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ガラードの過去と焔紋の謎

物語の背景に踏み込む静かな回です。

赤い鎧の兵たちの謎、そしてガラードが抱える過去が、少しずつ明らかになっていきます。

レオンの内面と成長も、ぜひ見届けてください。

傷は深くなかったが、痛みはずっと残っていた。


 ガラードに助けられたあの戦いの後、レオンは山の中腹にある古い小屋で手当てを受けていた。

 かつて帝国の遠征隊が一時的に使用していた避難小屋だという。


 薄暗い部屋。木材のにおい。冷たい水を張った桶。

 そして、腕に巻かれた包帯の白が、やけに目に染みた。


「……俺、結局なにもできなかった」


 ぽつりと漏らした言葉に、ガラードは火をかきながら返した。


「斬られなかった。それで十分だ」


「でも……あの時、俺、怖くて動けなくて……」


「恐怖を知ることは、悪いことではない」


 火の揺らめきが、ガラードの横顔を照らしている。

 その表情は、いつもよりも少しだけ静かで、遠くを見ているようだった。


「――あれは、“焔紋の兵”だ」


 レオンはその言葉に顔を上げた。


「……“えんもん”?」


「昔、帝国が秘密裏に進めていた計画があった。兵士の肉体に“紋”を刻み、魔力と感情を封じて、ただ戦う道具に変える……そんな“強化騎士”の研究だ」


「……それって、まさか……」


 レオンの脳裏に、あの赤い脈動を続けていた鎧の紋様が浮かんだ。


「あの計画は失敗し、記録ごと葬られた。だが――」


 ガラードは火の中に薪を落とした。ぱちん、と小さく爆ぜる音。


「何者かが、それを復活させた。そして……利用している」



 静かだった。


 重い事実を聞かされても、レオンはすぐに反応できなかった。


「……師匠は、その計画に……?」


 問うたその声は、どこか震えていた。


 ガラードは一瞬だけ目を閉じ、ゆっくりと頷いた。


「私は……かつて、あの兵たちを鍛えた側の人間だった。

 だから、あの戦いにおいて“斬る手順”を知っていた。それだけのことだ」


 レオンは何も言えなかった。


 自分が尊敬し、憧れていた騎士が、かつて“人の心を奪う計画”に関わっていたという事実。

 それは簡単には消化できる話ではなかった。


 だが――


「それでも、俺……師匠を信じます」


 レオンは、そう言った。


「過去がどうあっても、今の師匠が“守る剣”を振ってくれていること……俺は、見たから」


 ガラードは何も言わなかった。

 ただ、薪の火が大きくなったような気がした。



 その夜。レオンは剣を握った。


 抜き身のまま、静かに構える。


 震えはなかった。


 斬れるとは限らない。勝てるとも限らない。


 けれど、誰かの命を守る剣になるために、もう一度だけ立とうと決めた。


 そして、心の中で、誓った。


(次は……俺が、前に出る)


【次話予告】

第七話『追跡、そして狙撃者の影』

→ 襲撃の痕跡を辿り、山を下るレオンとガラード。

そこに現れたのは、異様な“狙撃の使い手”――

初めての遠距離戦に、剣は届くのか。


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