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最初の試練、血と誓い

ご閲覧ありがとうございます。

第二話では、レオンが初めて“命”と向き合う試練に挑みます。

少年が騎士になるための、第一歩の物語。よければ最後までお付き合いください。

レオンが村を出てから、二日が経った。


 冷たい風が吹き抜ける山道を、彼は黒騎士・ガラードの後ろ姿だけを頼りに歩いていた。


 無言の時間が続く。


 ガラードは必要最低限しか言葉を発さず、道中の会話も皆無に近かった。

 けれど不思議と、その沈黙は苦ではなかった。むしろ、彼の背に感じる圧倒的な存在感が、レオンに安心感を与えていた。


(本当に、ついてきてよかったのか……?)


 時折そんな思いがよぎる。

 村での生活がいくら苦しくても、命の危険はなかった。

 だが、この旅は違う。いつ何が襲ってくるかもわからない。

 実際、帝国騎士の修行に“死”がつきまとうことなど、どこか遠い話だと思っていた。


 だがガラードは、その幻想を打ち砕くように言った。


「……貴様に、最初の試練を与える」


 その言葉が投げられたのは、三日目の朝。

 ガラードが立ち止まり、崖沿いの小道を指差した。


「この先に、“山犬ハウンド”の巣がある。手負いの個体が一頭、周囲に潜んでいるはずだ」


「……俺が、倒すんですか?」


「ああ。自分の手で、殺せ」


 心臓が跳ねた。言葉の意味は、あまりに明快だった。


「……人を、傷つけたこともないのに……」


 レオンの声は震えていた。

 生き物を殺したことなどなかった。ましてや、それが牙を向けてくる魔獣ならば。


 だが、ガラードの表情は一切変わらない。


「命を守る者になりたいのなら、まず“命を奪う覚悟”を知れ。でなければ、剣はただの棒だ」


 厳しい現実だった。

 それでも、レオンは頷いた。


 逃げたくなかった。

 強くなりたいと望んだのは、自分自身だから。



 洞窟の中は暗かった。


 湿った空気と、獣の臭いが鼻を刺す。

 手には、ガラードから渡された短剣が握られている。

 震える手を無理やり止めながら、足を一歩、また一歩と進めた。


 その時だった。


「――ッ!」


 茂みが揺れ、獣が飛びかかってきた。


 鋭い牙と、泥まみれの毛並み。

 レオンの身体が本能的に飛び退く。


 恐怖が脳を支配する。逃げ出したいという衝動が全身を走る。


 だが――目の前にある“殺意”は、まぎれもない“現実”だった。


(逃げたら、俺は……)


 ガラードの言葉が蘇る。


「生きて戦うか、何も得ずに死ぬか。選べ」


 レオンは、短剣を握り直した。


 獣が再び飛びかかる。

 その一瞬、身体が勝手に動いた。


「うああああああッ!!」


 叫びながら、獣の腹に向かって突き出した短剣が、肉を裂く感触を伝えてきた。

 温かい血が腕に飛び散る。


 息を呑む暇もなく、獣がもがき、倒れ、動かなくなった。


 静寂が戻った。


 レオンはその場にへたり込み、呼吸を整える。

 そして、自分の手を見た。


 血に染まった指先。震えは止まらない。


 けれど、逃げなかった。


 それが、第一歩だった。



「……よくやった」


 洞窟の外で待っていたガラードが、珍しく言葉をかけた。


 レオンは黙って頷く。

 涙が出そうだったけれど、必死にこらえた。


 この痛みも、恐怖も、全部、自分の中に刻んでおく。

 それが、自分が選んだ“道”だから。


 そして彼は、初めてガラードの前で、胸を張って立った。


【次話予告】

第三話『黒の誓約、師弟のはじまり』

→ 初めての戦いを終えたレオンに、ガラードが語る“剣の意味”。

その夜、焚き火の傍らで交わされるのは、戦場を生き抜くための掟――

「お前に剣を教える。だがそれは、誰かを救うためだけに振るう剣だ」

師弟の絆が、静かに生まれ始める。

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