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灰の村と、名もなき少女

焼け落ちた村と、無言の少女。

今回は、言葉なき出会いのなかで揺れる“信じる”という想いがテーマです。

焔紋の影を追う旅の途中、レオンは試されることになります。

焼け跡の匂いが、風に乗って鼻をついた。


 谷を越えた先にあった村――名前すら看板ごと焼け落ち、もはや知ることはできなかった。

 ガラードとレオンは、慎重に足を踏み入れた。


 建物はすべて黒く焦げ、倒壊している。

 火事というより、炎による“破壊”だった。


「……ここも、か」


 ガラードの言葉に、レオンは何も言えなかった。


 二人は無言のまま、中央の広場へと向かった。


 すると――


「誰か、いる」


 レオンがそう呟いたのは、焼けた井戸のそばに、背を向けて佇む“何か”を見つけたからだ。


 少女だった。


 まだ十代前半、年齢はレオンよりも少し下だろうか。

 ボロボロの外套を羽織り、焼け跡の中に膝を抱えて座っていた。


「おい、大丈夫か?」


 声をかけるが、反応はない。

 怯えているのか、もしくは……


 ガラードが一歩前へ出た。


「――待って」


 レオンが思わず制止した。


「俺が、行くよ」


 ゆっくりと歩み寄る。


 少女は動かない。震えてもいない。ただ、何かを見ていた。


 レオンがその目線を追うと、焦げた地面の上に、小さな“花”が一輪だけ咲いていた。


(焼け跡の中に……生きてる)


「……きれいだな」


 レオンの言葉に、少女の肩が、わずかに動いた。


「怖くないよ。僕たち、君を助けたいだけなんだ」


 少女の目が、ようやくこちらを向いた。


 その瞳に浮かんだのは――“迷い”。


 そして、レオンの背後から、突如“魔力の気配”が走った。


「レオン、下がれ!」


 ガラードが声を張り上げる。


 空中に、赤い矢が浮かび上がる。焔紋の兵だ。


「……罠だったのか!」


 レオンが剣を構え、少女を庇うように前へ出る。


 だが、矢は放たれなかった。


 焔紋の兵が、その場で動きを止めている。


 そして――矢が、ゆっくりと霧のように消えていった。


 気づけば、少女の手が、赤く光っていた。


 その掌に浮かぶ、焔の紋様。


「君……!」


 レオンが言葉を失う中、少女は小さく首を振った。


「わたし、たたかわない」


 それが、彼女の最初の言葉だった。

【次話予告】

第九話『焔の少女と、選ばれなかった者たち』

→ 焔紋を宿しながらも戦わぬ少女。

彼女は敵なのか、それとも異端か。

明かされる実験の断片と、レオンの“迷い”。

物語は“個”の選択に踏み込んでいく。

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