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追跡、そして狙撃者の影

戦場は剣が届く距離だけじゃない。

今回は、レオンが初めて“狙撃”という脅威に晒されます。

剣では守れない命、届かない距離、そして、それでも立ち上がる決意。

息を呑む静と動の戦を、ぜひお楽しみください。

山道は静かだった。


 トロア村を後にして三日。

 レオンとガラードは、焼け跡に残された足跡と、僅かな破片を手がかりに、山を下っていた。


「奴ら、帝国方面に向かっているな……」


 ガラードが地面をかがみ込みながら呟いた。


 踏み跡は重く、明らかに人間のものとは異なる。

 何かを引きずった跡も混じっている。


「まだ襲う気なんですか……」


「“誰か”が操っている限り、奴らは止まらん」


 レオンは、拳を握った。



 昼も近づいた頃。

 二人は、谷を挟んだ斜面の道に差しかかった。


 そこは断崖沿いで、両脇がすっぱりと切り落とされている。

 一見、視界は開けているが、周囲に点在する岩の陰や木々が、死角を生んでいた。


 その時――ガラードが、レオンの肩を押した。


「伏せろ!」


 次の瞬間、空気を裂くような鋭い音。


 レオンのすぐ頭上を、紫色の矢が掠めていった。


「な、なんだ今の……!」


 矢は、どこにもいないはずの“高所”から放たれていた。


「狙撃手だ。魔矢だな」


 ガラードの声が低くなる。


「しかも、よく訓練されている……通常の山賊じゃない。おそらく――あれも“焔紋”」


 言葉を終える前に、二本目の矢が放たれる。

 ガラードは岩陰に滑り込み、レオンを手招きした。


「こっちだ、レオン!」


「……でも、姿が……!」


 レオンは剣を構えるが、斬るべき“影”が見えない。

 恐怖がじわじわと喉元に迫ってくる。


(このままじゃ、何もできない……!)



 やがて、矢の放たれるリズムが崩れ始めた。


「奴は動いた。狙撃位置を変えてきたな」


 ガラードはそう言うと、崖沿いに身を滑らせ、回り込む。


「レオン、お前はここにいろ。動くな。奴の視線を引くな」


「……でも!」


「剣では届かん」


 その一言が、胸を貫いた。


(剣じゃ、届かない……)


 それは、レオンにとって“初めての敗北”にも似ていた。


 だが、だからこそ、考える。


 自分は、剣以外に何ができる?


 そのとき、レオンの脳裏に、**さっき見た“炎の矢”**の軌道が蘇った。


(あの矢――魔力によって放たれていた……なら、軌道と風、そして……)


 レオンは、岩を少しだけ蹴って転がす。


 その岩が、狙撃者の視線を引いた瞬間――矢が放たれた。


(読めた!)


「師匠!三時の方向、斜面の上――木の根元に!」



 次の瞬間、ガラードが地を駆け、空気を裂いて跳んだ。


 刃が閃き、木の陰から飛び退く黒い影が、斬撃とともに崩れた。


 それは、漆黒のマントに身を包み、仮面をかぶった男。

 全身に赤黒い紋様が刻まれている――焔紋の兵、狙撃手だった。


「……見事な索敵だったな、レオン」


 ガラードの言葉に、レオンは苦笑いを浮かべた。


「届かないって……思ってました。剣じゃ、って。でも……届かせる手は、あるって思ったんだ」



 戦いのあと。


「……狙撃は“偶然”じゃないな」


「どういうことですか?」


「我々を待ち伏せていた。つまり、足取りを“誰か”に見られていたということだ」


「じゃあ……あの兵士に、命令を出していた誰かが――」


「ああ。“焔紋の兵”は命令にしか動かん。つまり、敵は……“こちらを警戒している”」



 日が落ち、ふたたび歩き始める二人の背に、赤く染まった空が広がっていた。


 新しい戦いの形。剣だけじゃ守れない命。


 それでも――進むしかない。

【次話予告】

第八話『灰の村と、名もなき少女』

→ 廃墟と化した村の遺跡で出会う、一人の“少女”。

彼女は敵か味方か、それとも――

沈黙の中に隠された真実が、レオンの心を試す。

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