焔の少女と、選ばれなかった者たち
“焔紋”を宿しながらも戦わない少女。
今回は、彼女の口から語られる“実験”と、“選ばれなかった存在”の意味に焦点が当たります。
レオンは迷い、ガラードは見抜こうとする。三人の心が交差する一話です。
少女の手のひらに浮かぶ、焔の紋様は、確かに“それ”だった。
だが彼女は言った。
「わたし、たたかわない」
その一言に、レオンは武器を下ろした。
焔紋の兵――あの“赤い鎧の騎士”たちと同じ力を持ちながら、彼女は敵意を見せなかった。
その事実が、どこか信じたい気持ちを揺さぶった。
広場にある崩れかけた家屋へ移動し、三人は身を隠した。
少女は名を名乗らなかった。
問いかけには答えず、ただぽつりと語り始めた。
「“選ばれなかった”の。わたしは……」
ガラードの目が鋭くなる。
「実験体だった、ということか」
少女は首を振る。「すこし、ちがう」と。
「“つくる”ために、生まれた。たたかうための子を、“つくる”ために」
沈黙。
レオンは理解が追いつかないながらも、少女の言葉に耳を傾けた。
彼女の言う“焔紋の兵”とは、どうやらただの強化兵ではなく、人工的に“力を継がせる”存在らしい。
そして、彼女は“適合しなかった”。
「だから、のこされた。のこしてくれた。たたかわなくて、いいって」
レオンの胸がざわつく。
兵器として“使えない”というだけで、置き去りにされたのか。
「お前が、ここで何をしていたのかは知らんが……」
ガラードが低く言う。
「焔紋を持つということは、それだけで危険だ。“使える”と判断されれば、お前も戻されるぞ」
「にげてる。だから、ここにいた」
少女の声は震えていない。ただ静かだった。
ふと、ガラードが立ち上がる。
「レオン。少し離れるぞ」
「え?」
「“話をする”のは、俺たちの方だ」
少女に「ここで待て」と言い残し、ガラードはレオンを連れて焼け跡の隅に移動した。
「……お前はどう考える。レオン」
「助けるしかないだろ。あんな子、ほっとけないよ」
「お前ならそう言うと思っていた」
ガラードは空を見上げた。
「だがな、あの子を保護すれば、敵の狙いは“こちら”に向く。それでも、お前は――」
「うん。連れて行こう」
迷いはなかった。
それが、レオンの答えだった。
【次話予告】
第十話『焔の印を抱いて』
→ 少女を連れ、再び歩き出す三人。
しかし彼女の存在は、静かに“敵の目”を引き寄せていた。
焔紋という“印”が、世界の真実へと繋がっていく。