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試練の山道と赤い風

今回は日々の修行から一転、外の世界に異変の兆しが現れます。

“赤い鎧”の兵士とは何者なのか――物語が広がる転機となる回です。

静かな日々が、崩れ始めるその瞬間をぜひ読んでください。

剣を振る音が、山の空気を切り裂いていた。


「もっと腰を落とせ、腕に頼るな!」


「っ、はいっ!」


 レオンは汗まみれになりながら、何度も何度も短剣を振る。

 手首にはすでに痛みが走り、指の皮はところどころ剥がれていた。


 それでも、やめなかった。

 この剣に、意味を持たせるために。


 炎のように熱い日差し。時折吹き込む山風。

 ガラードの厳しくも的確な指導。


 そんな日々が、静かに積み重なっていた。



 夜になり、焚き火の前で干し肉をかじりながら、レオンはぽつりと口を開いた。


「ガラードさん……師匠は、戦うのが怖くなったことってありますか?」


「ある」


 即答だった。


 レオンは思わず目を見張った。

 あの強靭な背中の持ち主が、恐怖を感じることなどあるのかと。


「人を斬るたびに、“これが正しいのか”と問い続けていた。

 だがな、レオン。正しいと信じられぬ剣は、すぐに折れる。

 だからこそ、己の信じた“守るべきもの”を、見誤るな」


 その言葉が、胸に深く突き刺さった。


 ――守るべきもの。

 レオンには、まだ分からない。けれど、いつかきっと掴むと信じた。



 その夜――山の向こうに、火の手が上がった。


「……なんだ、あれ……」


 遠く、尾根の先。赤い煙が空へと昇っている。


 焚き火の火に照らされたレオンの顔が強張る。


 そして、ほどなくして。

 山道をふらつくように歩いてきた旅人が、一行のもとに倒れ込んだ。


「た、助けて……村が……襲われて……っ」


 その男は、体のあちこちに火傷と切り傷を負い、見るも無残な姿だった。


「……盗賊か?」


 ガラードの低い声が、風に溶ける。


 旅人はかすれた声で言った。


「いや……違う……奴らは“人じゃない”……赤い鎧に……燃える剣を……っ!」


 レオンの背筋に、ぞわりと寒気が走る。


 人ならざる者。赤い鎧。燃える剣。


 まるで、帝国の戦記物に登場するような“呪われた兵”のような――。


 男が語る声は、途中で途切れた。

 すでに意識を失っていた。



「……俺たち、どうするんですか……」


 レオンの声はかすれていた。

 初めて、人の争いに足を踏み入れるかもしれない現実に、恐怖を覚えていた。


 ガラードは一歩、空を見上げて言った。


「行くぞ。戦うためではない。――守るために、だ」


 その言葉に、レオンは拳を握った。


 今度は、命を奪う覚悟ではない。

 命を救うための、剣を――


【次話予告】

第五話『赤鎧の男たちと、燃える村』

→ 焦土と化した村に踏み入るレオンたち。

炎の中に現れた、異形の兵たちとその恐るべき“力”――

初めての“人型の敵”に挑む、騎士見習いの剣が唸る!

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