赤鎧の男たちと、燃える村
村を襲った“何者か”との遭遇。
これまでとはまったく異なる、“人の形をした敵”との初交戦が描かれます。
レオンにとっての剣の意味、そして戦いの現実が、ここから本格的に動き出します。
赤い風が、山を下った先の村に吹き荒れていた。
草も木も、家々も、何もかもが焼けていた。
黒く焦げた家の壁。地面に転がる、ひしゃげた鍋。
そして、血の跡――人の形に残された影。
レオンは、息を呑んで立ちすくんだ。
「これが……“戦争”……?」
足元で、まだ燻ぶっている家の柱が、ぼたぼたと崩れる。
村の名前は《トロア》。アルス村よりも少しだけ大きな、交易の拠点だったはずだ。
だが今、その面影は一切残っていない。
「……生存者は?」
ガラードが静かに尋ねる。
レオンは、首を横に振った。
答えたくなかった。目にしたものが、現実だと認めたくなかった。
*
そのときだった。
「――……キ、シ、カ……ナイ……」
ひび割れた地面の向こうから、妙にくぐもった声が聞こえた。
レオンとガラードが振り向いた先に、それはいた。
漆黒と深紅の混じる甲冑。
全身を鎧に包み、面頬すら隠すその姿。
しかし、明らかに普通ではなかった。
炎に包まれた空気の中で、鎧の模様が赤く脈動している。
「……あれが、“赤鎧”の兵士……」
レオンが剣を抜こうとした瞬間、ガラードが手で制した。
「下がっていろ。あれは、貴様の剣では斬れん」
その言葉の意味はすぐに明らかになった。
赤鎧の兵が、重々しい足音とともに近づく。
その右手には――炎をまとった剣が握られていた。
「燃える……剣……っ!?」
剣先を振ると、空気が熱で歪んだ。
レオンは、本能的に身構えた。
次の瞬間――
赤鎧の兵は地を蹴り、レオンへ向かって突進してきた。
(来る……! 逃げられない――!)
咄嗟に短剣を抜いて受け止める――が、
「うっ……がっ!!」
衝撃で全身が吹き飛ばされる。
手がしびれて動かない。短剣は弾き飛ばされ、地に落ちた。
(だめだ、力が……まったく違う……!)
震える身体をなんとか立たせようとしたとき、ガラードが前に出た。
*
「――貴様に、それを振るう資格があるか」
低い声。だが、それは空気を切り裂く“圧”となって赤鎧の兵にぶつかった。
ガラードは、鞘から剣をゆっくりと抜き、ひと息で構える。
「見ておけ、レオン。これが、“技”だ」
一瞬の静寂。次の瞬間――
ガラードが踏み込み、横一閃。
「斬ッ!!」
重い音とともに、赤鎧の兵の身体が、真っ二つに裂けた。
火花が散り、鎧の中から黒い霧のような“なにか”が噴き出して、霧散した。
レオンは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……あれは、人じゃない……」
それは、人の形をしていただけの“兵器”だった。
*
戦いの後。ガラードは言った。
「これから、こういう敵が増える。貴様の剣も、ただ振るうだけでは通じぬ」
レオンは唇を噛み締め、強く頷いた。
もう逃げられない。
守るためには、通じる剣を、学ばねばならない。
【次話予告】
第六話『ガラードの過去と焔紋の謎』
→ 帝国騎士だった男が、なぜ辺境にいたのか。
そして、“赤い鎧”を纏う兵たちの正体とは何か。
過去が語られ、未来が動き出す。