のプリントに淡い影を落としている。


 この教室を、僕は知っている。

 いや、忘れられるはずがない。


 十年前の、高校二年生の教室だ。


「なんで……?」


 席を立つと、周りの生徒たちが普通に談笑している。

 スマホをいじる者、窓の外を眺める者、授業の準備をする者……

 すべてが、あの日々の“日常”そのものだった。


 夢だ、と思った。

 でも頬をつねると、はっきりと痛みが走る。


「……本物、なのか?」


 教師が入ってくる。チャイムが鳴る。

 時間は容赦なく前に進む。


 だからこそ、僕の心臓は強く脈を打ち始めた。


 ——妻も、この世界にいるのか?


 その考えが浮かんだ瞬間、胸の奥がひりつくように痛んだ。

 あの最後の声。あの温かさ。それをもう一度感じられる可能性。


 気づけば、僕は席を飛び出して走っていた。



 校舎の掲示板。

 クラス名簿の紙に、僕の視線は吸い寄せられる。


 震える指で、妻の名前——**「如月 遥」**を追った。


 ……しかし。


 どこにも、ない。


「……え?」


 探し間違えたと思った。

 何度も、何度も文字を追い直す。

 三年分の名簿を確認する。

 転入・転出の記録も全部調べる。


 でも——どこにも、遥の名前は存在しなかった。


「そんなはず……ないだろ……!」


 彼女は僕と同じ高校だった。

 それは紛れもない事実。

 出会ったのは大学だが、互いに「同じ高校だったんだ」と笑い合った記憶は確かにある。


 なら、どうして——?


 そのとき、名簿の端にある“妙な空白”に目が止まった。

 まるで、誰かの名前が最初から消されたような、不自然な余白。


 背筋が冷たくなる。


「……遥。君は……どこにいる?」


 答えのない廊下に、僕のかすれた声だけが落ちていった。


 この日、僕はまだ知らなかった。


 ここは「ただの十年前」ではない。


 そして、妻を探す旅が、想像を超える“迷宮”になることを——。

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